のんびりとテレビを見ていて思った。
何か、ヴォルデモートさんが世界征服するのって結構簡単?
あーお茶が美味しい。





アイドルになりたいっ!(笛ポタ番外編)





翌日、午前10時30分丁度にピンポーンとチャイムが鳴って、リドるんがいそいそと出た。
私はというと朝ご飯を食べ終わって部屋をちょっと片付けて、昨日まとめたレポートの清書をしていた。
うん、やっぱりこういうのは一晩置いてから見直すに限るね。そうすると誤字脱字が格段に見つかるし、意外な観点に気づいたりする。
保存用に二枚も書くのは面倒なので、とりあえず魔法でコピーして、と。
くるくるまとめて、はい宿題完了! よっしゃ、これで残りの休みは優雅に有意義に暮らせるね!
ごろごろして実験してごろごろして討論してごろごろして暴れてごろごろしてバイトしてても全然問題なし!
うん、これでこそ休暇の初めの三日間で宿題を終わらせた意味があるってもの。私、万歳!
、お客さん」
リドるんがスリッパをぱたぱたと言わせながら伝えてくれる。
「私に、っていうかこの家に客なんて珍しいね。道場破り?」
「うーん、だったら相打ちかな」
めずらしくリドるんが肩を竦める。実力に見合った自意識過剰なリドるんにしては珍しい。
なので聞いてみた。
「誰?」
「――――――ヴォルデモート卿」
「あ、ごめん。いないって言っといて」
もしくは一昨日来いって伝えておくれ。
しかしそんな伝言も虚しく、すでにヴォルデモートさんは応接室にて待っていらっしゃるらしい。
・・・何故か知らないが、私は麗らかな休日午前に悪の大王と向かい合う嵌めになってしまったっぽい。
うわぁ、宿題残しておけばそれを理由にして断れたのになぁ。暇となっちゃった今、断る理由がなくて困るよ。



ヴォルデモートさんは、アレだ。『俺様悪者ふはははははオーラ』さえなければ、渋いオジサマで済むと思う。わぁお、ダンディー?
「つまらないものだが受け取れ」
「ありがとうございます。コーヒーと紅茶、どちらがお好きですか? あ、それともお酒にします?」
個人的には生き血とか飲んじゃうイメージもあるんだけど、生憎とここにはないので。
「いや、勤務中なのでアルコールは止めておこう。紅茶を頼む」
「はい、判りました」
リドるんに天使のウィンクで合図をし、お土産に貰った紙袋を渡す。
ヴォルデモートさんは紅茶が好きなのか。そういうところはリドるんと同じだなぁ。まぁ好みなんて結構変わらなかったりするものだし。
っていうか勤務中? お仕事で拙宅へ? 勧誘ならまだしも押し売りは困る。そうしたら戦わなくちゃならないよ。
それは出来れば避けたんだよね。なんたって天下のヴォルデモートさんなわけだしさ。
「・・・・・・粗茶ですが」
リドるんが紅茶を出す。まさかとは思うけど一服盛ってないよね? 足のつく犯罪はゴメンだよ。
いやでもここでヴォルデモートさんを殺しといた方が世のため人のため?
だけどヴォルデモートさんが誰にも何にも言わずに来ているとは・・・・・・・・・思えるかもしれない。何かワンマンプレーしそうな人だし。
部下のルシウスさんとか苦労してそうだな。スタッフサービスとか紹介してあげようかな、マジで。
「・・・・・・アンブレか」
が好きだからね。はい、
「ありがとう」
紅茶の注がれたカップを受け取る。蜂蜜とオレンジの良い香り。
リドるんの入れてくれる紅茶はとても美味しいので、以前にその理由を聞いたら『隠し味が愛だからだよ』と素で言われた。
この臆面のなさはヴォルデモートさんだとどうなっているんだろう。カルピスの原液みたいに更に倍?
うわ、それって怖い。でも面白い。あたふたするルシウスさんたちが非常に見てみたい。
「ケーキはパン・ド・ジェーヌか。まさかおまえが作ったのか?」
「悪い? に下手なものを食べさせるわけにはいかないからね。これでも腕に自信はあるんだけど?」
「まぁまぁだな。パン・ド・ジェーヌはローマジパンを使うと、アーモンド独特の香りが利いてよい」
「今回はフランス系のを使ったから、代わりに粉糖を入れなかったんだ」
「確かに入れると甘すぎるからな。フランスのローマジパンはドイツに比べて砂糖の比率が高い」
「1:1だからね。だけど僕はこっちの方が好きだよ」



