ある日、新聞の一面が政治関係でも災害関係でもなくて美形のお兄さんの写真だったから、とりあえず読んでみることにした。
「・・・・・・『超有名お菓子会社社長サラザール・スリザリンが、幸福な子供五名を工場にご招待!』・・・・・・」
サラザール・スリザリンって、あのサラザール・スリザリン? この街の中心にでっかいお城みたいな工場を作って、でも出入りは車しかしてなくて従業員は全員住み込みかと思われているあの工場でヒッキーしてるらしいサラザール・スリザリン?
うっわ、私もこの街に住んで14年になるけど、あの工場でこんなイベントがあるなんて初めて知ったよ。
やーごめんねぇ、サラザール・スリザリンさん。街の中央にでかんっとあるだけで働き口も取ってない無用な人だと思ってたよ。
でもまぁ関係ないんだけどさ。だって私、チョコ食べないし。
「おはよう、
「おはようございます。リーマスさん」
リビングに入ってきた大きな毛玉に挨拶する。違った。毛玉じゃなくて狼だった。
ちょっと銅かかった毛並みがキラキラ。私の腰ほどもある大きな狼。ちなみに危険性はありません。ちなみに今日は満月でもありません。
そんな狼さんは名前をリーマス・J・ルーピンさんといい、私の家族の一人だ。
「ごめん、今から朝ごはんを作るからもう少し待っててくれるかな」
「いくらでも待ちますよー。リーマスさんのご飯、美味しいですし」
「ありがとう。にそう言ってもらえると嬉しいよ」
にこりと笑うリーマスさんは、男前だ。でも狼だ。満月の日だけ人間になれる不思議さんだ。
私の名誉のために言っておくけれど、私がリーマスさんをどうこうしたわけじゃない。ちなみに狼がどうやって朝食を作るのかは言わないでおこう、うん。
出てくるのは立派なイギリス式ブレックファーストだし、それだけでいいや、うん。
「何か新聞に珍しい記事でも載ってた?」
「んー、何でもサラザール・スリザリンが五名の子供を工場に招待するらしいですよ。チョコにゴールドチケットが入っていれば大当たりとか」
「へぇ、あのお菓子工場の? すごいね、」
「他社のスパイとか入りたそうですよねぇ。スリザリンの炎天下でも溶けないアイスとか、あれはもう特許物ですし」
「僕も買おうかなぁ。美味しいよね、スリザリンのチョコレート」
「じゃあ今日の買い物で買ってきますね。まぁそんな簡単に当たらないでしょうけど」
「ギャンブルに強いのことだから意外と引き当てちゃうかもしれないよ?」
「そうしたらライバル会社に売りましょうか。それで億万長者になれますよ」
そんな会話をしつつ、朝食の準備をしたりして。
家族その二のシリウスさんと、家族その三のリドるんを起こしてさぁブレックファースト。
今日も何気ない一日の始まり始まりー。





笛ポタ主人公とチョコレート工場





「とか言ってたらマジで当たっちゃいましたー」
うっわ、私ってば最強! もはやギャンブラーどころの騒ぎじゃないね! これで生計立てれるよ! 今すぐ宝くじ買わなきゃ! 連続で一位当てて宝くじ会社から「買わないで下さいお願いします」って言われなきゃね!
「・・・・・・当たったって、何がだ?」
「もしかして新聞読んでないんですか、シリウスさん。甘いものが嫌いだから興味ないのは分かりますけど、やっぱり今一番ホットなニュースくらい押さえときましょうよ、ホストとして」
「俺はホストじゃねぇ!」
「あぁ、すみません。ついシリウスさんの天職が口をついで出ちゃいましたよ。ごめんなさい、悪気は多分ありません」
、当たったって・・・・・・まさか」
「サラザール・スリザリンのゴールドチケット?」
「イエス、さすがリーマスさん、そしてリドるん」
いやぁリーマスさんのためにチョコを買って、人間的興味と興奮に従って店の外ですぐ開けてみたらキラキラ光るゴールドチケットが銀紙の間に挟まってるじゃあーりませんか!
いやもう自分の運の強さに感動したね! すごいよ、私! 最強、私! このまま世界も制圧できそう?
「ほら、これです」
ぺらっとゴールドチケットをリドるんに渡す。
ちなみにリーマスさんが狼なのに対して、リドるんは黒猫だ。大きくもなく小さくもなく標準的なミドル猫サイズ。
毛はあんまり長くなくて綺麗な闇色。瞳は血のような赤。もちろん満月には人間になる不思議さん。
「・・・・・・・・・本物みたいだね。さすが、最強の名は伊達じゃないね」
「素敵な通り名をありがとう、リドるん。それにしてもどうしよっか、ライバル社に売れば億単位で儲かると思うんだけど」
実はかなり本気で言ったのに、リーマスさんが「とんでもない」という風に首を振った。その向こうではシリウスさんが今朝の朝刊を読んでいる。
そんなシリウスさんは犬だ。リドるんより大きくてリーマスさんより小さい、毛の長いブラックわんこ。変身可。
いやぁ、いいねぇ。三人ともそれぞれ男前で眼福だよ。大好き、ペット。役に立つし。
「せっかくのチャンスなんだ、行くべきだよ、
「うーん、リーマスさんがそう言うなら行ってみますか。同伴者一名オッケーみたいですし、じゃあリーマスさん一緒に行きます?」
「嬉しいお誘いだけど・・・・・・その日は満月じゃないから、私は無理だよ。サイズ的にシリウスかリドルを―――・・・・・・」
「俺は断る! チョコレート工場なんか行ってたまるか!」
「というわけで、リドるん行く?」
「・・・・・・・・・仕方ないね」
猫のくせにリドるんは器用に肩をすくめた。うわぁ、可愛い可愛い。
サラザール・スリザリンさんの招待は一週間後だし、それまではゆっくり待つことにしよう。
あぁでも宝くじでも買って待つことにしようかなぁ。



