ある日、リドるんが入れてくれた紅茶と、リドるんが作ってくれたケーキと、リドるんが用意してくれたテーブルセットで、リドるんと優雅なティータイムなんぞしていたとき。
血みたいに綺麗な瞳をきらきらと輝かせて、リドるんは言った。
「! 家を作ろう!」
テーブルクロスの上に叩きつけたのは、未来プリーズな真っ白設計図と、もう一つ。
巷で大ヒット公開中、興行成績塗り替え候補なアニメ映画のパンフレット。
・・・・・・・・・あぁ、リドるん観てきたんだ。
過去の欠片がマグル文化に溶け込みきってるけど、いいのかなぁ。現役ヴォルデモートさんは。
リドるんと動く城(笛ポタ番外編・映画『ハウルの動く城』公開記念)
リドるんが見てきた映画は、日本のアニメーション映画において最も著名だろうと思われる人物の最新作だ。
えーと、たしか翼さんが簡単なあらすじを教えてくれたような。
えーとえーと・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
美青年が出てくるってことしか覚えていないのは、まぁ私の性質上仕方ないことだろう、うん。
「人生の目的を見出せない若い少女が呪いによって90歳の老女に変えられる話だよ。自称弱虫の魔法使いと出会い恋に落ちる。だけど重要なのはそんなことじゃない」
メインストーリーなくして話は成り立たないよ、リドるん。
「ハウルの家だよ、家! 題名にもなってる『う・ご・く・し・ろ』! Moving Catsle!」
いつになくハイテンションなリドるんは思念体だから永遠の16歳のはずなのに、やけに夢見る少年に見える。
ひょっとしてヴォルデモートさんも悪事を企むときはこんな顔をするのだろうか。それならそれで美味しいと思うんだけど。
「外見は継ぎ接ぎだらけでお世辞にも美しいとは言えない。深海魚のような目と口と風体、カラスのような足が四本。煙突から吐き出され続ける煙は公害だし、洗濯も外に干したら真っ黒になりそうだけれども、それでも!」
バンッとリドるんはパンフレットを叩く。
「魅力的なんだ、ハウルの『動く城』は! それはもうネコバスに匹敵するかのごとく!」
あー・・・・・・そういえばリドるん、この監督さんの作品は全部DVDで集めてたっけ。
戦争時の兄妹を描いた映画では、ぼろぼろ泣いていたような気もする。泣くくらいなら殺戮するなよ、ヴォルデモートさん。
中央線沿線にある美術館にも行ったらしいしなぁ。ネコバスに乗れるのは子供だけらしいから、わざわざ子供の姿になって。
何もそんなところで優秀な力を発揮しなくても良いものを。もっと世のため人のため自分のために使おうよ、リドるん。
「この監督の作品は毎回クオリティーの高さに驚かされるけれど、今回の『動く城』は最骨頂だね! ストーリーテリングもいいけど、何より城が最高だよ!」
この人は映画を観に行ったのか、それとも城を観に行ったのか。
「基本的に海外の建築物は外観を先に決めて作られるけれど、日本は中から作って必要になればその都度増築していく。まさにその集大成なんだ、『動く城』は!」
あーこの紅茶美味しい。アフタヌーンティーっていうのはいい習慣だよね、美味美味。
「時を積み重ね、試行錯誤していくことで得られる独創的で唯一の形! それは家主の人生を凝縮したようなものであり、またその人物の性格や心理などを事細かに表現している!」
おやつが終わったら夕飯まで論文でも読もうかなぁ。それともスネイプ先生にお手紙でも書くべきか。
「そもそも家というのは人生の中で最も高い買い物と言われているし、そうして購入したものなのだから末永く丁重に扱い保持していくべきだと僕は思う!」
実験は昨日したし、じゃあその結果と考察を羊皮紙にまとめて、でもって送って。
