青い空、白い雲、輝き続ける眩しい太陽、穏やかに波打つ青い海原。
視界は一面すべてブルー。マリッジブルー。いや違った、マリンブルー? もしくはスカイブルー。
どちらにせよこのままでいたら全身日焼けすること間違いなしだね。それは困る。日焼け止めも塗ってないのに。
もう肌荒れを気にするほど若くはないかもしれないけど、それでも美容に気を配るのは乙女の性ってものだと思うし。
それに何より、リドるんの甲斐あって今まで保たれてきたこの肌を、彼のいないところで駄目にするのは後が恐ろしいし、むしろうるさい。
なので日傘でもほしいなぁ。でも呼び寄せられないなぁ。だってこの世界に私の日傘ってまだないし。あぁ、買っておけばよかった。
「干からびるのと津波に巻き込まれるの、どっちが先だと思う?」
「モンスターの餌になるのが先だね。今なら海もさもさにだってやられるんじゃないの」
「個人的にはクジラがいいなぁ。でもってお腹の中でディペットじいさんと感動の再会」
「せいぜい丸呑みされることを祈るんだね」
もはや筏とも言えない板一枚の上で、見上げる空のなんて青いこと!
溜息を吐いたら幸せが逃げるって言うから堪えたけれど、隣で吐かれちゃったから意味なんてないような気もするし。
うーん、はてさてどうしましょう。

「・・・・・・海は広くて大きいねぇ、ルック」

思わず童謡を歌いだしたら、隣で猫が丸くなった。





原因は、君だと思うわけですが、何か異論でもありますか?





この状況の元凶は、レックナートさんだ。
瀕死のセラちゃんとルックを連れて帰ってきた私を、あの人はとても優しく介抱してくれた。さすが美人だと思ったくらいに。
だけど私とレックナートさんの力を持ってしても死力を使い果たした二人を完全回復することは出来なくて、セラちゃんは魔力を持たない普通の女の子になってしまった。
まぁでももう戦うことはないし戦わせたくないし、普通っていってもめちゃくちゃ可愛い器量よしさんだから全然心配要らないと思うけど。
むしろ魔法が使えなくなったってことで余計に男たちが寄ってこないかが心配だよ・・・。セラちゃん、今頃元気でいるかなぁ。
でもってルックは。セラちゃんより重症で、自分と一体化している真なる風の紋章とか無理やり剥がそうとしちゃった強引★お茶目さんルックは。
――――――翠色の毛並みが美しい猫になりましたとさ。
「・・・・・・何?」
「いや、ルックが反乱起こしてレックナートさんのところから家出して彼女に家事を全部押し付けたりしたから私が今こうやってどこかも分からない海を漂わされたりしちゃってるんだよねぇ、なんて思ってただけ」
「・・・・・・悪かったよ」
「っていうか本当にお馬鹿さんだったと思うよ、本気で。ヴォル様より愚かだよ。まぁサラザール・スリザリンよりかはマシかもしれないけど、判定はちょっと微妙。ミスター・マルフォイの嘘くらい微妙」
「・・・・・・・・・」
「むしろヒッキーのお膝元でそんな計画を実行に移した無謀さを褒め称えたいね。教卓の前でタバコを吸う学生に同じ。あんなプランをヒッキーが見逃すわけないのに。それなのに手を出してこなかったってことは、ヒッキーは君の行いがどこかで失敗するってことを知ってたんだよ。それなのに行動した君は、掌で踊る孫悟空に同じ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あー今頃ササライは元気かなぁ。真なる土の紋章もちゃんと元に戻ったかなぁ。ヒッキーに虐められてないといいけどなぁ。ヒューゴもクリスもゲドさんも元気だといいけどなぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・君、実はものすごく怒ってる・・・・・・?」
「怒ってないと思う? 目的をやり遂げるには笑顔・お願い・交渉・取引・脅迫・強襲の順でやりなさいってトラン解放戦争のときもデュナン統一戦争のときもずっとずっと言ってたのに、全然守らず最初から暴力行為だし? 大体、未来のビジョンが見えたからって君が責任を感じることはないんだよ。君が世界を更地に戻せるなんて思ったなら、それは随分と傲慢だよね。そんなことはヒッキーにだって出来ないっての。塵が積み重なってそうなるんだったら悪いのは世界中の誰しもなんだよ。だから気にしたら負け。むしろ大敗」
「でも」
「言い訳は聞きません。大体さっさと私に理由を言ってれば、あぁいうことにはならなかったのに。君と希望があればササライを産みなおしてあげられたのに」
「・・・・・・・・・でもそれだと、君の息子になるじゃないか」
「シングルマザーに何か不満でも? ルシアさんとタッグを組んでほしい?」
「僕は君の息子にだけはなりたくない」
「それはすでに息子を一人持っている私に対しての挑戦だと受け取ってオッケー?」
「だって、君の息子になったら近親相姦になるじゃないか」
「・・・・・・・・・と?」
「・・・・・・・・・馬鹿?」
猫ルックはそれだけ言うと、ふいっとまた丸くなってしまった。いや、うん、分かってるんだけどね。でも正面から受け止める気は今のところないし諸事情的にも無理だから流すしかないわけで。
手を伸ばしてごろんと引っくり返すと、嫌がる猫ルックのお腹にはシルバーの渦巻きみたいな文様が。
うんうん、今日も真なる風の紋章はちゃんと固定されてるみたい。さすが私。
「というわけでルック」
「・・・・・・・・・ものすごく嫌な予感がするけど、何」
「その紋章を使って岸までジェットスキープリーズ」
猫を持ち上げて、前足だけ板の端っこに捕まらせて海の中に落としてみた。さぁ、足から切り裂きを出してジェット噴射だ!
「後で覚えてなよ・・・・・・!」
悪態つきながらも猫ルックは本当に後ろ足から切り裂きを出してくれた。多才だねぇ、君は。
ジェット板は進む進む。うわ速い。
「ねぇルックー? 長年の感から言って、右に行けば落ち着いた美青年に、左に行けば格好いい美少年に会える気がするんだけど、どっちがいいー?」
「どっちも嫌だね! まっすぐに決まってるだろ!」
「個人的には左かなー。美少年以外にも綺麗どころがたくさんいそうな予感がするしね。というわけで左に旋回!」
「うわ・・・・・・っ!」
猫ルックが何かニャーニャー言ってるけど聞こえません!
そんなこんなで私たちの大海原放浪記はまだまだ続くのだった。
・・・・・・むしろこれからがスタート?





2005年6月12日