一週間はまぁ普通に過ぎた。早くもなく遅くもなく、まぁいつもと変わらずに。
その間に予想して買ったサッカーくじは、見事に当たって十万円とかゲットしちゃったけど、まぁそれ以外はいたって普通に。
普通に一週間過ごして、今私はゴールドチケットの裏面に書いてあったようにサラザール・スリザリンさんのチョコレート工場前に来ている。
ちなみに腕の中には黒猫リドるん。
左右には私と同じようにゴールドチケットを当てた同年代の少年たちが四人。その同伴者が四人。
そして背後にはものすごい数の報道陣&見物人。うっわ、サラザール・スリザリンさんすごいね! さすがお菓子の億万長者! ネームバリューも伊達じゃないね!
「キャプテンキャプテン! まだ時間にならないんすかっ!? 俺、早く入りたいのに!」
「あと一分だ。落ち着け、藤代」
「集められた五人の中から最優秀賞が決まるんでしょ。もちろん俺に決まってるよね」
「・・・・・・・・・英士、その自信はどこから来るんだよ・・・」
「そもそも炎天下において溶けることのないアイスクリームなど何故作ることが出来るのだ。解析してみた結果、特に目ぼしい成分は検出されなかった。しかし俺が同じ材料でアイスクリームを作ってみたところ、やはり炎天下では五分で液体と化してしまった。やはりこの差は精製過程によるものだろう。ならば今回の工場見学はその過程を知る最高の機会。・・・・・・うむ、興味深い」
「ふ、不破君。あんまりクラッシャーにはならないでね?」
「っていうか、まだこの門は開かないわけ? いい加減に俺も暇じゃないんだよね。わざわざ学校休んで来てやったっていうのに出迎えもしないわけ、サラザール・スリザリンは。はっ! まったくそれでちゃんと社長やれてるわけ? 経営者としての手腕を疑うね、まったく!」
「翼、もうそろそろ門も開くって」
「いやぁリドるん。最近の子供って個性的だねぇ」
「人のこと言えないよ、
左右の少年たちの会話に耳を澄ましつつ世間の荒波を感じつつ。
のんびり待っていれば、どこからかスピーカーを通して声が聞こえてきた。あ、門も開く。
『さぁどうぞ、幸運な子供たちよ!』
あ、サラザール・スリザリンさんの声って好みかもしれない。



「はじめまして。僕がサラザール・スリザリンだ」
にっこりと微笑んだサラザール・スリザリンさんは銀髪に赤い目の綺麗で素敵な性格をしていそうなお兄さんだった。
年齢からいえばおじいさんかもしれないしおじさんかもしれないけど、美人に年は関係ない。うん、来てよかった! ありがとう、リーマスさん!
セルロイドっぽい人形のショーを拝見して、でもって溶けて目が落ちるのも見せてもらって、そして工場の中に入る。
あ、結構あったかい。これならリドるんで暖を取らなくても平気かも。
「最初にこの工場の中枢に案内するよ」
サラザールさんがそう言って歩き出すと、そんな彼の前に少年が立ちふさがった。
黒髪さらり細め少年。感じ的にアジア系? さっぱりあっさりキムチ味?
あ、その同伴者らしい黒髪つり目少年が焦ってるよ。落ち着け、少年。まずはオージンジだ。
「はじめまして、サラザール・スリザリンさん。俺の名前は郭英士です。どうぞよろしく」
にこやかな笑顔で名を名乗る郭君とやら。サラザールさんはさらっと一瞥し、鷹揚に頷いた。
「知ってるよ。君が郭英士。そっちが藤代誠二、不破大地、椎名翼・・・・・・それと幸運なお嬢さん」
何で私だけ名前じゃないのか聞いてもいいですか。森の奥に住んでるのが問題ですか? それとも動物がお嫌いですか?
「お嬢さん以外はテレビで散々見たからね。ゴールドチケット当選おめでとう」
「ありがとうございます。大変でしたよ。父に何万というチョコレートを買い占めてもらって、社員総出で包装を剥がさせて、それが三日続いてやっと見つけたんですから」
「そう、それはご苦労様」
「それで、俺がお聞きしたいのは俺たち五人の中のたった一人に与えられるという最優秀賞のことなんですけど―――・・・」
「それは追々判るよ」
さらっと流すサラザールさんは、やっぱり素敵そうな性格をしてる。
郭君を押しやってどんどん先に進んでいくから追いかけると、100メートルくらい先に扉があった。ちまい、ちまい扉。
うっわ、もしかしてここはアリス? 小瓶飲んで小さくなるの? ってことはサラザールさんが時計兎か!
「さぁ、ここが工場の中で最も大切な部屋だよ。すべてのチョコレートはここに集まるんだ」
「それにしちゃ扉が小さいんだけど? 一メートルの高さもないなんて、どんな不便な設計してるわけ?」
「君みたいな小さな子なら通れるかもしれないけどね。さぁ、行こう」
飴色美少年の毒舌も流して、サラザールさんは鍵を取り出してドアを開く。うわ、マジで素敵。
でもって中はさらに素敵だった。
広がる摩訶不思議自然! 足元の草! 転がってる野菜! 木になってる果物! 咲いてる花々! でもって何が素晴らしいって、川のごとく流れてるチョコレート!
うっわ、さすがだね! さすがだよ、サラザールさん! むしろお菓子屋やめてテーマパークでも作った方がいいかもよ!?
「ここにあるものは、全部食べることが出来る」
「えっ!? マジで!?」
黒髪短髪で、目元にほくろのある男の子が目をキラキラさせてる。まるで夢見る少年のようだよ。
あーでもリーマスさんもきっとこの状況を見たら夢見る少年になるかも。逆にシリウスさんは絶望少年になるかもだけど。
「本当だよ。さぁ、遠慮なくお食べ」
「いっただっきまーす!」
少年が犬のように走ってく。慌ててそれを追っていく、ちょっと年齢不詳な落ち着いた青年?
他の少年たちもそれぞれうろうろと回りだした。
「リドるん、どうよ、草」
「・・・・・・・・・本当に食べれそうだよ。甘いから飴かもね」
「うわ、ほんと? じゃあ私もいただきまーっす!」
黒猫リドるんが恐る恐る舐めてコメントしてくれたので、安全は保障されたし。ではでは頂くとしますか。
とりあえず雑草に見えて仕方ない草から、ご馳走になります!

