12.遠く遠く果てしなく、何処まで走ってゆけるだろう
かぼちゃの馬車の考案がよかったのか、薬の調合法がよかったのか、それとも紅吏部尚書に捧げた紅家長兄家族セットがよかったのか。
とにかく私は、工部への配属となった。任命式が終わった瞬間、珀明君と手を叩きあっちゃったよ。
「おめでとう吏部!」
「おまえこそ工部!」
互いに祝いあってると、今頃衝撃が襲ってきたのか、どんより暗雲を背負った秀麗ちゃんが近づいてくる。
「・・・・・・いいわよね、二人とも。念願の部に入れて」
「え、秀麗ちゃんと影月君は稀に見る飛び級出世じゃない。それに『どこだってやることは同じ』なんでしょ?」
「そうだけど、そうだけど、そうだけどおっ!」
頭を抱える秀麗ちゃんの隣では、珀明君が上機嫌で影月君の肩を叩いている。
「よかったな、小動物。おまえの希望通り地方への配属だぞ」
「あははー・・・・・・確かに地方なんですけど、これはちょっと・・・」
「いきなり茶州の州牧とはな。まぁ小娘も一緒だし、前州牧も州牧補佐もいるんだ。どうにかなるだろ」
「なるといいですねー・・・・・・」
いつも控えめ笑顔を絶やさない影月君も、さすがに今は顔を引きつらせてる。でもそれも仕方ないよね。官吏になったばかりにピヨピヨヒヨコが、いきなり茶州のトップに命じられたんだし。私の世界で言えば、国会議員に当選したばかりの新人が、いきなり北海道知事を命じられるようなもの? ちょっと分かり辛いなぁ。それに地方公務員は国会議員じゃないしねぇ。さらに知事は地方公務員法の適用がないし、加えて別件扱いか?
まぁでもとにかく、王様の命令には逆らえない。でもって王様の期待の証である『蕾』なんかを受け取っちゃった二人は、さらに断れなかったりするわけだし。
「手紙、送るよ。離れていても私は秀麗ちゃんと影月君の味方で仲間だし、何かあったら必ず力になるから」
「・・・・・・っ!」
「可愛い秀麗ちゃんと離れるのは悲しいけど、お互いに頑張ろうね。私と珀明君は中央で、秀麗ちゃんと影月君は茶州で」
にこっと笑顔を浮かべて言ったら、秀麗ちゃんはぎゅって唇を結んで力強く頷いた。
「言っておくが、僕だって負けないからな。今はおまえたちの方が位は上になったが、すぐに追いついてやる」
「またみんなで一緒に、秀麗さんとさんの作ったご飯を食べたいです」
「腕を揮うよ。そのときは是非とも龍蓮も一緒で」
「あの孔雀男を呼ぶのか!? ちょうどいい! あいつには言ってやりたいことが山ほどあるんだ!」
文句を連ね始める珀明君に、思わず影月君と笑みを漏らす。一緒に笑っていた秀麗ちゃんも、ふっと柔らかな表情になって、さっきもらったばかりの『蕾』を握りしめる。
「・・・・・・そうよね。影月君もいるし、燕青も静蘭もいる。も珀もいるんだもの。一人じゃないわよね」
顔を上げた秀麗ちゃんは、本当に綺麗だった。
「私、頑張るわ。絶対に立派な官吏になってやるんだから!」
拳を突き上げた秀麗ちゃんに思わず拍手を送りつつ。
もしかして秀麗ちゃんの成長を見守るために、私は彩雲国に来たのかなぁって思った。
だとしたら今回はナイスだよ、ブロッケン。グッジョブ!
国試&進士編終了。
2006年8月23日