そういえば実はさっぱり忘れかけたたんだけど、私の左手にある『真なる愛の紋章』は、使用時にちょっとした問題が発生するとヒッキーが言っていた気がする。
たいしたことじゃないと言っていたし、この紋章はプライバシーに引っかかるばかりだから使わないようにしてた。
だから必然的に使用時の問題については私も知らない。でも今考えれば先に知っておけばよかったと思うよ。
だってそうすればこんな事態は避けられたのだろうし。
「・・・・・・・・・誰?」
の驚きと警戒心の溢れる声に、ちょっと悲しくなったりして。
うん、でも私も28歳に成長した自分に異世界でお目にかかれるとは思ってなかったよ・・・・・・。





愛の使者





身長は160センチちょっと。18歳の私からすると5センチくらい高くなってる。髪は長くなってるし、心なしか指も細くてキラキラしてる?
いやでもやっぱり特筆すべきは身体だよ! 見下ろすと目に入る鎖骨、デコルテ! 何この完成度の高さ! どこの石像!? 腰とか足首とかちゃんと括れが出来てるんだけど! うっわ、大人の女って感じ! しかも何この胸! このお尻! どこのグラビアアイドル!? いや、それは言いすぎだけど、でもちゃんと立派な大人の女になってるよ! 18歳の少女から女性への成長途中じゃなくて、もうちゃんと完成された女性型!? うわ、ちょっと鏡がほしい! 顔は!? 顔は一体どうなってるわけ!?
「アクシオ、鏡!」
杖をふるって鏡を召喚する。出てきた鏡を覗き込んでみれば、やっぱり18歳の私より全然成長した顔があるし!
何て言うんだろう。幼さがなくなったっていうか、世の中の苦さを体験しつつあるというか、大人びていると言えばいいのか、とにかく立派な女性の顔が映ってる。
うーわー・・・・・・・・・28歳の私って、こんな風になるんだ。ちくしょう、これなら鏡を見るたびにご機嫌になれそうなのに。
なのになんで18歳で成長が止まったんだ。犯人出て来い、血祭りに上げてくれる。
「その魔法・・・・・・・・・まさか、・・・・・・?」
信じられない風の声が聞こえて顔を上げれば、が何だか呆然と私を見ていた。
その後ろのフリックさんもビクトールさんも、珍しくルックも目を丸くしてるよ。
うん、でもそれはそうだよねぇ。だっていきなり18歳の女の子が28歳に変身するわけですから。いやでも普通に育ってればこの外見になってたはずなんだけどね。
あぁ、本当に惜しいことをした・・・・・・。
「うん、です。えーとごめんね、何かちょっといきなり変身とかしちゃって。実はこの『真なる愛の紋章』を使うと一時的に私にかけられている呪いが解けて、本来の年齢の姿に戻るらしくて。とは言ってもそこから更に真の紋章による不老の呪いがかけられるから、10年後に紋章を使っても28歳の姿に変わることになるんだけど。ちょっと慣れないかもしれないけど半日から一日で元に戻るっていうし、まぁ気にしないでおいてくれると嬉しかったり?」
一気に言ってみても、やっぱりたちはまだ驚きの中らしい。
背が伸びたから、いつもと視界が違うなぁ。ルックと目線が一緒だよ。ビクトールさんを見上げる角度も厳しくないし。
「・・・・・・・・・って、本当は28歳だったの?」
「・・・・・・聞くべきことはそれじゃないだろ」
の言葉にルックが突っ込む。そんな彼の視線は私の左手に注がれている。
ルックは私が真の紋章を宿してることには気付いていたらしいけど、それが何かまでは知らなかったっぽい。
私としても恥ずかしいから言いたくなかったんだけどね。だって真なる愛の紋章だよ? 真なる『愛』の! なんて結婚詐欺っぽい!
「うん、実は28歳だったんだ。呪いで成長が18歳のときに止まっちゃって、信じてもらえないかもしれないから今まで黙ってたんだけど」
「呪いって・・・・・・?」
「私は善良な市民のつもりだけど行動はそうじゃないみたいらしく、恨みを買うことも多々あるということで」
「その紋章は?」
「『真なる愛の紋章』。出来るのは他人の愛を知ることと、治療回復・精神攻撃・愛を再熱させること?」
「・・・・・・どうしようもないね」
「そう言わないでもらえると嬉しかったり。まぁでも自分でもそう思うから今まで黙ってたんだけどね」
ルックの言うとおり、どうしようもないからヒッキーは私にこの紋章を押し付けたんだと思うよ・・・。
他に合うのが見つかったら変えてくれるとか言ってたけど、果たして本当に別のを見つけてくれてるんだかいないんだか。
ヒッキーのことだから絶対に見つけない気がするよ。その代わりに謝罪のごとく高級手袋を送りつけてきそうだよ。
手袋よりは紋章札とか旅支度に必要なものがいいなぁ。もしくは金。あるいは美形?
「あぁ・・・・・・でも、うん、なるほど」
がなんだか頷いている。嬉しそうに見えるのは気のせいか? 気のせいか。
「普段からは大人びているような気がしてたけど、28歳なら当たり前だね。その姿も綺麗だよ。一日だけなんて勿体無いなぁ」
「うっわーってば実は年上好み?」
「うん、実はそうかもしれない。いいね、。一粒で二度美味しい」
「褒め言葉ありがとう。私もの美少年で時々ブラックだったりするところが好きだよ」
「あはは、こそありがとう」
微妙な遣り取りに、ルックはもう呆れかえった様で半目になってる。大丈夫、ルックの美少年で毒舌なところも大好きだよ?
にこにこと笑い合ってると、どうやらフリックさんたちもやっと正気に戻ったらしい。
ビクトールさんがものすごく楽しそうに笑いながら近づいてくるよ。うーん、肩に乗せられた手はセクハラなのかなぁ。
まぁいいや、特に悪い気はしないし。
「何だおまえ、本当は俺と変わらない年なのか! 元に戻ってもまたすぐ紋章使って、ずっとその格好のままでいてくれよ。そうすりゃ俺たちのやる気も出るってもんだ」
「どのやる気だかツッコミいれるべきかもしれませんけれど、そうなんですよ、同年代なんですよね。この格好だとちやほやしてもらえるんですか? ならこのままでいてもいいかも」
「ジーンにも負けないイイ女だぜ? おまえなら解放軍の男を全員虜に出来るかもな」
「あはは、それじゃウィンディ二世になっちゃいますって。いやでも捨てがたいですねぇ、テンプテーション」
朗らかに笑ってると、何だかフリックさんがものすごく戸惑ったような顔をしている。
この人にとって女性は鬼門みたいだしなぁ。じゃあとりあえず笑顔を向けておこう。
18歳じゃなくて28歳の外見だし、にっこりじゃなくて微笑がいいかな。ジーンさんを見習ってちょっと妖艶に?
えーっと、目を細めて、唇をゆっくりと吊り上げて、誘うように、少し挑戦的に。
・・・・・・こんな感じ?
「―――っ!」
フリックさんが真っ赤になって、ビクトールさんがピュウッと口笛を鳴らした。
が笑みを深くしたし、ルックがちょっと目を見開いたから多分成功? よっしゃ、新たなる技をゲット!
は上から下まで幅広く下僕を増やしそうだね」
「素敵な予想をありがとう、!」
軍主のお墨付きも貰ったし、後は魅了するばかり!
ありがとう、ヒッキー! 今初めて君のつけてくれた『真なる愛の紋章』に感謝したよ!
28歳の私、万歳!





2005年6月14日