どっぼーん、という音が聞こえてきたのは、私とリドるんがまったりと綿菓子で出来たお花を食べてるときだった。
サラザールさんにお願いして紅茶を出してもらったところだったというのに、邪魔するだなんて無礼だなぁ。
というか、落ちたって感じの音だよね。周囲を見回してみれば、年齢不詳青年がものすごく慌ててる様子が見える。
その先では、チョコレートの川にて幸せそうに溺れている少年が。
「藤代! 藤代ーっ!」
「キャプテン! チョコ、すっごいウマイっすよ! チョコプール!」
「何言ってるんだ! このチョコは売り物だってさっきスリザリンさんが言ってただろう! 早くあがれ!」
「いいじゃないすか、もうちょっとー」
チョコにまみれて判りづらいけど、さっき一目散にお菓子に飛びついた黒髪ほくろ少年かと思われる。
その藤代君とやらは、キャプテンさんに怒られながらも嬉々としてチョコ川で泳いでるよ・・・。上手いな、背泳ぎ。
「・・・・・・・・・まったく、どうしようもない」
いつの間にか隣にいたサラザールさんが呟いたと思ったら。
上から、太いパイプみたいなのが、チョコ川に下りてきた。
途端に起こる渦。吸い上げられていくチョコレート。あぁ、こうやってチョコを搬送してるのか、納得納得。
「え!? うわっ・・・・・・! 何だよこれ! キャプテン! キャプテン・・・・・・っ!」
「藤代! 藤代ーっ!」
「キャプっ・・・・・・・・・!」
あ、藤代君がパイプに吸い込まれた。おー・・・・・・上がってく上がってく。あ、つっかえた。
透明な長いパイプの中、藤代君がワインの栓みたいにつっかえてる。悪いけど、面白い。不憫だけど可笑しい。
「・・・・・・サイアク」
飴色美少年が呆れたように呟いた。
キャプテンさんが真っ青になりながらサラザールさんに詰め寄っている。
「スリザリンさん! これはどういうことですか!? 早く藤代を出してやって下さい!」
「そう言われても、売り物であるチョコレートに落ちた彼が悪いんだし。大丈夫だよ、あのチョコレートの運ばれる先は精製庫だから」
「藤代がチョコレートになるんですか!?」
「藤代誠二味のチョコなんて売れないよ」
至極真っ当な評価を下すサラザールさんは、買い手の好みを把握していると思われる。
そんなことを考えていたら、どこからともなくにょろにょろと何かが出てきた。
「・・・・・・蛇だ」
「蛇だねぇ」
どうやらサラザールさんの親愛なる部下であり、チョコレート精製を一手に担っている蛇さんたちは、一様に踊りだした。
というか、歌いだした。うねうねにょろにょろと、これはまた素晴らしいハモリ具合で。
歌の内容は―――まぁ端的に言えば、藤代君がいかに食欲旺盛かという内容だったと思うけど。
見事な歌に聞き入ってたら、いつの間にか藤代君はパイプに完全に吸い込まれた挙句、本気で精製庫に運ばれていったらしい。
キャプテンさんも、恐ろしげに肩を落として蛇に案内されて精製庫へ。
「さぁ、次の部屋へ行こう」
やっぱりあっさりさっぱりと、サラザールさんは言った。素敵な性格だなぁ。



