03.空が遠いね、きれいだ





秀麗ちゃん曰く孔雀男こと龍蓮は、私の旦那様というか愛人である藍家三つ子当主の末の弟だ。今年18歳だっけ? 奇抜な格好と下手の横好きの笛を愛する美少年から美青年への成長期中。一人で完結しちゃうタイプの天才だけど、一癖ある割に素直なのが非常に可愛い。つまり私の好みってこと。
「龍蓮、おいでー」
呼ぶと髪に差している孔雀羽を揺らして、龍蓮がてくてくとやって来る。
「何か用か、優しき愛人よ」
「おいでおいで」
「ふむ」
「はい、捕まえた」
両手をぎゅっと握ると、龍蓮はちょっと目を見開いてぱちぱちと瞬きをする。天才すぎて特別扱いな彼は、スキンシップに慣れてないらしい。こんなに可愛いのにもったいない!
そのまま近くの木陰に入って、二人してちょこんと座る。その間も握った手は離さない。これが笛を封じ込める最も簡単な方法だ。
さぁ秀麗ちゃんを始めとする受験生の皆さん、今のうちに目一杯勉強して下さいな。
「今日のおやつはメロメロしいメロンパンです。メロンという果物に形と色を似せているだけで、味はまったくかけらも異なるんだけど」
ちなみに決してメロンパンダなわけじゃない。シャニは今頃、改造ポケットの向こうの我が家でお昼寝でもしてるはず。私の捜索で街を破壊してないことを祈るよ。
「優しき愛人の作る料理はどれも風流だな。異文化を感じさせる外見といい味といい、私の好みにぴったりと合う」
「それはよかった。まぁこっちの世界にある材料で出来るものって限られそうだけどね。味じゃ藍家の料理人には勝てないだろうけど、異色さには自信があるよ」
何たって文化が違いますから。そんなことを言いながらメロメロしいメロンパンを籠から取り出して手渡すと、龍蓮はまじまじとそれを四方から見つめた後にかぶりついた。豪快なんだけど、何でか絵になるんだよねぇ。食べ方一つで育ちが分かる。うん、藍家ってばいい仕事してるよ。
「表面は甘くぱりぱり、中はふっくらかつ香ばしい。名前はメロメロしいメロンパンと言ったか?」
「略してメロンパンです」
「素晴らしき美味。この新しき出会いと優しき愛人の料理の腕前に感謝の曲を奏でようではないか」
「確かに龍蓮のピカソな笛も好きだけど、個人的にはもうちょっと違った形で感謝を示してくれると嬉しいなぁ」
ここで笛を吹かれたら、勉強してるだろう秀麗ちゃん始め他の受験生たちが悲鳴を挙げて倒れるだろうし。そろそろ管理責任者の後任を探すのも難しくなって来てるだろうしね。
にこっと笑いかけると、龍蓮はちょっと考えるように沈黙した後で、おずおずと私の頬に自分の頬を寄せた。ぷにぷにで柔らかくて温かい。やー可愛い。可愛いよ、龍蓮!
「・・・・・・優しき愛人は、官吏になってしまうのだな」
おでこをこつんと合わせた至近距離で、龍蓮がぽつりと囁く。間近でも耐えれる美貌は、本当に藍家万歳だよ。
「うん。そのための妻じゃなくて寵姫だからね。今の朝廷で藍姓を名乗るのはまずいし、それが三つ子の意向でもあるし?」
「国試が終われば、の料理を食べれなくなってしまう」
「風流を愛する龍蓮には邪道かもしれないけど、魔法を使って送ることは出来るよ」
「それは、愚兄たちに止められていると聞いた」
「縹家に目をつけられたらヤバイしね。だけど道具なら大丈夫でしょ。実際三つ子たちは私とすぐに連絡を取れる魔女っ子道具を持ってるし」
「・・・・・・世の流れはすべて万物のあるがままにあり、それが雄大なる自然というものだ」
「要約すると?」
「我が心に従おう。私も優しき愛人と常に連絡を取れる道具を所望する」
「オッケー」
首筋から肩を経由して、龍蓮の頭がぽんっと私の膝の上に乗る。よしよしと髪を撫でてあげれば、気持ちよさそうに口元が緩んだ。まさに猫。素晴らしい愛らしさ!
「星を見上げて一曲吹いて、人を眺めて一曲吹いて、私を思い出したらいつでも連絡ちょうだいね。旅の話、楽しみにしてるから」
「約束する。優しき愛人には私の感じたすべてのものと、旅先で見つけた珍しい品すべてを捧げよう」
「元気でいてくれるのが何よりだけどね」
「何か困ったことが起きたのなら、いつでも連絡するがいい。優しき愛人の元へ、例え火の中水の中朝廷の中駆け付けよう」
「ありがとう、龍蓮」
よしよしと撫で続けると、やっぱり気持ちいいのか寝転んでいる彼の目が細まる。
まぁそんなこんなで、私の予備宿舎での一月は龍連とのまったりカップルもどきに費やされた。

ちなみに国試の成績は、秀麗ちゃんと同じ探花及第だった。三位以内を守ったよ! これで特別手当だよ、ねぇ三つ子!





絡ませたいキャラで龍蓮を望まれた方、こんな感じでいかがでしょう・・・? 呼び方は「やさしきまなびと」で。
2006年8月20日