16.仮面を被って今日和





私は美形が好きだけど、美形を見て楽しむのが好きなんだけど、それが趣味の一つだったりするんだけど。
仮面をしている人物に、ここまで美形レーダーが反応したのは初めてだよ・・・・・・!



「藍州の橋か」
喋る黄戸部尚書。もったいないもったいないもったいない! この骨格と肉付きと声帯から見るに絶対世紀の美声だろうに、それが仮面でくぐもってるよ! 何もったいないことしてるんですか、あなたは! 世紀の損失! 彩雲国一の損失がここに!
「毎年氾濫する川だな。決壊する度に架け直すが、その費用はかなりの額だ」
「それを可動式の橋にして、氾濫の際には流れに沿わせるようにするなんて、素晴らしい発想ですね。官吏、あなたが考えたんですか?」
「はい。設計者の方と一緒に考案しました」
「そうですか。本当にすごいですねぇ」
にこにこ笑って褒めてくれるのは、戸部のナンバーツー、黄戸部尚書の補佐官、景侍郎だ。
いいなぁ、癒されるなぁ。黄戸部尚書が仮面だから、景侍郎が補ってるのかな。でも個人的にはその仮面、剥ぐ気満々なんですけどね。
「予算は出来る限り削ったつもりです。工事に関わる方々も橋建設を多く経験している方を選びました。材木の仮手配は済んでいますし、何より一月後に工事にかかれば、天気は例年晴れが続いている季節ですし、半年後の雨期までには十分間に合います」
めちゃくちゃ削ったんですよ、いろいろと。でもちゃんと日にちの余裕は持たせてますし、何より現場の方々のメンタル面もしっかり考慮させて頂きました。やっぱり工事は現場で起こってるしねぇ。時間さえあれば例の川も見に行きたかったよ。案が通ったら工事前に行っとこう、うん。
「・・・・・・いいだろう」
科捜研に頼んだら間違いなく麗しい声に直してくれるだろうくぐもった声で、黄尚書はおっしゃられた。え、ワンスモアプリーズ? 美声に聞き惚れてさらっと流しちゃいましたよ。
「予算を出してやる。飛翔の決済をもらったらまた来い」
「・・・・・・駄目出し、無しですか?」
「されたいのか?」
「実を言えば。黄戸部尚書は鬼才だとお聞きしてたので、弁論など出来たら嬉しいなぁと」
素直に告げたら、景侍郎が驚いたように目を瞬いた。あ、黄戸部尚書も何となく驚いていらっしゃる? 仮面の向こうの雰囲気が分かるよ。
「それと賄賂も持ってきてたんですよねぇ。話すら聞いて頂けなかったときのために」
「・・・・・・他の奴に持っていけ」
「仮面ですから。せっかくですし、お近づきの印にお納め下さい」
取り出した箱を捧げると、黄戸部尚書の顔がしかめられた。仮面の上からでも分かるよ。戸部への配属も結構面白そうだったかも?
「夏編と冬編をご用意しました。夏編は通気性バッチリで汗や蒸し蒸し感とはこれでおさらば。黄戸部尚書の麗しいでしょうお肌もこれで保たれること間違いなしです。冬編は血行を良くするために保温効果を投入。末端冷え性にも三くだり半の優れ物。これでも工部に入りたくて入った者ですし、手先の器用さにはちょっと自信があるのです」
本当は今すぐ付け替えて頂き、そのご尊顔を拝見したいけど、楽しみは後に取っておいた方が倍になるしね。美人さんに無理強いは禁物。今はじっと我慢しましょう。
「・・・・・・さすが黎深に気に入られただけはある、か」
ぽつりと呟いた黄戸部尚書ににっこりと微笑み返した。



とりあえず与えられた課題はクリアー。
後はこれを管尚書&欧陽侍郎に突き付けるだけ。
待ってて下さいね、二人とも!





何だこの仮面の付け心地の良さは!?
2006年8月28日