蛇さんたちが漕ぐ、飴でできた蛇のゴンドラに乗り、チョコレートの川を揺られることしばし。
次に着いたのは、どうやら開発室らしかった。ここからあの素晴らしいお菓子が作られていくのか、なるほどなるほど。
「ここにあるものは、まだ開発途中のお菓子たちだ。好きに見ていいけれど、決して触らないこと」
サラザールさんの言葉に、今度我先にと歩き出したのは深い茶髪の髪の寡黙そうな少年だった。
でもその瞳がきらめいてたよ。科学とか好きそうだと見た。
そんな私の予想に違わず、少年はサラザールさんに次々と質問をしていく。
「これは何だ?」
「それはいつまで経っても小さくならないキャンディー」
「これは何だ?」
「それは一つ食べれば髪の伸びるキャラメル」
「ふむ、これらを作ることの意義は何だ? 両者とも特に必要な事柄ではないと思うのだが。それとも他に何か意図があって作成したのか?」
「うるさいよ、君」
やっぱりサラザールさんはさらっと流した。視点が低いと見えないらしいので、リドるんを腕の中に抱き上げる。
んーふわふわ。髪の伸びるキャラメルを食べさせたら、リドるんも全身もこもこになるのかなぁ。
それはそれでいいかも。一度は長いリドるんも見てみたい。
「これは今最も力を入れているガム」
ウィーンとか、ガガガガとかいう音を立てて大きな機械が動き、小さなガムが一枚出てくる。
躊躇いもなく先ほどの考察少年が、それを手に取った。
「ふ、不破君・・・!」
小さくてさくさく子犬です、と言った感じの少年が慌てて声をかける。でもそんなことでは考察少年、不破君とやらは止まらない。
ガムを手のひらに載せて重さを量ったり、匂いをかいだり強度を調べたりしてるよ。
うーん、とことん理系だなぁ。好きだけどね、そういう子。見ている分には非常に楽しいし。
「そのガムは、一枚でフルコースのすべてを味わうことが出来る。スープからデザートまで完璧に」
「ふむ。何故そんなガムを作ったのだ?」
「さぁ? ダイエットのためかもしれないね」
サラザールさんの答えに満足したのか何なのか、不破君は一つ頷いて、流れるような仕草でガムを口に入れた。
・・・・・・・・・怖いもの知らずというか、勇者というか、無謀というか。
子犬少年が真っ青になってるよ。でもってサラザールさんも首を左右に振ったよ。聞かずとも判るだろうに。
この部屋は実験室。イコール、そのガムもまだ完成品ではないってことくらい。
それでも食べた不破君はやはり勇者か。それともお馬鹿さんか。花占いで決めるかな。
「ふむ・・・・・・最初はトマトスープ」
トマトスープの味のガムってどうなんだろう、実際。
「次はローストビーフにポテト・・・・・・デザートはブルーベリーパイか」
あれ? 前菜はどこに? それと魚料理と口直しシャーベットはどこに消えたの?
とかのんびり考えてたら、不破君に異変が起こった。彼の中々に男前な顔の中心、鼻の頭がブルーに変化。
・・・・・・・・・青鼻のトナカイ? トニートニーチョッパー? 確かに不破君なら医学系もいけそうだけど。
「ふ、ふふふふふふふふっ!」
「何だ、風祭」
「ふ、ふふ、不破君! 鼻が・・・・・・っ・・・青くなってるよ・・・・・・!」
「ほう、それは興味深い変化だ」
不破君もさすがだなぁ、なんて考えてたら、不破君はどんどんと全身が青くなっていって、しかもブルーベリーがごとく丸く丸く膨らんでいった。
でも本人はいたって楽しそうに見える。骨の髄まで研究者なんだなぁ。お見事。
そしてやはり、どこからともなく蛇がにょろにょろとたくさん出てきて、歌を歌う。
今度の歌は不破君のためのオリジナルソング。要約すれば、不破君の考察っぷりを歌っていたかも。
丸いブルーベリー風船な不破君は、蛇ににょろにょろと転がされていく。
「あ、あのっ! 不破君、元に戻れますか・・・・・・っ!?」
「ジュース室で搾り出せば、元に戻るかもしれないね」
「・・・・・・っ!」
不破君ほどじゃないけど、真っ青な顔になって子犬少年もとい風祭君は不破君についていく。
「さぁ、次の部屋へ行こう」
サラザールさんについていくことしばし。腕の中でリドるんが鳴いた。
「・・・・・・・・・これは黙ってるが吉だね」
うん、まったくそう思うよ。まぁでもどんな目に遭うのかちょっと楽しそうだけどね!