つーか、おまえら何ものだ。



表面にアーモンドの散りばめられているパウンドケーキ(これをパン・ド・ジェーヌと言うらしい)を片手に、それについて語る男二名。
やっぱりアレだ。ヴォルデモートさんもリドるんも元は一緒だ。二人で一つだ。
ケーキの製造方法について細かく語れる男なんてパティシエ以外にもそりゃいるとは思ってたけど、よもやまさかこの二人が語るとは。
今度からヴォルデモートさんを止めるときはお菓子の話題を出すことにしよう。うん。
「それで、ヴォルデモートさんは私に何の御用でしょうか?」
いつまでも新旧リドルのやりとりを見守っていても良かったんだけど、とりあえず勧誘か押し売りかのどっちかだけ知りたかったので聞いてみた。
曰く『まぁまぁ』らしいケーキをぺろりと食べ終えて二つ目を貰っていたヴォルデモートさんがこっちを向く。
リドるんも永遠の16歳じゃなければ、こんな風に歳をとっていったんだろうなぁ。
・・・・・・・・・それはそれで美味しい。
「昨日、おまえは不可解なことを言ったらしいな」
「――――――おまえ?」
「・・・・・・・・・
「私、何か言いましたっけ?」
思い返してみるけれど、特に何も浮かばない。っていうか昨日はヴォルデモートさんともルシウスさんとも話してないし。
大人しく朝から夕まで宿題と実験をやって、リドるん特製夕ご飯を食べて、テレビを見てさくさく眠ったはずだけど。
「『ヴォルデモートさんが世界征服するのって結構簡単?』」
「声真似お上手ですね」
「そう、確かに言ったはずだ」
「言ったっけ?」
振り向いて、リドるんと首を傾げあう。
つーかヴォルデモートさん、お友達に妖怪地獄耳さんでもお持ち? むしろあなたの耳が地獄耳なの? それとも万能補聴器か?
「・・・・・・あぁ、あれじゃない? ご飯の後、テレビを見てたとき」
「とき?」
「テレビにヨン・サ様が出てて」
「・・・・・・あー、あれか」
ぽんっと手を打つ。あぁそういえば言いました。言ったよ確かに、この私の口で。
ヴォルデモートさん、マジで地獄耳だな。あんな呟きを拾うとはさすが悪の帝王。
思い出して向き直ると、ヴォルデモートさんは空になったケーキのお皿をテーブルに置いて言った。
「その根拠を詳しく説明しろ」
「それは別にいいですけど、ケーキと紅茶のお代わりは?」
「いる」
なんか午前のティータイムがそのままランチに流れ込みそうな予感。
ヴォルデモートさんとお昼なんてレアな体験すぎて笑っちゃうよ。あははははは。



昨日見ていたテレビは、その日一日のニュース速報だった。
何でもどこかの国から来訪した男性俳優ヨン・サ様を目当てに女性が空港へ殺到して、ものすごいことになったとか。
若い乙女から初老のご婦人まで黄色い声をあげていて、女性はやっぱり強いなぁなんて思ったりして。
うん、これならヴォルデモートさんも簡単に世界征服出来そうだなぁと半ば確信したりしたのだ。



「さっぱり判らん。もう一度説明しなおせ」
「あれ? 個人的にはかなり判りやすく説明したつもりだったんですけど」
私とヴォルデモートさんの間には時差があるのかな。っていうか名前長いよ。ヴォル様でいいや。
勝手に短くした分、様付けで呼ぼう。リドるんに合わせてヴォルるんでもいいんだけど、それはさすがにルシウスさんに怒られそうだし。
アダナーズでルシウスさんもルッシーと呼ぶか。ネッシーみたいだな。ってことはドラコはドッシー。
・・・・・・・・・可愛いけど止めとこ。
「つまり、私はヴォル様もヨン・サ様のようになれば世界征服なんて簡単に出来るんじゃないかと思いまして」
「――――――ヴォル様?」
「ヴォルるん?」
「・・・・・・・・・ヨン・サとは誰だ?」
「間違っても郭君じゃありませんし、美形の棋士でもありません。某国の人気男優です。今現在、日本の女性に大人気?」
純愛ドラマの主人公をやったら、それが癒しとなって奥様方のハートをしっかりゲット。
そう説明したら、ヴォル様は渋い顔を不機嫌に歪めた。おお、俺様オーラばりばーり。
「何故俺様がマグルごときの真似をしならなくてはならん」
「ヴォル様はマグルを制圧したいんでしょう? だったら殺戮よりもヨン・サ様ですよ」
「―――あぁ、なるほど。さすが
私の思惑に気づいたのか、リドるんが納得したように笑う。
ヴォル様、一人だけ置いてきぼりなので寂しくて睨む。うわ、可愛い。渋くても子供みたい。でも断じて渋沢さんではない。あれは別物。悪い意味で別格。
「ですからね、ヴォル様」
両の手の平を翳して、精一杯悪徳セールスっぽく言ってみる。



「マグルをどうにかしたいんだったら、あなたの魅力で虜にしちゃえば後は好き勝手にしちゃえるんですよ」



それこそヴォル様の一言でみんなが右向いて、ヴォル様の一声でみんなが左を向く。
しかも特筆すべきは誰もが喜んでそうすること。
そう告げたらヴォル様は目を大きく見開かれた。
あぁ、やっぱりこういう表情はリドるんと似てるなぁ。



