10.さァ、懺悔の言葉は決まったかね?
王である劉輝の元に、秀麗たちが花街に監禁され、黎深が国試不正介入の疑惑で身柄を拘束されたという情報が入った。明日の正午に査問会を開くことを了承し、秀麗の元へ走ろうと剣を持って立ち上がった劉輝は、ふとあることに気づいて足を止める。
「・・・・・・そういえば、はどうなのだ? 彼女も秀麗と同じく進士返上を求める連名状は来ているが、本人は今どこで何をしている?」
問われて、楸瑛は何とも言えない顔つきになった。
「・・・・・・今朝話した限りでは、今日も厨房で働いているはずですが」
「即刻確認しろ。危険が及んでいると判断したのなら、安全なところへ。明日の査問会には秀麗共々参加してもらう」
「御意」
楸瑛が頷くのと同時に、ばたばたと駆けてくる足音が聞こえる。影は室の前まで来ると、膝を折って頭を下げた。
「御前にて失礼致します! 左羽林軍、藍楸瑛将軍は居られますでしょうか!?」
「ここに。何があった?」
「それが・・・・・・十六衛に、進士を拘束するよう命令が下ったらしく」
室内の空気が張り詰めた。絳攸は表情を固くし、劉輝は剣を握る手に力を込める。遅かったか、と小さく呟き、楸瑛は重ねて部下に問うた。
「それで、彼女は今?」
「左右羽林軍大将軍と交戦中です!」
「「「・・・・・・・・・は?」」」
三つ重なった声はまぬけだったが、それ以外に感想がなかったのだ。十六衛に拘束されそうだった少女が何故、羽林軍の頭を務める左右大将軍と戦っている? 本気で、何故。
「拘束を拒否した進士が十六衛と交戦になり、それらを倒していくところを羽林軍が目撃し、大将軍らが勝負を申し込み・・・・・・っ」
「・・・・・・もういい、分かった」
「でも武器が包丁なんです! 素晴らしい腕前ですよ、進士! 大将軍らも是非武官への転向をと!」
「・・・・・・そう・・・」
何でこんなに疲れるのだろうと自問自答しながら、楸瑛は劉輝を振り向いた。ぽかんとした表情の彼の後ろで、絳攸が実に苦そうな顔をしているのが印象的だった。
「主上、私は先にこちらの件を片づけてから参ります」
「うむ・・・・・・頼んだぞ、楸瑛」
「確かに。進士は査問会まで安全な場所に隔離しておきますのでご心配なく」
「任せる。・・・・・・それにしても、進士はすごい少女なのだな。秀麗の友人ということだし、余も一度会ってみたいぞ」
「止めた方がいいですよ、本気で」
そのときの楸瑛の笑みはやけに力なかったと、後に劉輝は秀麗に語ったと言う。
羽林軍の練習場からは、まるで祭りのような歓声が聞こえてきていた。
戦います戦えます、覚悟してからいらして下さい。
2006年8月23日