08.カルテットに、一人足りないんだ
今日も今日とて厨房で見事な腕を揮った後は、府庫にて続々と押し付けられる書簡の整理。
でもいつもと違うのは、一緒に作業している相手が秀麗ちゃん&影月君ではなく、碧珀明君というところだ。
彩雲国の七名家の一つ、芸術に秀でてると言われる碧家の神童、四位及第の珀明君は、さくさくっと手際よく仕事をこなしてく。ちなみに秀麗ちゃん&影月君は今、珀明君の上司へのとりなしと言う名の反抗により、仮眠室でお休み中だ。お茶に混ぜて疲労回復薬も飲ませておいたし、これでちょっとは元気になってくれるかな。
「・・・・・・おまえは、どこの部が希望なんだ?」
珀明君の声は、歌を歌うのに向いてると思う。パートはテノール。影月君がアルトで秀麗ちゃんがソプラノ。龍連にバスをやらせてハーモニーを聞いてみたい。
「そういう珀明君は吏部でしょう?」
「当然だ。僕の目標は李絳攸様なんだ。あの方のいらっしゃる吏部で働きたいと思うのは当然のことだろう」
「うん」
「課題も吏部の管轄である人事に関することに決めた。提出先も魯官吏ではなく吏部にすれば、絳攸様にも読んで頂けるかもしれないしな」
「一途だねぇ。でもちょっとその論文には興味がある。私のが完成したら交換してお互いに採点しようよ」
「いいぞ。それで、おまえはどこの部が希望なんだ?」
「私は工部」
素直に答えを告げたのに、珀明君は美少年な顔をきょとんとさせる。
「・・・・・・工部?」
「そう、工部。意外?」
「いや、意外と言うか・・・・・・そうだな、意外ではない。何となくおまえには工部が似合うような気もする」
手先が器用だしな、なんて言ってくれる珀明君は、国試の予備宿舎にいた際に、龍蓮や秀麗ちゃん、影月君たちと一緒に私手製の異世界食物をいくつか食べている。多分彼の見解は、そんなところから来てるんだろう。
「建築物や工芸品に関しては建てるのも作るのも大好きだしね。それに工部は薬や医師の大医署も管理してるし、一石二鳥、一挙両得」
「だけど工部尚書は女官吏に反対してるって聞いてるぞ。それに執務室は酒だらけだとか・・・・・・」
「大丈夫。秀麗ちゃんを見習って実力で認めさせるし、お酒はかなり強い方だし。心配してくれてありがとね。やっぱり珀明君、格好いいなぁ」
「べ、別に心配してるわけじゃない! ただ、おまえは一応、僕を抑えて探花で及第したからな。それなりにやってもらわないと僕の評価も落ちるってだけで」
「うん、ありがとね」
「だから・・・・・・っ」
ほのぼの会話しながら、さくさく手だけは進めてく。もうそろそろ秀麗ちゃんたちも起きてくる頃だし、お茶でも入れて休憩しますか。
体力的にはなかなか辛いし、子供じみた嫌がらせには嫌気も差して来たけれど、もうちょっとはどうにか耐えられそうだ。
やっぱり持つべきものは友達だなぁ。
やはり趣味に走ってみる、その一。
2006年8月21日