蛇ゴンドラを降りて徒歩で移動することしばし。
次の部屋のドアには『ナッツ選別ルーム』との看板がついていた。
というかこの工場、外見からは想像できないほど中身がハイテクなんだけど。すごいなぁ、サラザールさん。すごいなぁ。
「ここではチョコレートに入れるナッツの選別をしてる」
パタン、とサラザールさんがドアを開ける。と、そこには動物スキーとしては見逃せない展開が広がっていた。
リス。リス。リス。リスリスリスリスリスリース。
リスが椅子に座り、転がってくるナッツを手にし、叩いて中身を確認し、殻を器用に割って中身を取り出す。
「・・・・・・何でリスなわけ?」
「リスは傷つけずに中身を取り出せるからね」
飴色美少年の呟きに、サラザールさんが答える。
あぁ、中身が悪いナッツは中央にあるダストシュートに落ちていくのか。リスさんはもはや職人芸だね。自給もかなり高いだろうに。
「賢いリスだね」
アジア系少年・・・確か郭君が、楽しそうに笑ってサラザールさんに向き直る。
「ねぇ、あのリスを一匹、俺にくれない?」
「え、英士っ! ペットならもうたくさんいるだろ!?」
「象二頭と虎一頭と猿と鷹と犬と猫と亀と鶴と豚と牛と結人がね。でもリスは持ってない」
「だからってなぁ・・・・・・」
黒髪つり目少年ががっくりと項垂れる。
リドるんが小さく「わがまま」って呟いた。これこれ、本当のことを言っちゃいけないよ。悪口は聞こえないように言わなくちゃ。
「悪いけど、この子達は売り物じゃない」
「一匹につき五百万払うけど?」
「金の問題じゃない」
「・・・・・・・・・じゃあいいよ、自分で捕まえるから」
首を縦に振らないサラザールさんに焦れて、郭君は自ら柵を越えてリスさんたちの仕事場に入っていく。
っていうか、展開的にヤバイと思わないのかなぁ。つり目君は気づいてるみたいで必死に止めてるけど、郭君はノンストップゴーゴー。
うーん、金持ちは好きだけどわがままな人は好きじゃない。俺様の域まで来れば話は別かもしれないけれど。
リスさんたちは、侵入者郭君に気づいたらしく、ナッツを割るのを止めてじっと郭君を見る。
視線独り占め郭君はマイクを持って歌うことなく一匹のリスに狙いをつけて、まっすぐに歩いてく。
手を伸ばして、捕まえようとして、逆に飛び掛られた。倒れて、上にリスが乗ってきて、運ばれてく運ばれてく。
「英士っ!」
つり目君が叫ぶのと同時に、どこからか蛇さんたちが登場してきた。今度は郭君のためのテーマソングだろう。
それにしても蛇さんたち、実に歌がお上手だねぇ。このままデビューとかしたら売れるだろうに。
あぁでもそのときの曲は、郭君のわがままを歌った歌じゃない方がいいと思う。そうだね、切ないラブソングなんかがオススメかも。
あ、郭君が消えた。ダストシュートに真っ逆さま。そして持ち場に戻るリスさんたち。いい仕事してるねぇ、まったく。
「なぁっ! あのダストシュートはどこに繋がってるんだ!? 英士はどこに行ったんだよ!」
「あれは焼却炉まで直通だよ。まぁ、今日は火を入れていないはずだけど、入り口で引っかかってればいいね」
「英士・・・・・・っ!」
つり目君が蒼白になって、柵を飛び越えていく。底が見えないらしいダストシュートを恐々覗いて、迷っていたつり目君は転がってきたナッツに足を滑らせた。
・・・・・・・・・あぁ、悲鳴が遠ざかっていくよ・・・。無事に郭君と再会できるといいねぇ。
「さぁ、次の部屋へ行こう」
サラザールさんはチョコレートで有名なのに、本人は塩味のポテトチップスだと思う。ちなみに私はコンソメ派だったり。



