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それはたまたま小耳挟んでしまった会話。
「だからぁ、一番強いのはフリックさんだよ! だって『青雷のフリック』って呼ばれてるもん!」
「そうかなぁ。ビクトールさんも強いと思うけどなぁ」
「魔法ならルック君なんだけど・・・・・・あ、でもアキノちゃんも強いよねっ!? アルフ、やっぱりアキノちゃんが一番かも!」
「あぁ、うん! そうだね、アキノさんが一番強いよ、きっと!」
「というわけで、一番強い剣士はアキノちゃんに決定!」
同盟軍の軍主であるアルフと、その姉のナナミの会話。
楽しげに交わされているそれを偶然聞いてしまったマイクロトフは、ちょこっとだけ目を瞬いた。
そんな彼の腰で、愛剣が小さな音を立てて存在を主張する。
少しだけ躊躇った後、彼は足早に来た道を戻った。

なんだか高揚する気持ちを、その胸に抱きながら。





うわさのおかた





「失礼、少々お尋ねしたいことがあるのですが宜しいでしょうか」
城から出てきたマイクロトフは、道行く人々の中でゆっくりと歩いている少女に声をかけた。
まっすぐな黒髪を背中に流し、同色の瞳で自分を見てくる少女は、おそらく17・8歳くらいだろうか。
にこやかに浮かべられた微笑は迷惑といった色を浮かべておらず、その様子にマイクロトフは何となくホッとする。
「はい、何でしょう」
アキノといわれる人物がどこにいるか、ご存知ならば教えて頂けないでしょうか」
「・・・・・・・・・アキノさん、ですか?」
「あ、しかしご存じなければ―――・・・・・・」
「いえ、知っています。アキノさんとは親しいですから」
そう言って少女はにこりと笑う。距離を感じさせないその笑顔に、もしかしたらこの少女はアキノという人物の恋人だろうか、とマイクロトフは思った。
けれどそれは邪推だと頭を振って、考えを追い出す。
アキノさんに何か御用なんですか?」
「いえ・・・・・・先ほど、アキノ殿がすばらしい剣士だという話を聞きましたので」
「騎士として気にかかるってところでしょうか」
「まぁ、そうです。強さばかりがすべてではないと分かっているのですが、どうも気になってしまって・・・」
「それだけマイクロトフさんが精進を怠らない人だということですよ。いいじゃないですか、強い人は強い人と戦うことでさらに成長するでしょうし」
どこか年齢に見合わない大人びた台詞を述べ、少女は再び歩き出す。
「それじゃご案内しますね」
「あ、いや。あなたもお忙しいでしょうし、アキノ殿がどこにいらっしゃるのかさえ教えて頂ければ」
「いえ、私もどうせ暇を持て余していましたから。アキノさんを見つけたら、やっぱり勝負でも挑まれるんですか?」
「そう・・・ですね。アキノ殿さえお受けして下されば、一度剣を合わせてみたいと思います」
「楽しみですね」
穏やかに話しながら、店の並ぶ通りを抜けて鍛錬場の方へと向かっていく。
女性があまり得意ではないマイクロトフだが、何故かこの少女は話しやすく、沈黙も訪れずに会話が続く。
鍛錬場の門をくぐると、ちょうど訓練中らしい元マチルダ赤騎士団のメンバーたちが思い思いに剣を研いたり、休憩を取ったりしていて。
その中でも一際目立つ人物が二人に気づき、さわやかな笑顔で歩み寄ってきた。
「マイク、おまえも隅に置けないな。こんなに可愛らしいレディと散策とは。だがこの場所はデートには相応しくないと思うね。もっとレディの好みに合わせてリードしなくては」
「なっ・・・! カミュー! 違う、デートなどではない!」
「おや? それは本当ですか? レディ」
向けられた微笑に、少女も同じように笑顔を返す。
顔を赤くしたりしない自然体の様子に、弁解しているマイクロトフは気づいていないようだったが、カミューは内心で感嘆した。
自意識過剰ではないが、自分の態度はどの女性にも通じるだろうと思っていたので。
「はい。私はマイクロトフさんをご案内してきただけですよ」
「それは良かった。ではこの後は私とデートでもいかがですか? 鍛錬場ではなく、テラスで美味しいお茶など、よろしければ一緒に」
「カミュー!」
いつもどおりと言えばいつもどおりな友人の誘いに、マイクロトフは声を荒げる。
けれど本気に取っているのは彼だけで、言われてはずの少女は楽しげに笑った。
「せっかくのお誘いですけれど、この後はマイクロトフさんとお約束があるので」
「へぇ、やるじゃないか、マイク」
「な・・・っ!? お、俺は・・・・・・っ!」
「マイクロトフさんたっての希望で、一勝負することになっているんです」
ぴたりと時を止めた騎士二人に、少女は微笑みかけて左手を持ち上げる。
そこにはいつの間に手にしたのか、鋭い剣が握られていた。少女の体に合った軽そうで、けれどしっかりと使い込まれた剣が。
息を呑んで目を見開くマイクロトフと、怪訝そうな顔で目を細めるカミュー。
そんな二人に微笑を一つ寄越し、少女は鍛錬場の中央へと足を進めた。

「遅くなりましたけれど、自己紹介を。私は同盟軍で一兵士をやっております、アキノです。どうぞお見知りおきを」

さぁマイクロトフさん、戦いましょうか。
そう述べた少女は、いたってどこにでもいそうな普通の少女に見えた。



「ちなみに私、こんな外見をしてますけど実際は31歳なんですよね。でもってすでに子供も一人いるんで、もう『レディ』って呼ばれる分類でもないと思うんですよー」
マイクロトフと、更にその後カミューまで敗北させ、さわやかに少女は笑う。
そんな彼女はやはり、どこにでもいそうな普通の少女に見えた。
・・・・・・・・・中身は、どうあれ。





2005年6月20日