14.溶けて優しい水になる





工部における私の評価は、「何でそんなに酒が飲めるんだこの野郎」らしい。野郎じゃないよ、お嬢さんですよ。それくらいの否定はさせて下さいな。
「では、この案件をあなたに一任します」
さくっと出勤して、さくっと仕事の準備して、さくっと始業の鐘と同時に尚書室を訪れた私に、工部で二番目の権力者である欧陽侍郎はおっしゃった。
この人はキラキラといろんな装飾を身に付けている。だけど負けてないのは素が美しいからだろうなぁ。うらやましいよ、美形さん。
「藍州で毎年氾濫する川に架ける新しい橋です。その草案と予算の確保、技術者と資源、その他必要と思われる資料を揃えて、一週間以内に提出して下さい」
「新人に与える仕事にしては、あまりに規模が大きいと思うんですけれど」
「どこまで使えるのかを見極めるんですよ。今までの工事の事例は府庫に保管してあります」
「いじめですか」
「いじめです。課程ごとに報告に来て下さい」
さらっと肯定してくれちゃう欧陽侍郎は、雅な外見に反した毒のある性格をしていらっしゃると思う。でもってさらに酒にも強い。管尚書を負かすほどの飲みっぷりは、この前の飲み比べでも思わず拍手を送っちゃったよ。どんな肝臓をしてるのか、一度調べさせてほしいなぁ。
「おい、嬢ちゃん。下手な手打って泣き逃げすんじゃねぇぞ」
「そうする気があるなら飲み比べのときにしてますよー。頑丈な肝臓は欧陽侍郎の専売特許じゃないんです」
「せいぜい鳳珠に駄目出しされてくるんだな」
「欧陽侍郎憧れの君ですね。私のせいで工部全体の評価が落ちたなら失礼」
にこっと微笑んで必要な書簡を頂いた。苦い顔をしてる欧陽侍郎とは別に、管尚書は実に面白そうに笑ってるよ。その手には当然のごとく酒の瓶。今度ワインを差し入れましょうか?
「それでは行って参ります」
「じゃあな。期待してるぜ」
「心にもないお言葉を」
ひらひらと見送られて部屋を出た。うーん、とりあえずはその川の情報収集と、過去に建設された橋をチェックするかな。本当は図面から引きたいんだけど、そこは技師さんと相談することにして。
府庫を目指して、レッツゴー!





魔女っ子の基本はものづくり系です。
2006年8月25日