さっきから常々思ってたことだけど、サラザールさんは発明家として素晴らしい才能を持っていると思う。
だってエレベーターが左右斜めに動くんだよ! 上下だけじゃなくて横も可! どこでも行けちゃう優れもの! だけどスケルトンだから見えなくなるのがたまに傷!
「この部屋は、テレビ発売のチョコレートを実験しているんだ」
そう言って案内された部屋には、テレビを見ている蛇さんと、もう一方では機械に向かってる蛇さんたちが。
「チョコレートを粒子に溶かして、電波に乗せてテレビに映す。映った映像に手を伸ばせば、チョコレートが手に取れるって方法だ」
それって料金はどうやって払うんだろうなぁ、なんて考えてたら、飴色少年が馬鹿にしたように笑った。
そんな高慢な表情も絵になるけど、私としては笑って欲しいかも。そうすれば絶対に美少女に見えるって。美少女に。
「バッカじゃないの? そんなの出来る訳ないに決まってるじゃん。大体、電波と粒子は別物なんだよ。あんた、いい年した大人のくせしてそれくらいのことも分かんないわけ?」
「うるさいな。じゃあ実験してみようか?」
サラザールさんは手を振って蛇さんに合図する。
すると全長一メートルくらいのチョコレートが運ばれてきて、機械の上に載せられた。
大人しく見ていれば、カバーで覆われたチョコレートが眩しく光って、消える。わぁお! ファンタスティック! マジシャンもびっくりだね!
とか言ってたら、真面目にテレビにチョコが映ってきたし! サバンナの動物たちの中に、不自然にチョコがあるよ! 不自然すぎて動物が食べないよ!
「取り出してごらん」
サラザールさんはそう言ったけど、飴色美少年は警戒心あらわにして手を出さない。
肩を竦めて視線を移されて、じゃあ、と思っていそいそと手を伸ばしてみる。リドるんが何か言ってたけど気にしません!
固いはずの画面が不思議とすり抜けられて、指先がチョコに届く。触れる。固い。掴める。
取り出せたのはやっぱり、スリザリンご自慢のチョコレートだ。うん、美味しい。
「これで世界中のどこにでもチョコレートを届けることができる」
サラザールさんは綺麗なお顔でそれは嬉しそうに言ったのに、飴色美少年はそれが気に喰わない様子。
「はぁ!? 何言ってんの!? これは世紀の発明だろ!? それをたかがチョコレートなんかに使うわけ!? 馬鹿じゃないの、あんた!」
「・・・・・・翼」
「俺ならもっと賢く使うね! あんたみたいな無駄遣いはしない!」
色黒な同伴少年が諌めるのも聞かず、飴色美少年こと翼さんとやらは、機械に向かって猛ダッシュ。
躊躇いなくボタンを押して、カバーの降りてくる機械の上にジャンプして降り立つ。ナチュラルで無駄のない動作。いいねぇ、美少年!
光が放たれて、翼さんがイリュージョンで消滅。サラザールさんが「全身が無事に送れればいいけど」とか何とか恐ろしいことを言っている間に、テレビに翼さんが現れた。
サバンナの動物たちの中に、ちょこんと。小さく。・・・・・・小さく。
「・・・・・・・・・翼、縮んだな」
色黒少年は、呆れたように呟いた。うん、縮んだ。全長150センチくらいだったのが、その10分の1くらいに。
ちなみにチャンネルを変えてみれば、翼さんは料理番組のフライパンの中に映ったり、ニュース番組のテーブルの上に映ったり。
そしてハイハイハイハイ、出てきましたよ蛇さんたち。さぁて今回はどんな歌を歌ってくれるのかな。翼さんの夢を見ない現実主義のところかな? それとも純粋に可愛さを讃えてみる?
色黒少年がテレビの中に腕を伸ばして、小さな小さな翼さんを取り出す。翼さんはキーキー言ってるけど、声が甲高くてよく判らない。
「・・・・・・これは治るのか?」
「飴伸ばし機械に入れれば直るかもね。ちょっと薄くなるかもしれないけれど」
「薄さによっては背も伸びるか・・・・・・。良かったな、翼」
溜息を吐き出して、色黒少年は蛇に案内されていく。あぁ、ミニマムな翼さんをちょっと触らせて欲しかったのに!
「さぁ、次の部屋へ行こう。子供は何人残ってる?」
「私一人です。サラザール・スリザリンさん」
「・・・・・・・・・一人?」
まさに今気づいたかのように、サラザールさんは振り向いて目を瞬く。
ええ、一人ですとも。藤代君はチョコ川で豪遊、不破君はブルーベリーになって、郭君はダストシュートに落下、翼さんはミニマムになったので、残ってるのは私一人。
そしてここにいるのは同伴者のリドるんを入れて二人です。
「そう、じゃあ君が優勝だね。最優秀賞だ。おめでとう!」
いやぁ君だと思ってたよ、と言うサラザールさんの笑顔は素敵だが、どこか素直に喜べないのは気のせいか?
っていうか私は余計なことは言わずに黙ってただけなんだけど。それなのに最優秀賞だなんて、やはり日頃の行いが良い所為かなぁ。
いや別に良くはないと思うんだけどさ。シリウスさんとか時々泣きそうになってるし。抱きしめて眠るくらいいいじゃんか。ねぇ?
「それじゃあ、君を家まで送るよ」
スケルトンエレベーターに乗って、工場を煙突から飛び出す。わーお、ワイヤーなくても移動可能! これ何? ひょっとして磁力で動いてるとか?
「・・・・・・、下」
リドるんに言われて下を見てみれば、ちまっと人影がいくつか見えた。
あれは・・・・・・チョコまみれなのは、藤代君? その隣は年齢不詳青年? あぁ、藤代君は自分をぺろぺろ舐めてるよ。
その後ろを行くのは、普通のスタイルには戻ったけど真っ青な不破君? 子犬君は肌色。
三番目の郭君とつり目少年は、ダストシュートのゴミで汚れてドロドロだ。そういや郭君、高そうな服着てたのになぁ。もったいない。
最後尾の翼さんは、上からは横線に見えた。つまり厚さがない。ぺしゃんこ。その隣の色黒少年は普通なのに。せめて翼さんが薄くなった分背が伸びてることを祈って。
スケルトンエレベーターは、森の中にある私の家を目指して飛んでいく。



がしゃこーん、という音を立てて家の中に着地したエレベーターに、修理代はサラザールさんに請求すればいいものかと思う。
上から縦に突入した分、屋根を突き破ったよ・・・。これじゃ二階も壊したよ。あぁ、大切なものが破壊されてませんように・・・!
・・・・・・!?」
「ただいまです、リーマスさん。シリウスさん」
「あ・・・・・・あぁ、おかえり」
笑顔で挨拶すれば、狼リーマスさんも黒犬シリウスさんも返事を返してくれた。
優雅なティータイムを邪魔してごめんなさい。文句はどうぞサラザールさんに。
「それで、最優秀賞は何をくれるわけ?」
床からソファーに飛び乗ったリドるんが、丸くなって聞く。
珍しげに室内を見回していたサラザールさんは、あぁ、と呟いて答えた。