「確かに風土の問題もあるから日本の家屋は数十年しか保たないし、逆にイタリアの家屋は数百年の間保たれ続ける」
あぁでもたまには直接お会いしてお話もしたいなぁ。暖炉からひとっとびして会いに行こうかなぁ。
あ、でもお取り込み中だったりしたら困るし、やっぱり約束を取り付けておからお邪魔することにしよう。
「だけどその問題も、城が動けばすべて解決できる!」
じゃあ今日はそのお誘いのお手紙を送るということで。
「だから、家を作ろう! 僕との人生の縮図である『リドるんとの動く城』を!」
「うん、いいよー」
まぁこんな感じで、私とリドるんはまた新たな家を手に入れることになった。
リドるんは実はどこかで設計士のバイトでもしていたのではないかと思う。
じゃなかったら、通信講座で資格を取ったとか。そうとしか思えないほどの手際のよさでさくさくと線を引いていくよ・・・・・・。
そんなに暇なのかなぁ、リドるん。やっぱりもうちょっと構ってあげるべきなのかなぁ。
「じゃあ一階はリビングとダイニングとキッチン」
書き上げた設計図を杖で叩くと、いきなり図がむくりと立ち上がって立体的になった。
うわ、さすがリドるん。だからその力を世のため人のため自分のために使おうよ。そうすりゃノーベル賞間違いないって。
「だけどこれじゃモデルルームの一室みたいだね」
綺麗にちゃんと模られた、リカちゃんハウスみたいなLDK。
リドるんも同じことを考えていたのか、綺麗な顔でむーっと頬を膨らませる。
「・・・・・・・・・これじゃ『動く城』じゃない」
「パンフとは違うねぇ。いっそのこと瓦礫を拾ってきて作る?」
「それもいいけど・・・・・・」
真剣な顔をして考え込むリドるん。なので私はもう一つ気になってることを聞いてみた。
「あのさ、リドるん」
「何? 」
「まさか『動く城』で普通にマグルの世界を闊歩できるとか思ってないよね?」
つーか魔法使いの世界でさえうろちょろ出来るか疑問だよ。
固定資産税は払わないだろうし、最近では背の高いビルも多くなってきてるし、歩けるだけのスペースもないと思うし。
それに何より怪しすぎる。
「――――――っ!!」
いや、そんなに驚愕しなくとも。優秀なのに変なとこで抜けてるよね、リドるんもヴォルデモートさんもさ。
ポットには魔法がかけられているらしく、いつ注いでも紅茶は熱い湯気を出す。
あー美味しい。リドるんお手製のバナナタルトケーキもすごく美味しい。幸せティータイム。アイムハッピー、エブリタイムソーハッピー。
「魔法で見えなくさせても実体を隠すことは出来ないから触れたときに不審に思われる。かといって魔法界をうろつくだけじゃ狭すぎる・・・・・・!」
三時をすぎてお日様も傾いてきたなぁ。洗濯入れといて良かった良かった。
「あぁ・・・っ! どうしてヴォルデモートはマグルに魔法使いのことを公認させようとしなかったんだ! そうすれば僕が今こんなに悩まずに済んだのに!」
夕飯何にしようかなぁ。昨日はお魚だったから、今日は肉がいいな。それか中華。
「いや、今からでも遅くない。むしろマグルをこの世から一掃すれば、『動く城』で地球上のどこでも行くことができ―――・・・・・・・」
「リドるん、それは私に対する『お願いだから僕を殺して、君のその手で一思いに』宣言だと思ってもいい?」
「ゴメンナサイ、嘘デス。人類滅亡ハ行キ過ギマシタ」
「ヴォルデモートが二人になっちゃったりしたら、私も騎士団に入らなくちゃいけないだろうし」
基本的に団体行動は苦手だから出来ればお断りしたいんだよね。
あ、でも騎士団ってシリウスさんやリーマスさんやビルさんにチャーリーさん、そして何よりスネイプ先生がいらっしゃるんだっけ?