なのでアイドルになれば売れること間違いなしだ。



ドル箱が目の前にある。しかも二つも。新旧リドルで億万長者だ。
「やっぱり芸能界デビューが一番の近道でしょうねぇ。政治家っていう道もあるけど、最近は政治離れや政治家不信が続いてますから国民を魅了するのは難しいでしょうし。やっぱりブラウン管のアイドルになってお茶の間のゴールデンタイムをすべて独占? 高めの年齢層を狙うなら時代劇も捨てがたいかな」
「とりあえず小学生くらいから刷り込みを始めればいいね。だとするとやっぱり最有力なのはアイドルかな。歌って踊れてビジュアルが良い、バラエティーにも出られるアイドル」
「ってことは今のヴォル様だとちょっと無理があるなぁ。ヴォル様、影分身の術、使えます? もしくはコピーロボット持ってません?」
「十代後半から二十代にかけては歌手と俳優だろうね。月9の主役を張れば顔はそこそこに売れるし、オリコン1位に出れば名前も売れる」
「でもって紅白に出れれば一気に全国展開。じゃあ若ヴォル様には若年世代を、渋ヴォル様には年配世代を攻略してもらおう。それでいいですよね、ヴォル様?」
振り向いたら、ヴォル様は何だかボケーッとしていた。なのでその頭の上に手を乗せて押してみた。そうしたら頷いた。
「よっしゃ了解ゲット! リドるん、今募集しているオーディション全部調べて」
「OK, honey. 若者向けは多いだろうけど、年配向けは少ないと思うよ? そっちはどうする?」
「原宿スカウトも難しいから、やっぱりここは地道に売っていこう。劇団を立ち上げてそこの花形ってことで」
「あぁ、ルシウス・マルフォイらも一緒にデビューさせるんだ?」
「うん。ビジュアルがいいから絶対に売れると思うんだ。むしろ劇団を大きくさせていって、そのまま芸能事務所化? そうすればヴォル様の手下はみんなそこからスタートすればいいし、裏工作も儲けも全部一どころに集まるし」
「じゃあ闇の魔法に浸かった者たちは、容姿と能力に相応しい道にデビューさせるレールを作る? 養成学校も必要かな」
「基礎があればいいよ。後は魔法で底上げするし。違反かもしれないけど世界征服のためなら仕方ないしね」
リドるんはオーディションを見つけては、さくさくと申し込みをしていく。
写真をどうしてるのかと思いきや、永遠の現役16歳な自分のものを使ってるし。
そりゃ受かるね。間違いなく最終審査まで写真だけでフリーパスだよ。
「ヴォル様」
反応がないので突いてみる。あ、お肌すべすべ。50代からの化粧品使用中?
「あのー、ヴォル様ー?」
つんつん。うわ、マジで餅。これなら男性化粧品のCMも全然イケるね!
「ヴォールーるーんー?」
「――――――なんだ」
三度目の正直で反応してくださったヴォル様は、リドるんほどマグル界に精通していないらしい。
まぁ精通していたら滅ぼそうなんて考えないだろうしなぁ。だってリドるん、今や国際運転免許まで持ってるよ。ってことは立派な戸籍があるわけだよ、彼にはマグル界での。
うーわー順応力すごすぎ。さすがリドるん。
「ヴォル様、歌は歌えますよね?」
「当たり前だ」
「演技は? もちろん出来ますよね。なんたってホグワーツ時代は、かのダンブルドア校長を七年間騙しぬいたんですから」
そう言ったら、ヴォル様は一気に顔を険しくされた。
悪者オーラが一段と激しくなって、何を考えているのか手に取るように判る。
だから笑って言っておこう。
「ヴォル様がマグルを嫌いなのは知っています。もしもどうしても許せないのなら、マグルを一人残らずヴォル様の虜にしちゃって、彼らを好き勝手に利用して、挙句の果てにはポイしちゃえばいいんですよ」
我ながらあくどいこと言ってるなぁとは思うけど。
「殺すだけならいくらだって出来ます。恐怖じゃ人を動かせないけど、魅力でなら動かせるんですから、まさに腕の見せ所」
眉根を寄せるヴォル様に、それこそ魅了するように出来る限りの笑顔を見せて。
「政府が滅びれば国は倒れますけれど、それでも文字や歌や演劇などの文化は残るんですよ。―――だから」



「ヴォル様が世界を征服するためには、文化を制すればいいんです」



そうすれば世界中は意のままになる。
言葉にはしなかったそれが通じたのか、ヴォル様は渋い顔でにやりと笑われた。うわ、サラザール・スリザリンそっくり。
まぁ、とにかくそんなわけで。



この一ヵ月後にヴォル様は銀幕スターとしてデビューを果たし、一躍芸能界のトップに仲間入りした。
・・・・・・滑り出し大成功。コンサルタント代として稼ぎの三割を要求しなきゃね。





2004年12月2日