21.高鳴る鼓動は警告の音





楸瑛がその報を聞いたのは、日付が変わって少し経った頃だった。
馴染みの姮娥楼で、これまた馴染みの胡蝶を相手にし、ほどよく酒も入って気持ちよくなってきて、これからが妓楼の本番といったところで扉越しに声がかかったのである。
まだ妓女ではなく見習いであろう少女は、いつもは楸瑛を見て頬を染めるのだが、今日だけは違った。固く、睨むかのようなまなざしで楸瑛を一瞥し、冷ややかに告げる。
「藍楸瑛様に、お客様がいらしております」
「客? 藍様にかい?」
胡蝶に視線を向けられたけれども、楸瑛に心当たりはない。首を傾げた彼に少女は更にまなじりを吊り上げる。
そして放たれた言葉は、楸瑛の度肝を抜くどころか、彼を硬直させるのに十分足るものだった。

「私、知りませんでしたっ! 藍様にあんな可愛らしい奥方様がいらしたなんて!」

・・・・・・私も知らない。
驚きに満ちていた楸瑛は、それさえ言うことが出来なかった。





とても嫌な予感がするんだけれど、どうしてだろう。ねぇ、胡蝶・・・。
2006年8月30日