動物を拾った。
いつものように群れてた奴らを噛み殺してた路地裏で、血じゃない赤い色を見つけた。
何かと思って目を凝らしてみれば、そこには黒い動物がいた。
血で毛を固まらせて、そいつはじっと僕を見てた。トンファーにつられて視線が動く。大抵の動物は僕の殺気を前にしてすぐに逃げ出すのに、そいつは逃げるどころが近づいてきて。
ぺろりと、僕のトンファーを舐めた。





路地裏でにゃあと鳴け





鞄の中に入れてつれ帰ったそいつは、猫みたいな顔をしてるくせに猫じゃなかった。
風呂に入れさせてる間に呼んだ獣医は、そいつを四方から眺めたり髭や鼻を調べたりして言った。
「これはおそらく・・・・・・ヒョウですね」
「ヒョウ?」
サバンナで草食動物を狩る、あの? ワォ。おかしな動物とは思ってたけど、まさかヒョウとはね。
「どこかの動物園から逃げたのかもしれません・・・・・・。調べますので、少し・・・・・・」
「いいよ、必要ない」
言葉を遮ると、獣医はびくっと肩を震わした。せっかく一人で来たし、一応診てもらってるわけだから何もしないであげているのに。そういう反応だと「殴って下さい」って言ってるようなものじゃない?
「こいつは僕が拾ったんだから、僕のものだよ」
「で、ですが雲雀様・・・・・・っ!」
「うるさいな。噛み殺されたいの?」
聞けば、そいつは悲鳴を上げてさっさと出てった。その間もヒョウと認定された動物は、きょとんと僕を見上げている。
黒と赤の配色は嫌いじゃない。座布団を与えてやれば、そいつはおとなしくそこで丸くなった。
夜中に一度物音がして起こされたけど、それ以降は静かなもの。ふぅん、賢いじゃないか。
これなら傍に置いてやってもいいかもね。



ヒョウは生肉を食べるのかと思ってたけど、そうじゃなかった。
翌朝、まだ赤子なことを考えて牛乳を与えてやれば、そいつは普通に飲んだ。魚を与えても食べた。だし巻き卵も食べた。雑食だった。
学ランに着替えてバイクにまたがれば、そいつも当然の顔で僕の後ろに乗ってきた。ヒョウだし、メットはいらないだろう。振り落とされたらそれまでのこと。
いつものように運転して学校につけば、ヒョウはまだ僕の後ろに座っていた。バイクが止まると同時にすたっと地面に着地する。
そいつがあまりに僕の方をじっと見てるから言ってやった。
「18時には帰るよ。保健所ならまだしも、ハンターに狙撃されるような馬鹿な真似はするんじゃないよ」
頷いたように見えたのは、たぶん気のせいだろう。尻尾をぱたぱた振ってから、そいつは茂みの方へと歩いていった。
ホームルーム五分前を知らせるチャイムが鳴る。
あぁ・・・・・・そういえばあいつの名前を考えなきゃね。





何してんの、バーサン(イタリアの孫より)
2006年7月3日