どうしよう。ルカもジルもいなくて暇だったから庭に出てみたら、何かやばいものを見つけてしまった。
っていうか踏んだ。感触は柔らかくもなく硬くもなく。どちらかといえば無いに等しい?
いやしかし痛みはあるだろう。むしろある意味殴られるよりも痛いと思う。
どかんっていう痛みか、ずきっていう痛みか。種類はいろいろあるけど、マゾじゃないからどっちも嫌だなぁ。
でもってサドでもないから、与える方も好きじゃなくって。
うん、だからここは素直に謝ろう。
「ごめんね、ユーバー。髪の毛思いっきり踏みつけちゃって。でもって久しぶりー。相変わらず綺麗な金髪だねぇ」
緑の中庭で寝転がっている彼を見下ろし、にっこりと再会の挨拶を。
あぁでも私、やっぱり傾向としてはサドかもしれない。だって精神的ダメージを与えるは大好きだしね!
血と口付け、あなたはどっち?
私とユーバーの出会いは、トラン解放戦争だ。
ウィンディさんにパシられていたユーバーは、兜を取ったらどんな美形なのかめちゃくちゃ気になってたんだよねぇ。
結局その中身を見ることは出来なくてお別れしたんだけど、ここで会えたのが運の尽き。いや違った、運命だ。
「貴様は・・・・・・解放軍の」
「イエス。ユーバーってば今はハイランドで何やってるの? 今度はルカのパシリ?」
「貴様からは相変わらず混沌の匂いがする。なのに何だ、その似合わない紋章は。まだ着けていたのか」
「だってヒッキーが新しいのくれないしさ。あの人、探してるとか言っておきながら絶対に探してないよねぇ。だって月一でその代わりのように手袋やら洋服やら送ってくるんだよ? そのうちハルモニアの国費が傾くんじゃないかってちょっと心配」
「好きなだけ傾ければいい。そうすればこの世はさらに混沌に染まる」
「嬉しくないなぁ。罪悪感駆り立てないでよ」
ユーバーの髪を踏みつけていた足をどかし、隣に座り込む。
そうすると寝転がっていたユーバーの頭が私の膝に乗った。了解もなしの行為はセクハラ。セクハラユーバー!
「痛いから、兜外してもいい?」
「好きにしろ」
やっぱセクハラオーケー! オーケーユーバー! やったね、ついにそのご尊顔を拝見させてもらうよ!
いそいそと緑な兜に手をかける。うわ、硬いくせに意外と軽いな。どういう材質で出来てるんだろう。
「・・・・・・・・・ユーバー、想像通りの美人さんだねぇ」
出てきたのは、やっぱり予想に違わない美形だった。しかも今まで見てきたのとはちょっと質が違う、うーん・・・・・・あえて言うなら神秘系?
精悍っていうよりは綺麗。その綺麗さが返って怖くなるようなタイプ。
オッドアイの目は色は違うけどシャニと同じだ。でも爬虫類みたいに細い目が、ちょっと面白くて楽しい。
「ペシュメルガの素顔もこんな美形なの?」
「奴の話はするな」
「同盟軍に戻ったら是非見せてもらおう。ペシュメルガは黒髪だからユーバーとはちょっと違った感じがするかもね。うっわー楽しみ! 同盟軍での喜びが一個増えた!」
「奴の話はするな。殺すぞ」
「相変わらず短気だねぇ」
よしよし、とユーバーの髪を撫でてみる。うっわ、何この手触り! どこのシャンプー使ってんの!?
犬を撫でるように良い子良い子してたら、ユーバーに掴まえられた。手も大きいね。美形の身体だ。
「なるほど・・・・・・ルカ・ブライトの連れてきた『母親』とやらは貴様のことだったのか」
「そういえばユーバー、紹介されたときいなかったっけ。団体行動は組織の基本だよ。ちょっとは学んでおかなきゃ」
「必要ない。人間など所詮は餌だ」
「その台詞、人間である私の前で言われてもねぇ。ルカの混沌は美味しくない?」
「貴様が来てから清まりつつある。余計なことをするな」
「じゃあその分私が提供してあげるから、ルカにはもう手を出さないでね」
「ほう?」
ユーバーのオッドアイがすごく楽しそうに笑った。
うーん、やっぱりこういう交渉は足元を見られるから好きじゃないなぁ。勝算がなくちゃやってられないよ。
「一日につき、血を一滴。あげすぎると貧血になっちゃうから、それでどう?」
「そんなに狂皇子が大事か」
「ルカ・ブライトが大事なの。大丈夫、ユーバーも大好きだよ?」
「貴様の言葉は信用ならん。その点ではレオン・シルバーバーグといい勝負だ」
「うっわ、嫌な勝負だし。いたいけな小娘と老獪なおっさんを一緒にしないでよ」
「貴様はいたいけというより凶悪だろう。だが、俺はその方がいい」
ユーバーはそんなことを言うと、掴んだままだった私の手を引き寄せた。
うーん、ブラック系騎士? 掌に落とされる唇がくすぐったい。でもって指を噛むな。食い千切られそうで怖いんだって。
そんなことを考えてると、ユーバーはやっぱりものすごく楽しそうに笑った。獲物を前にしたときよりも、何故か楽しそうに。
「血は三日に一度でいい。その代わり毎日俺の相手をしろ」
腕を引っ張られて、間近になったユーバーの顔。
至近距離で見ても耐えられるなんて、やっぱり美形はすいごいなぁと思った。
2005年7月8日