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「真なる愛の紋章? ああ、ハルモニアの神官長が血眼になって手に入れたというあれですか」
何というか、ゼラセは黒い衣装が本当によく似合うと思う。黒いまっすぐな髪も気高い造りの整った顔も清楚で堪らないのに、その露出、大盤振る舞いで晒してくれる白い肌。放たれる色気と言ったらもう筆舌に尽くしがたいね! しかも本人は高飛車と来るものだから、これはもうアレだよ、最近流行の「ツンデレ」に分類してもいいのかもしれないよ。え? ツンデレはもう古いって? ごめん、最近こっちの世界に入り浸りすぎてて、魔法界の流行は良く分からないんだよね。うーん、帰ったらまず最初に新聞雑誌週刊誌チェックから始めなきゃ。
「血眼って何? ヒッキーが真の紋章を手に入れるのに謀略駆使してるのは知ってるけど、そこまで言われるのって初めて聞くかも」
「東の国を少なくとも三つ、その紋章を手に入れるために侵略したと聞いています」
「うっわ、さすがヒッキー。やることが派手だねぇ」
「殺した民、壊した町は数知れず。その行いがハルモニア軍を他国に知らしめる結果になったとか」
「でも、そこまでして手に入れる紋章でもないよねぇ? 確かに世界に27個しかない真なる紋章のひとつだけど、攻撃防御治癒はどの紋章でも基本だし、後は他人の愛が読めるのと破局カップルに愛を灯せること? それくらいは紋章の性質内だし、これといって珍しくはないと思うんだけど」
「ええ。真なる紋章とはいえ、特別視するようなものではありません。ですがヒクサクはどうしてもその紋章を手に入れたかったそうです。457年が来る前に」
「457年?」
首をかしげて考えてみる。えーと、今は確か太陽暦448年。ファレナ女王国ではゴドウィン派がクーデターを起こして大混乱の真っ最中。ちなみに私はというと、アルシュタートの話し相手兼女王騎士をやっていた縁でそのまま王子様の軍に参加中。で、えーと、457年っていうと今から九年後。しかし過去を飛び飛びで体験している私にとっては、未来というよりむしろ過去。年号と共に浮かぶのは、見事に成長する腹黒系天魁星。ソウルイーター、つまりそれは。
「私が初めてこの世界に来た年だ」
ヒッキーと出会って、愛の紋章を宿らされて、そのまま複雑怪奇な流れで門の紋章戦争に参加しちゃった年。うわぁ、みんな元気かなぁ。今会いに行けば九年若い彼らが見られるわけだ。いいね、美味しい! フリックさんとか今まさに美少年謳歌中!? 真面目に見たい!
「それではヒクサクは、あなたのために愛の紋章を手に入れたのですね」
「・・・・・・ごめん、ゼラセ。ちょっとそれは微妙に聞き捨てならないんだけど」
「実際そうでしょう? あなたの言葉を信用するならば、ヒクサクがどうして労して手に入れた、それも真なる紋章を出会ったばかりの異界人に与えるのです」
「ってことはつまり、ヒッキーは自分が私に愛の紋章を与えることになることを知っていた? だから私と出会う457年までに、愛の紋章を手に入れようとした」
っていうことは、どういうことだ。ちょっと落ち着いて考えてみよう、うん。
えーとえーと、まず最初の段階として、真なる紋章集めはヒッキーのライフワークだ。むしろ人生かけてる。自分以外の人の人生。うわ、とんでもない。で、そんなヒッキーは実に気前よく私に愛の紋章をくれた。ヒッキーの傍若無人な性格からして、それこそ国を三つ潰して手に入れた紋章を気紛れで誰かに与えるとは思えない。ってことはヒッキーは、最初から私に渡すつもりで愛の紋章を手に入れていた? そう考えると自然、ヒッキーは私の存在を知っていたってことになる。加えて、私が真なる愛の紋章を宿すということも知っていたということになる。それは何故。
最も可能性の高い推測としては、私がこれから、つまりヒッキーにとっては過去において、ヒッキーと出会うということが考えられる。だとすると457年のヒッキーとの出会いはアレか、完璧な画策か。うっわ騙されたし! むしろヒッキーのナチュラルな演技力に脱帽なんだけど。凄いな、美少年の上にアカデミー賞か。将来有望すぎるんだけどヒッキー。・・・・・・閑話休題。まぁ何だ、とにかくアレだ。ヒッキーにとっての過去にこれから私が飛んで、二度目のはじめましてになるのかもしれない。
それっていつだろうと考えて、唐突に答えが分かってしまった。間違いない。飛ぶのは多分、太陽暦元年。ハルモニア帝国の生まれた年。
「―――そっか、ヒッキーって天魁星なんだ」
思わず呟いたら、ゼラセがぎょっとした顔で振り向いた。そんな顔も美人だなぁ。今は私も真なる愛の紋章の力で28歳のビジュアルを保ってるけど、ゼラセの美しさには遠く遠く及ばないよ。それこそ星の紋章よりも遠い距離だよ。
ああでも、分かったし納得できてしまった。ヒッキーが天魁星。だから真なる紋章を集めていて、だからハルモニアの神官長なんだ。今まで五回、宿星の戦いを見てきてるけど、みんな始まりがあって終わりがあった。不老不死を得てしまうからこそ多くの天魁星は表舞台を去ったけど、ヒッキーはそうじゃなかった。
未来から来た私が愛の紋章を持っているのを知って、私に与えるために愛の紋章を探してくれたのだとしたら、それはつまりヒッキーにとって必要だということなんだろう。認めてくれたと思っても、いいのかもしれない。多分、これは喜ぶべきことだ。・・・・・・多分、これは、喜ぶべきこと、か?
アキノ、顔が崩れています」
「やっぱり? 何か微妙に素直に喜べないんだよねぇ」
ああでも、うん、約束するよ。時が来たなら必ずヒッキーの傍に行こう。すべての始まりをちゃんと見たいし、きっとまだ只人であるヒッキーは今まで見てきた天魁星と変わらず弱さを抱いているだろうから。愛の紋章を貰った者として、力になろう。何たってほら、一応友達かもしれないわけなんだし。うん!
「楽しみだなぁ、若いヒッキー。すれてない分可愛げが期待できそうだよね。うっわ、楽しみになってきた!」
想像するだけでテンションが上がって拳を握ったら、ゼラセに冷たい眼差しで見られたし。ロードレイクに偵察に行っていた王子様一行が帰ってきて、その輪から無理やり連れて行かれた猫型ルックが一足先に抜けてくる。王子様もこっちに気づいて、アルシュタート譲りの美貌でふわりと笑ってくださった。駆け寄ってくる姿が可愛いことこの上ない。
うん、こっちはこっちで楽しみだよね!





逢いに行くよ





(過去で待ってて、ヒッキー。必ず行くから。)
2008年8月14日