04.毒を喰らわば貴方まで
藍家直系五兄弟の残る一人、四男・楸瑛さんに対する私の印象は、あの兄たちとあの弟に挟まれて大変ですねぇ、というものだ。でもきっと兄弟揃って美形なんだろうなぁと期待していたのだけれど、それが裏切られることはなかった。やった!
髪を下ろしたら艶やかだし、上げてたら上げてたでストイックでうなじも色っぽい。女遊びが派手というのも頷けるね。藍家は女性が放っておかないよ。でも結構一途な人と見た。
そんな藍楸瑛さんは、私を見下ろして困惑してる。めっちゃ困ってる困ってる。
「えー・・・・・・と、君が、兄上たちの寵姫?」
「はい、藍楸瑛様」
「・・・・・・本当に?」
「はい、藍楸瑛様」
三つ子に仕込まれた深窓姫君笑顔でにっこりと笑ってみせる。あ、楸瑛さんが引きつった。さてはこの笑顔、三つ子に似てるのか・・・・・・。それはどうなの、ねぇ三つ子。
あぁそれにしても、楸瑛さんは武官と聞いてるけれど、うんやっぱり隙がないね。帯刀している剣も気になるし、後で手合わせしてくれないかなぁ。最近鈍り気味なんだよね。グロールフィンデルさんに叱られちゃうよ。
あーだけど困ってる。困ってる困ってる困ってる。でもその一方で冷静に考えてるね。さすが王様付きの護衛官。常に沈着冷静がモットーですか? じゃあその努力を無に帰して差し上げましょう。意地悪魔女っ子。童話の魔女は意地悪が多いんですよ。
「そんなにお悩みにならずとも、藍家からは便りが届いていらっしゃるでしょう? それとも私にご当主方を虜にするような魅力がないとでも?」
にっこり笑って言ってみるけど、まぁ魅力はないだろう。着飾ってごまかしているけれど、私は決して美少女ではないし。スタイルはそこそこ。年齢は十代後半。美姫寄り取りみどりな三つ子からしてみれば、本気で首を傾げるような人選だ。魔女っ子が理由なのは間違いないね。でも寵姫なのは本当ですよ。愛でられましたよ、藍本家でそれはそれは十二分にね!
「いや・・・・・・そういうわけでは」
「女性を育てるのは男性の究極の娯楽と言いますが、実際はどうなのでしょうね。女の私の身からは賛否も申し上げられませんけれど」
ふう、なんてわざとらしく溜息を吐き出してみたら、楸瑛さんはどこか遠くをご覧になった。なるほど、いつか光源氏の話をして差し上げよう、うん。
「藍家から文が来ていて、護衛かつ見張りの影さんたちもおとなしくて、簪は特注双龍蓮泉で、何より龍蓮と一緒にほのぼの仲良くしていた私に、何か不自然な点でもございますか?」
「・・・・・・いや、失礼。兄上方の寵姫にしては若く可愛らしい方だったから」
「うふふーもうちょっと早く言ってほしかった台詞ですねぇ」
「・・・・・・なかなか言うねぇ。さすが兄上方の寵姫ということかな」
「おとなしいだけの姫君には飽きていらっしゃるみたいですよ。たまには変なのにも手を伸ばしてみたくなるのかと」
「龍蓮をなつかせたその手腕には感嘆するよ」
「芸術は爆発ですよ。龍蓮はアレです、愛ですよ愛」
あなたのお得意な、とは言わなかったけど、笑顔に込めてみたら伝わったらしく、引きつったような笑みを返された。
「・・・・・・・・・兄たちが君を愛でる理由が分かった気がする・・・」
そんなぐったりしみじみおっしゃらなくとも。
とにかくそんなんで、私は貴陽の藍邸へと迎えられたのだった。
結果も発表されたので、龍蓮はもう旅に出ました。
2006年8月20日