17.ね、一緒に行くって言ったでしょ?
最初の指令を受けてから四日目の朝。グッモーニンの挨拶とともに管尚書の執務室をノックしてみた。
「おはようございます、管尚書、欧陽侍郎」
「やっと来ましたか、この小娘が」
「もう残り三日だぜ? 藍家の当主にでも泣きつくか?」
「頭撫でられて『泣くくらいなら策を練れ』って言われるのがオチですよ。出来ました、例の草案。設計も人手も資材も予算もバッチリです」
なかなか楽しくやらせて頂きました。組織の歯車って個人的には合わないと思ってたんだけど、意外に楽しいのかもしれない。元の世界に帰ったら、魔法省とか務めようかな。ドラコに口利き頼んでみよう。
「・・・・・・本当に終わってる」
「鳳珠の印までついてるぜ。しかも設計師が宿のじじいかよ。あいつ、俺が何度言っても橋だけは作らなかったくせに」
「しかも細工が流技師ですか! この二人でこの価格、あなた一体何やったんです!?」
「お茶とお菓子と談笑をちょこっと。お二人ともすんなり引き受けて下さいましたよ」
ちなみに流師には速攻で作ったらしい簪まで頂いちゃいました。稀代の名匠とお聞きしてる方だけど、気さくで優しいお爺さんでしたよ、私にとっては。
「黄戸部尚書には、管尚書の判を頂いてから再度お伺いすることになっています」
というわけでオッケーでしたら判を下さい。にっこり笑ってそう告げたら、書簡を端から端までじっと目を通していた管尚書が顔を上げた。
鋭いまなざしを向けられるけど、逸らさない。茶州にいるはずの秀麗ちゃんを見習って、私もとりあえず精一杯頑張らせて頂こうと思うのですよ。好みの分野に配置されたわけだし、せいぜい実力を発揮させて頂こうかと。
「・・・・・・いいだろう。判をくれてやらぁ」
「ありがとうございます」
「ったく、ようやく使える奴が入ってきたぜ。黎深の野郎、何度言っても屑ばっかりよこしやがって」
「育てろって意味だったんじゃないですか? まぁ最初の飲み比べの時点で、かなり厳選されちゃうと思いますけど」
「だけどてめぇは生き残った。俺に飲み比べで勝って、案件も全部揃えた奴は、そこにいる陽玉以来だぜ。せいぜい扱き使ってやるから覚悟しとくんだな」
「楽しみにしてます」
朱色のインクをつけた判子がぽんと押されて、私の案件は確立された。よっしゃ! これからが本番だよ。再度関係者様各位にご挨拶に伺わなくては!
「私も行きますよ。さすがに成立した案を新人一人に任すのは心もとないですし」
「ありがとうございます、欧陽侍郎」
「さっさと挨拶手順を覚えて一人で仕事出来るようになって下さい。そうすれば工部もちょっとは楽になるでしょうからね」
「その空いた時間で俺はさらに酒が飲めるってわけだ」
「んなわけないでしょう、この鶏頭! いいですか、私たちが戸部から帰ってくるまでに、そこの書簡に目を通しておいて下さいよ!? 全部ですからね! 全部!」
新しい酒瓶に手を伸ばす管尚書に怒鳴りつけて、欧陽侍郎は私を呼んで執務室を後にする。ひらひらと手を振ってくれた管尚書に、私も同じように振り返した。
「・・・・・・この案件」
前を行く欧陽侍郎が、ぽつりと呟く。
「良く出来てますよ。仕方ないから認めてあげます。小娘から一工部官に昇格してあげますよ」
「ありがとうございます。私が黄戸部尚書のご尊顔を拝見した際には、是非一緒に語りましょうね」
「ええ、望むところです」
ちょっと振り向いて笑った欧陽侍郎は、やっぱりキラキラしてる美青年だった。
たぶん、茶州の空の下にいるだろう秀麗ちゃん。
私もぼちぼち頑張ってるよ。今度は一緒に橋を見に行こうね。自慢の作だと案内できるように頑張るからさ。
工部仲間入り編終了。
2006年8月28日