09.蹴散らせ





七日に一度の休日でも仕事に出てくる人間はいる、イコール厨房は休みじゃない。つまり働け。そんな命令を受けて、今日も私は出勤してきた。だけど朝廷自体にほとんど人がいないしで、厨房はかなり暇。なので講師による異世界料理講習会を開いて、料理人さんたちと一緒に和気あいあいと時間を過ごしていたところ。
っ! 国試不正及第の疑惑で、おまえの身柄を拘束する!」
そんなことを言って現れたのは、羽林軍の兵士さんじゃなくて、その下っ端の十六衛の中でもさらに下っ端と思われる下級武官さんたち。
気色ばんでくれた料理人さんたちが嬉しいよ・・・! やっぱり同じ釜の飯を作った仲だね! 分かってくれる人は分かってくれてる! でもって武官さんたちに向けてさりげなくおたまとかフライ返しとか菜箸とか構えてくれてる! 魯官吏、厨房に配置してくれて本当にありがとう!
「えーと、それはどなたの命令ですか?」
問いかけてみたところ、武官さんたちは言葉に詰まった。えー・・・ちょっと、せめてもうちょっと上手くやろうよ。本気でリドるんを講師に貸し出したくなってきた。
「そ、そんなことはどうだっていいだろうっ!」
「良くないですよー。主上命令ならまだしも、名も名乗れない方の捕縛命令には従えません」
にこっと笑って横に手のひらを差し出せば、ここ一月で完全に手に馴染んだマイ包丁が載せられる。載せてくれたのは、私に山ほどの皿洗いやら鍋洗いやらを指示してくれていた上司さん。ちらっと視線をやれば、無言で頷かれる。ふっ・・・! 持つべきものは理解力のある上司だね! 武官さんたちには悪いけど、正義は多分、我にあり?

「どうしても拘束なさりたいと言うのなら、どうぞ力尽くでいらして下さい。鳥魚牛と同じように、見事おろして差し上げましょう」

ちゃきっと包丁を構えた瞬間、料理人さんたちから歓声が上がった。うわぁ、私本当に人気者だよ。
とにかくこんな言いがかりを発端に、バトルはスタート。
・・・・・・ここで人間を綺麗に捌いたら、大医署は私を医者として雇ってくれるかなぁ。





マイ包丁は、毎日手入れを欠かしませんよ。
2006年8月23日