あーじゃあ入ってもいいかも。うん、むしろ美味しい。
「待って! ごめん、。僕はヴォルデモートにはならないから、どうか捨てないで!」
「とりあえず判った。で、どうする? 動く城は諦める?」
「・・・・・・・・・やだ」
リドるんはまるでおもちゃを取り上げられそうになってる子供みたいな顔をする。
うーん、可愛いなぁ。ヴォルデモートさんもこんな感じだったらビジュアルで人類洗脳できそうなのになぁ。
むしろその路線で売った方がいいんじゃないの? 美貌で魅了しちゃえばマグルなんて滅ぼさなくても好き勝手出来るだろうに。
崇め奉られて武道館でコンサートを開けるよ。『ヴォル様グッズ』の団扇やらタオルやらがものすごい売れ行きで利益万歳。
サイン入り生写真はいくらになるんだろうなぁ。指名手配写真は見てことないから、かなり貴重なものになること間違いなし。
「リドるん、もうこの際だから諦めたら?」
「やだ。『動く城』は僕との人生の凝縮図なんだ」
「じゃあキャンピングカーにしようよ」
そう提案したら、リドるんは赤い目をきょとんとさせた。
アイドルヴォル様が誕生したら、若い頃の写真はリドるんを使ってもらうことにしよう。モデル料は三割貰おう。
「外見は普通のキャンピングカー。街も走れる山も走れる、魔法界も『僕らは魔法使いです』って垂れ幕でもつければ全然平気」
国際運転免許は取らなきゃいけないけど、まぁリドるんならスピードコースで取ってこれるだろう。
仮免試験も本試験もどっちも一度でクリアーしそうだよ。容赦なくアクセル踏んで、高速教習とかものすごく楽しそうにやりそうだよ。
「だけどドアを開けたらあらびっくり★ 狭いはずの車内が、ひろーいおうちになってます。とりあえず基本の車内をリビングにして、ほしい部屋を横に付け足す。だけど外からは普通のキャンピングカー。中はどんどん付け足されていくから、もはや迷路、迷って楽し?」
「こっちにキッチンがほしいからくっつけて、そっちにバスルームがほしいからくっつけて?」
「運転席の上に私の部屋、キッチンの冷蔵庫の奥にリドるんの部屋? 便利だと思うところに扉をつけちゃって、好きに繋げちゃえばいいんじゃない?」
「空間も捻じ曲げちゃって、至って変哲のないキャンピングカーなのに、中はまさに『城』」
にこり、とリドるんが世の中の女性の半分くらいを魅了できそうな表情で笑った。
「いいね! 、さっそくキャンピングカーを買いに行こう!」
「いやいやいや、その前にとりあえず運転免許を取ってきて」
「国際だね。どこが一番短い期間で取れるかな・・・・・・」
いそいそとノートパソコンを取り出して、リドるんは調べ始める。
あぁ・・・・・・この家、電波来てるんだ。それともブロードバンド? 光通信?
そういや洗濯乾燥機も食器洗い機もオーブンレンジも、全部最新機種が揃ってるような気がする。
主婦の望む三種の神器を揃えるとは、リドるん、君には立派な主婦資格を差し上げよう。
大丈夫だよ、心配しなくて。ちゃんと私が稼いできてあげるからさ。
「『動く城』で永遠に旅を続けようね、」
ぱぁっと花を咲かせるような嬉しそうな顔で、リドるんがそう言った。
・・・・・・それにしてもリドるんがここまで熱弁を振るうとは、きっとその映画は素晴らしいものなんだろう。
だったら観に行ってみようかな。レディースデーにでも。
映画好きな翼さんはもう観ただろうから、有希や麻衣子と。なんてことを考えていたのに。
「ダメ。は行っちゃダメ」
・・・・・・・・・やっぱここは『何でやねん』ってつっこんでおくとこ?
「何でも何も、とにかくダメ。行ったら僕は泣く」
「え、じゃあ行こう」
リドるんの泣き顔なんてそう拝めるものじゃないし、1000円で見られるなら尚のことチープで良し。
零れた雫一粒いくらだろう、と考えていたら、リドるんはものすごく拗ねた顔でぷいっと横を向き、まるで小学生のように言った。
「僕ほどとは言わないけれどハウルはそこそこにカッコイイ男だから、は観ちゃダメだよ」
可愛いリドるんに免じてじゃあ観ない。
―――なんてことを思うわけがなく、私は次の休みに映画を観に行くことを決定した。
2004年11月25日