「僕のチョコレート工場を、にあげるよ」

わぁお! これで私も億万長者!? わーいばんざーい! 一生遊んで暮らせちゃうよ! もう宝くじも買わないで済みそうだよ!
「じゃあ、僕の工場に来てくれるね?」
「ありがとうございます。リドるんとリーマスさんとシリウスさんも連れてっていいですか?」
「それはダメだよ。余計な情は身を滅ぼす」
あっさりさっぱりサラザールさんは言った。そりゃもう塩味どころか味付けなしって感じで。
「仲間なんか無駄なだけだ。いつか足を引っ張られて、邪魔をされる。それなら今すぐ切り捨てた方がいい」
「んー・・・・・・それなら申し訳ないですけど、一緒に行けません」
動物スキーな私の身としては、こんなに可愛くて男前で不思議なペットたちを手放すことなんて出来ないし。
いくら工場にリスがいようと、アレはアレ、コレはコレ。蛇も捨てがたいけど、やっぱりここは譲れない。
そう言ったらサラザールさんはとても驚いた顔をして、目を瞠った。
「・・・・・・それじゃ、も連れて行けないね」
「はい、申し訳ありません」
「断られることなんて考えてもいなかった」
「初体験ですね」
「僕は帰るよ」
「はい、ありがとうございました」
「本当に帰っちゃうよ」
「お気をつけて」
「本当にいいんだね?」
「サラザールさんは私の仲間は嫌いですか?」
「・・・・・・僕は、仲間という存在が嫌いなんだ」
どこか俯いて、サラザールさんは言う。そして彼は歪んだ顔で笑った。
「バイバイ」
スケルトンのエレベーターが上に上がって、横に滑って見えなくなっていく。あぁ、雨が降らないうちにこの屋根も直さなきゃなぁ。
「・・・・・・
「何ですか、シリウスさん」
「いいのか? せっかくの億万長者になるチャンスだったのに」
「いいんですよ。億万長者には自分の力でなった方が楽しいですし」
それに、今みなさんと離れる気はありませんから。
そう続けると、シリウスさんはどこかホッとした様子で私の足に擦り寄ってきた。珍しい。
リーマスさんも寄ってきて、私の肩に鼻先を擦り付ける。リドるんも膝の上に乗ってきた。
・・・・・・・・・うん、こんなに温かくて優しい存在を手放すことなんて出来ないよ。
正直まぁちょっと、残念だとは思うけどさ。



それから一週間は、また普通に、コンスタントに宝くじで収入を得つつ過ごした。
やっぱり平和はいいね! 適度な刺激は大切だけど、やっぱりほのぼのが一番だよ。ビバ・平和主義!
・・・・・・しかしサラザールさんはそうではないらしく、新製品の出来がよくないと新聞で酷評されていた。
「サラザール・スリザリンはもうダメだね」
スーパーからビニール袋を提げて出てきたら、新聞を読んでた人が言った。
「いえ、そんなこともないと思いますよ。サラザールさんは鬼才ですし」
「本人に会ったことがあるのかい?」
「はい。素敵な方でしたよ。美形だし声も好みで才能あるし素敵な性格してるし、申し分ない方かと」
「じゃあどうして工場に来てくれなかったんだ!」
新聞が思いっきり丸められて、出てきたのはやっぱりサラザール・スリザリンさんだった。
声が好みだったからすぐに判ったよ。それに美形オーラは隠せないしね! なんて判りやすい発見器いらず!
「サラザールさんは、私の仲間がお嫌いですか?」
聞いたら、サラザールさんは俯いた。銀の髪さらさら、あぁ美形!
「・・・・・・嫌いとか、そういう問題じゃない」
「じゃあ何ですか?」
「・・・・・・・・・僕は、仲間というものが嫌いなんだ。うるさくて、邪魔ばかりして、何をするにも必ず口を出してきて」
「それはきっとサラザールさんのことが心配だったんですよ」
「そんなの判らない」
「聞けばいいじゃないですか」
「一人じゃ聞けない」
「それじゃ、私が一緒に行きましょうか?」
旅費はもちろんサラザールさん持ちで。そう告げたら、サラザールさんの綺麗な顔がパアアッと輝いた。
うわ、眩しい! 美形が輝くとさらに眩しい! でも目の保養だからちゃんと見なくては!
「そうだ、それがいい! 君が一緒なら行けそうな気がする!」
「じゃあ行きますか」
逃がさねぇぞコラ的な勢いで手首を捕まれ、近くにあったスケルトンエレベーターに引きずられてく。
このエレベーターはアレだよねぇ。透明で見えにくいことが難点だよね。いつかぶつかるって、絶対。
スーパーの袋を床に下しつつ、エレベーターは飛んでいく。・・・・・・・・・これ、欲しいなぁ。



