よもやまさかこの年になって再び制服を着る日が来ようとは、リドるんでさえも思うまい。
あぁ、何か懐かしいよ、この感じ。ブラウスにクリーム色のニット、黒のリボンタイに型の面白い赤いブレザー。
しかし特筆すべきはこのスカート! 膝上10センチ? 15センチはないといいな。20あったら犯罪だけどね!
白のハイソックスに茶色のローファー。長い髪はやっぱり三つ編み? 基本に忠実にしておきますか。
「おまえ、似合うなぁ・・・・・・」
「そんなしみじみと言われましても」
どこか感心したように呟くフリックさんにツッコミを入れつつ、私たちはグリンヒルへと乗り込んだ。
つーか私、外見はともかく中身は今年で31歳になるんですけど。この年で学生なんて詐欺罪で訴えられたら敗訴ですって!





あの素晴らしい青春よ、もう一度





「えーと確認しておくと、とりあえずすべきことはテレーズ嬢の居場所を知ることだよね?」
「はい、そうです」
「オッケー判った。じゃあここからは別行動ということで」
「えっ!? さん!?」
に手を振って歩いていこうとしたら、反対の手をルックにがしっと掴まれた。
あぁ残念。ルックがもしニューリーフ学院の制服を着てたら捕まっても良かったんだけどね。コスプレは楽しいと思うのに。むしろ似合うと思うのに!
「どこ行く気?」
「どこってもちろんテレーズ嬢の居場所を探りに」
「でもちゃん、王国軍の兵士もいるんだし一人じゃ危ないよ!」
「大丈夫だよ、ナナミちゃん。これでも紋章の所持者だし? 並大抵の相手なら叩きのめす自信もあるから」
「それはそうだけど・・・・・・」
心配してくるナナミちゃんに笑い返し、まだ手を握ったままのルックにもにっこりと笑いかける。
あ、片眉を顰められたし。でもいいや美少年だから良しとしましょう。
「大勢なら駄目だけど、一人で聞けることってたくさんあると思うし。ね? ここは一つ私を信じて?」
「本心は?」
「久しぶりの学校生活を満喫させて?」
手首を捻ってルックの手を外し、今がチャンスとダッシュで駆け出す。
「夜にはちゃんと戻るからー!」
呆気にとられているやフリックさんに手を振っといた。
だって13年ぶりの学校生活! 楽しまなきゃ損に決まってるしね!
よっしゃ! 思い切り遊ばせて貰いましょう!



紋章師から鍛冶師まで幅広い才能を育成するニューリーフ学院。
うん、いいね。そういう個性を大切にした教育は好きかも。応用の利く生徒を育てて下さい。
そんなことを考えながら歩いていると、後ろから声をかけられた。
「ねぇ、君」
「―――はい?」
振り向けば、ニューリーフ学院の制服を着た男子生徒が二人。
女子のとよく似ている変形ブレザー。でもカラーは緑の色違い。あぁもうルックもこの制服を着てくれればよかったのに!
むしろ今度ヒッキーに着せるべきか? 同じ顔なんだから似たような感じになるはずだし。オッケーオッケー、トライ決定!
「えっと・・・・・・見ない顔だけど、新入生? それとも転入生?」
「転入生です。本当は新学期から来るはずだったんですけど、グリンヒルまで来るのに時間がかかってしまって・・・」
「そうなんだ? じゃあ俺たちが校舎とか案内しようか?」
「教室とか実験室とか、いろんなとこ案内するよ」
お誘いの言葉に裏はともかく怪しさはなさそう。設立者であるワイズメル家の家風が染み付いてるのか、学院もどうやら爽やかそう。
照れくさそうに笑っている彼らは中々の美少年だし、ではではさっそく再青春でも謳歌しますか!
「でも・・・ご迷惑じゃありませんか?」
「まさか! 君は何コース? 俺たちは紋章術なんだ」
「あ、私も同じです」
ここでちょっと微笑してみる。安心したように、緊張がほぐれたように。可愛らしく笑ってみよう。
あはははははは! この世界に来てから、私ってば役者だね! オスカー賞にノミネートだよ!
「―――っ・・・じゃ、じゃあ何でも聞いてよ! ほら、俺たち一応先輩だし!」
「そうだよ! 力になるからさ!」
「ありがとうございます」
元が普通でも使い道を知ってるって素晴らしいことだと思う。
というわけで、成功万歳!



「――――――で?」
「紋章術の教室と資料室、それと実技室を案内してもらって、彼らの友人が鍛冶コースにいるらしいので見学させてもらったら試作品らしいペンダントをもらって、図書室では綺麗なお姉さんが説明とかして下さって、カフェでは夕食の他にケーキとかご馳走になってしまって、年上の女の先輩が一緒にお風呂に行こうって言うものだから一緒して乙女の会話を楽しんで、その後は紋章術のコースを選択している人たちが歓迎会を開いてくれるって言うから申し訳ないと思いながらも主賓として招かれて、まぁかこつけ一杯むしろたくさん頂いてきました」
「・・・・・・・・・テレーズの情報は?」
「明確な居場所に繋がるものはなかったけど、まぁ噂程度ならここに」
メモ帳を手に乗せると、ルックのしかめっ面が悔しげに変わった。
楽しみながらも仕事は忘れませんって。怒られるようなことは回避したいし、でもルックの顔で怒られるならそれもまた楽しみだけど。
「うわぁっ! ちゃんさすが!」
「ふふふ、やるときはやる女ですから?」
「でもさん・・・・・・本当に、危険なことはしないで下さいね?」
「学生とお茶のみのどこに危険が? まぁ違う意味での危険はあるかもしれないけれど」
「・・・・・・?」
「・・・・・・」
「えーっ! ちゃん、ひょっとして!?」
は首を傾げて、ルックは眉間にしわを寄せたけど、ナナミちゃんは大反応。
おやおや、乙女の会話第二ラウンドに突入の予感? 修学旅行じゃないけど夜更かしして話すのは学生生活の基本だしね!
テレーズ嬢がいつ見つかるかは判らないけど、それまでは楽しませてもらいましょうか。

31歳の学生生活、始まり始まりー!





2005年6月22日