20.舞い散る花びらに世界が映る
私と楸瑛さんは毎朝一緒にご飯を食べているけれど、実際のところ夜は互いに不可侵だ。楸瑛さんは私の眠りを妨げないし、私は楸瑛さんの夜遊びを妨げない。ある種のギブ・アンド・テイクが成立していたけれど、それも今日でお仕舞です。寝付こうとしてた私の邪魔をした罪は重い。身を持って知って頂きますよ、楸瑛さん。そして女は恐ろしいのだということもね!
深夜だというのに輝く街並み。むしろ今が昼だと主張せんばかりの色彩は、実に見事で感嘆するよ。結構好きなんだよね、こういう空気も。
ちらちら視線を向けられているのを気にしてか、護衛さんがそっと小さな声で言ってくる。
「・・・・・・様、やはりここは女性には相応しくありません。私共が参りますから、様はどうか邸にお戻り下さい」
「そんなもったいない。実は一度来てみたかったんですよねぇ。姮娥楼といえば花街でも一・二を争う老舗の名店。しかもそこの胡蝶さんと聞いた日には黙って留守番出来ませんって」
「ですが・・・・・・」
「それに、女性が珍しいからこそ噂話も速さを増すってものでしょう?」
さぁ行きましょう、いざ決戦の地へ。
一歩踏み出すと、自然に人波が避けて道を開けてくれる。見事なモーセの十戒。
記念にお店の二階から客引きをしているお姉様方に、はかない視線なんか向けちゃいましょう。ふふふ、楽しくなってきた。こんなイベントを与えて下さってありがとうございます、楸瑛さん。
だけど先に謝っておこう。ごめんなさい。所詮は魔女っ子、女の子の味方なのです。美少女美少年の味方なのですよ。
楸瑛さんも後10年若ければ、いいとこいったんでしょうけどねぇ。あぁ残念!
比重はちょっと、楸瑛さん<胡蝶さん。
2006年8月30日