23. 麗日の景色の全てを、貴方へ





通された部屋は、おそらくこの姮娥楼で最も良い部屋。うん、センスがいいねぇ。それに胡蝶さんの雰囲気にもよく似合ってる。こんなところで毎晩楽しんでるんですか、楸瑛さん。王様付きの将軍って、そんなに儲かるものなんですか?
あーそれにしても胡蝶さん、本当にお美しい。お会い出来て光栄です!
「・・・・・・藍様が結婚してたなんて、全然知らなかったよ」
驚いていても胡蝶さんは声まで麗しい。さっきから額を押さえて動かなくなっていた楸瑛さんも、ようやく反論出来るまでに回復したらしく、ぐったりとした声で答える。
「・・・・・・違うよ、胡蝶。彼女は私ではなく、私の兄たちの寵姫だ」
「お初にお目にかかります、胡蝶さん。いやーお噂はかねがね伺っておりましたけれど、それ以上のお美しさですね。これは楸瑛さんが花街に入り浸って帰ってこないわけですよ。でもここでこうしてお会い出来たこと、とても光栄に思います。です。どうぞよろしく」
にっこり笑って手を差し出すと、胡蝶さんは目をパチパチと瞬いた後で笑い出した。声まで上げて、それはそれは楽しそうに。
「あははっ! なるほどね、さっきのは藍様への演技だったのかい。このあたしともあろう者が見事に騙されたよ」
「焦点はむしろ女性でしたから。噂が広まって、楸瑛さんもしばらくは花街に来れませんね。あ、でもその代わりに私がお伺いしてもいいですか? 胡蝶さんと素敵な一夜を過ごしたいなぁって」
「もちろんだよ。藍家の当主様よりも熱い一夜を過ごさせてあげるよ」
「ありがとうございます」
やー妙艶に笑う胡蝶さんも素敵! 見事な大人の色気だなぁ。これは私も見習わないと。愛の紋章で28歳の姿になったら、ちょっと実行してみよう。
そんな感じで胡蝶さんとほのぼの会話をしていると、ようやく復活したのか楸瑛さんが身体を起こした。うわー顔が渋面になってるよ。でも楸瑛さんが悪いんですよ。私の睡眠時間を削ったんですから。
「・・・・・・殿、私に何の用かな? 私と君の間では、互いに個人的な面までは関わらないという暗黙の了解があったと思うのだけれど」
「暗黙は所詮暗黙ですよ。人間は個別に思考を持った生き物ですからねぇ。相互理解には、やっぱり言葉を用いらなくちゃ。恋愛も始めの一歩は告白でしょうし」
「君は時々、私にとても厳しくないかい・・・?」
「そう感じる楸瑛さんは、どこか心当たりがおありの様子。それを裏付けるような一品を、今夜はお持ちしてみましたよ」
取り出したのは、もちろん例の文箱。一瞬眉を跳ねて、でもって中身に検討がついたのか、楸瑛さんは実に嫌そうな顔をした。おいおい、女遊びを楽しむのなら、最低限のルールは守ってもらわなきゃ。楽しそうに観戦なさってる胡蝶さんも、そう思いますよねぇ?

さぁ、藍邸の主様。どうぞ文箱をお開け下さいませ。
玉手箱だったりしたら個人的には楽しそうなんですけれど。楸瑛さんご自身のためにも、それがよいと思いませんか?





愛の紋章→笛ポタ幻想水滸伝参照。
2006年8月31日