飛ぶこと遥かイギリスを飛び越え、サンタクロース在住のフィンランドを越え、白熊のいる北極を越え、このエレベーターは防寒暖機能搭載なのか、さらに欲しくなったなぁと欲望をめぐらせていた頃。
エレベーターが静かに、緑けふる豊かな森の中へと着地した。ここはたぶん、日本?
わーお、初めて来たよ。しかもパスポート使わないで密入国。見つかる前に帰りたいなぁ。
そんなことを考えながら、森の中央、目の前に大きくそびえ立つ洋館を見上げる。
「さぁ、行きましょう」
常より肌が真っ白になっているサラザールさんの手を握り、歩き出す。うん、大人の男の人をペットにするっていうのも楽しそうかも。
大きなアーチのような門を通り抜け、優雅なガーデンを突っ切る。ちょっと無用心だなぁと思いつつ、ドアについているインターホンを押した。
聞こえてきたのは、可愛らしい女の人の声。
『はーい、どなたですか?』
ヘルガだ、と隣で小さくサラザールさんが呟いた。
「こんにちは、突然お邪魔して申し訳ありません。決して押し売りや勧誘、また危害を加えるつもりはありませんので開けて頂けると嬉しいのですが」
『あなた一人?』
「いいえ、もう一人、銀髪赤目の美形なお兄さんが一緒です」
サラザールさんが慌てたっぽいけどさらっと無視です。私はこの可愛い声の主のお姉さんが見たくて仕方ないのです。
『―――・・・っ・・・待ってて! すぐ行くから!』
おお、出てきてくれるらしい。いざ拝見、可愛いお姉さん!
「・・・・・・
「大丈夫ですよ、サラザールさん。私がいるじゃありませんか」
「・・・・・・それで納得できるところがすごいね、君は」
眉を下げて、サラザールさんが笑う。ちょっと情けない。でも可愛い。
分厚そうなドアの向こうから聞こえてくる足音は三つ。その一つが勢いよく近づいてきて、体育会系かな、とか思ってたら。
「サ―――ラ―――ザ―――ア―――ル―――――っ!」
ドアが開くと同時に、サラザールさんがふっとんだ。繋いでいた手がはがれたから、私は無事だけど。
飛び蹴りで目の前を横切っていったのは、これまた見事な美形さんだった。金髪碧眼。わぁお! 正統派の美青年だね! サラザールさんと比べて健康そうで逞しそうなのがいい感じ!
その後ろから小走りでやって来たのは、ふんわりとしたウェーブの髪の小柄なお姉さんと、さらりとしたストレートロングが麗しいお姉さん。
可愛い系と綺麗系、どっちも制覇だなんて、なんて羨ましい・・・・・・っ!
「サラザール! おまえ、口開けろ! 歯は!? 入れ歯になってないか!?」
金髪のお兄さんは中々にユーモラスな方らしい。
「ゴ・・・ゴドリックっ! ふざけるな! 入れ歯などになって堪るか!」
「だっておまえ、昔からずっとお菓子ばかり食べてたじゃないかっ! しかも今はお菓子会社の社長になんかなって! 虫歯にならない方がどうかしてるだろ!」
「む、虫歯にはなったが入れ歯にはなってない!」
「あぁ、だからお菓子会社を作るのなんて辞めろって言ったのに・・・・・・!」
な、ん、だ、か、とてもくだらなくてどうしようもない展開に巻き込まれている気がするのは気のせいでしょうか、間違いでしょうか。
ふわふわの可愛いお姉さんが、金髪碧眼ゴドリックさんに思いっきり両頬を引っ張られているサラザールさんに、優しく微笑みかける。
動揺の欠片もないところが大物というか、日常茶飯事なのかというか。
「お帰りなさい、サラザール」
ストレートロングのお姉さんも、呆れたように肩を竦めて。
「家出なんて、あんたは子供? でもまぁ夢は叶えたみたいだしね。おめでとう、サラザール」
目を瞠ったサラザールさんに、お姉さん二人も、ゴドリックさんも柔らかく笑いかける。
ほらやっぱり愛されてた。そう思ってウィンクしてみれば、サラザールさんは泣きそうな顔になって。
「・・・・・・・・・ただいま」
幸せそうに、笑った。



そのサラザールさんがゴドリックさんとふわふわお姉さんことヘルガさんとストレートロングのお姉さんことロウェナさんと仲直りした日、私はサラザールさんの工場を受け継いだ。
あはははは! これで私も億万長者だね! 真面目に大金持ちになっちゃったよ! 14歳で社長就任!
「ただいまです、リーマスさん」
リビングの扉を開ければ、ちょうど夕食を並べていたらしいリーマスさん(今日は満月なので人型だ)が、にこにこと笑って振り返る。
「お帰り、。今日は遅かったね」
「ちょっと会議が長引いちゃいまして。新作のイチゴチョコがすごいんですよ、また。一口食べればあら不思議! どんな口下手な人でも甘い愛を囁けちゃう優れもの!」
「・・・・・・・・・それって買う人いるの?」
「ひどいなぁ、リドるん。世の中の女性は誰しも少なからず愛が欲しいものだよ」
「さぁ、サラザールも座って」
「あぁ」
勧められて席に着く。私から時計回りにリドるん・シリウスさん・サラザールさん・リーマスさん。
うっわ、私ってばハーレムだね! そのうちゴドリックさんたちも引っ越してくるって言うし、美人さんも合わせて万々歳だ!
美味しい夕食を食べつつのんびり話をしたりなんかして、まったりと幸せを満喫。
サラザールさんが笑った。

「・・・・・・仲間って、いいものだね」

これにて私の億万長者物語は無事に完結した。
あとは稼ぐだけ稼いで長者番付にのるだけだね! よっしゃ!





2005年9月14日