何だか最近、一癖ある人との遭遇率がやけに高い。やっぱり路地裏を歩いてるからかなぁ。それともヒョウになったから? 薬の調合、どっかで失敗したっけ? おもしろ副作用付きですか?
「ヒョウーおいでおいでー」
猫撫で声。いや違ったヒョウ撫で声で手招きするのは黒いコートのお兄さん。頭上のティアラは本物ですか? 長い前髪の間から、ちらりと一瞬だけ瞳が見えて。
・・・・・・厄介そうな人に捕まったなぁ、なんて思った。
路地裏でにゃあと鳴け(お迎え編)
ヒョウ生活はとても順調。雲雀さんは十二分過ぎるほど良い飼い主で、日々極楽暮らしをさせてもらっている。
路地裏で六道さんと出会って以来、ちょっとおとなしく散歩を控えて、一月近く経ったしそろそろ大丈夫だろうなんて思って気ままに闊歩していたら。
・・・・・・今度は別口に捕まったよ。しかもこのお兄さん、美形のくせして血の臭いがする。うーわーやばい? かなりヤバ系?
「その目、すげー血みてぇ。ボスが喜びそうだなぁ」
この人も六道さん系だ。しかもボス? あなた、誰かの部下なんですか? うっわ見えない! どう考えても自分の楽しみのためだけに生きるタイプに違いないのに!
「きーめった! 持って帰ってペットにしようっと」
しかも人の話を聞かないよ! いや、喋ってないから当然だけどね。でもナチュラルにネームタグを引きちぎらないで下さいな! せっかく雲雀さんが手ずからつけてくれたのに!
反抗の証として手でも引っ掻いてやろうと思ったけど、何となく止めた。血とか見せたら喜んで狂乱しそうな気がする。うわー厄介! ここは一つ、魔法を使って逃げますか。もしくは六道さんと同じく肉球パンチ?
「ほら、行くぞー」
伸ばされた手に首根っこを捕まれかけて、やむを得ず呪文を唱えようとしたら。
「―――悪いけど、その人は俺の身内なんだ。勝手に連れていかないでほしいな」
涼やかな声に、ティアラさんが振り向いた。路地裏で僅かな光を背に立っている影は、間違いない。
「誰だよ、おまえ?」
ティアラさんの問いかけに答えるその顔は相変わらず美形。ちょっと会わない間に背が伸びたなぁ。眼鏡の向こうの目がすっと光って。
「俺は。都内統治者の一人、『山吹の覇者』だよ」
でもって私の孫なんです。やーやー久しぶり。元気そうで何よりだよ。
さらさら黒髪、涼やかな目元。シルバーフレームの眼鏡は理知的だし、何より穏やかな微笑が似合う美形さん。それが我が孫の一人、。とはいっても血縁関係はないんだけどね。私が彼ともう一人の孫を拾い、我が息子こと零の戸籍に入れただけ。つまりは零の息子。年齢問題はどうなんだって? さぁ、どうなっているんでしょ。
今年高校二年生になったはずの彼は、東京を治める統治者の一人、「山吹の覇者」を務めてるらしい。ものすごく優秀で頼られてるらしく、祖母としては鼻が高いよ。すくすく格好良く育って嬉しい限り。もう一人の孫と並べてみたいなぁ。お似合いのカップルに見えるって、うん絶対。
「連絡をもらって探してみれば・・・・・・まさか、そんな格好をしているとは」
え、連絡網が敷かれてるの? うっわー動いたのは零かな、リドるんかな。どっちにせよ面倒なことになってきてるのかも。そろそろヒョウ生活ともおさらばかなぁ。
「帰りましょう、さん」
「あーダメダメ。これは俺が飼うって決めたから」
「彼女はおとなしく飼われるような人じゃない。本気で魅了されると彼女しか見えなくなるから、そうなる前に止めておいた方がいい」
何か微妙に失礼なこと言われてませんか、私。気のせいですか、そうですか。
「うししっ! 何言ってんの、おまえ。もーいいや、やっちゃうよ?」
言うが早いか、ティアラさんはコートの懐から薄いナイフを五本取り出した。あなたも六道さんと同じ、四次元ポケットの使い手ですか。あぁもう、何か物騒だなぁ並盛町は! 雲雀さん、もうちょっと取り締まりを強化しましょう!
「・・・・・・ここはあいつの縄張りだから、出来る限り関与したくないんだけどな」
は溜息を吐き出して、白い学ランのベルトから警棒を取り出した。山吹のマークが刻まれている純白のそれは、指輪と同じ統治者の証。
放たれたナイフがすべて叩き落とされる。ヒュウッて口笛を鳴らして、ティアラさんが笑った。
「結構やるじゃん。じゃあこうしねぇ? 俺が勝ったらこのヒョウは俺のもの。万が一おまえが勝ったら、おまえのもの」
「・・・・・・いいだろう。受けて立とう」
奪い合われるヒロインポジションのはずなのに、微妙に嬉しくないのはどうしてだろう。殺気と呼ぶには個人的娯楽度も高いの気配を漂わせながら、二人は間合いを測り合う。
「さん、合図を」
そう言われたんで、とりあえずにゃあと鳴いてみた。
ヒョウ生活はそろそろお仕舞なのかもしれない。零やリドるんが乗り込んできて、雲雀さんに迷惑をかけるわけにはいかないし。でも消えるにしろせめて雲雀さんに恩返しをしてからにしなくては。たくさんお世話になった分、ちゃんと御礼しなくちゃね。
一体何がお好みだろう。学ランとか送ったら、やっぱり怒られるかなぁ。そんなことを考えつつ、私は路地裏で続く世紀のバトルを見物していた。
あぁ、今日も雲雀さんに「埃っぽい」って言われそうだよ・・・。
バトル後、覇者様、ヴァリアーに勧誘される。
2006年7月15日