19.箒を構えてプレイボール





置いていかれた、一つの書簡。
書簡というよりは文かな。繊細な箱に入ってるし、まさに箱入り娘風な気配を感じます。つまり差出人は女性。じゃあ宛先は、間違いなく楸瑛さんだ。100分の100の確率で?
「んー・・・・・・どうしましょうか。残念ながら藍邸の主様は不在なんですよねぇ」
文箱を前に首を傾げてみる。机の向かいでは穏やかな年嵩の家老さんが、にこにこ笑顔で勧めてくるよ。
「使者の方は『藍邸の主様』と申しておりました。楸瑛様がご不在の今、この邸の主は様にございます」
「でもこれ、どう見ても楸瑛さん宛の女性からの手紙ですよねぇ。こういうことってよくあるんですか?」
「そうですね、一月に二度か三度程度でございましょうか」
「うっわー女の敵だぁ」
素直にコメントしたら、家老さんだけじゃなくて侍女さんや家人さんたちも笑ってるよ。楸瑛さん、あなたがどう思われてるのか一目で分かる光景ですよ。まぁ慕われてるから良いんでしょうけれども。
「じゃあ、とりあえず見て見ぬ振りをするつもりで開けさせて頂きます」
ごめんなさい、見知らぬお嬢さん。文句は深夜になっても帰宅しない楸瑛さんに言って下さい。
そう謝ってから蓋を開けると、中にはやっぱり手紙が入ってた。ほのかに匂う香は上品。あー・・・・・・オチが見えてきた。手紙を読まなくても見えてきたよ。
100分の2くらいの意外性に期待して手紙も拝見してみたけれど、やはり確率はさすがだった。一緒に読んでいた家老さんを振り返れば、見事に苦笑していらっしゃる。つまり日常茶飯事ってことか、これは。
頂けないよ、楸瑛さん。頂けないよ、頂けないな。故にここに宣言なんかしちゃいましょう。

「それではこれより、『貴重な睡眠時間を削るんじゃねぇよ、遊ぶなら後腐れなく遊びやがれ藍楸瑛め計画』を実行したいと思いまーす」

まっすぐ手を挙げてみたら、家老さんをはじめとする侍女さんやら家人さんやらから盛大なる拍手喝采を頂いてしまったよ。楸瑛さんが如何に家人の皆様に迷惑をかけているのか、実によく分かる一瞬だったね。





魔女っ子は女性の味方です。
2006年8月29日