「僕は思う」
えーっと、とりあえずやることは、壁と床の総入れ替えかな。
外壁も何だがボロボロになってて今にも崩れそうだし。っていうかこの家、築何年? もはや前世紀の代物だったり?
あーでもとりあえず20年くらい前には使われてたんだし、割合と新しいものなのかもしれない。
日本の住宅は築20年じゃもう古いけど、ヨーロッパじゃ100年でも新しい物だって言うみたいだし。
何が違うんだろう。風土かなー。それとも人間の差?
まぁいいや、とにかく壁と床の入れ替え入れ替え。
「犬は、野外で飼うべきだと」
「〜〜〜倒置法なんか使わなくても『出てけ』って言えばいいだろーが! わざわざ小難しい言い方してんじゃねーよ!」
「じゃあ言おうか。『出ておいき、脱獄囚』」
「てめぇが出てけ! 指名手配犯!」
「何度説明すれば理解してもらえるのかな。今の僕はヴォルデモートじゃない。トム・マルヴォーロ・リドルだよ」
「どっちだって一緒だ!」
「違うよ、全然違う」
雪が多い地方だしなぁ。やっぱり外壁は直さないと、寒さが中まで入ってくるし。
この際だから床暖房とかにしてもいいかも。冬はぽかぽか、夏はフローリングでひんやり。うん、それはいい。
あ、でも冬はコタツも出すし、そうすると電気代が二倍になって辛いかも。
うーん・・・・・・じゃあ太陽光電池でも設置しようかな。屋根とか塔とかに目一杯。
そんなことしたら「誰か住んでます」って言ってるようなものだよね。うん、確かに住んでるんだけど。
新聞とか配達してくれるかなぁ。多分無理だよね。何たって遠いし、有刺鉄線がバリバリ『入ってくるな!』って主張してるし。
情報が命の世の中になりつつあるっていうのに、世間から置いてかれるなんて、それは困る。
やっぱりテレビを買うべきかな。最新型の薄型テレビ。あぁでもそうすると電気代が更にかさむ。
「ルーピン先生、ヤマーダデンキとコジーマデンキのどっちが安いですかねぇ」
「明日までにチラシを集めておくよ」
まだ続いているリドるんと黒犬の言い合いをバックに、私とルーピン先生は穏やかに微笑みあった。
私たち四人は今、「叫びの屋敷」をリフォームしようとしている。
アズガバンの囚人(笛ポタ番外編・映画『ハリー・ポッターとアズガバンの囚人』記念)
リドるんとシリウスが戦ったら、ルーピン先生の勝ちだと思う。何でって、そりゃあもう当然のごとく。
「、私はもうホグワーツの教師ではないし、名前で呼んでくれるかい?」
「うわぁ、それはちょっと照れますねぇ。新婚夫婦が呼び方を変えるみたいで」
「いっそのことそうなってみる?」
「じゃあ籍を入れないと。ルーピン先生、じゃなくてリーマスさん。日本人の苗字はいかがです?」
「リーマスかぁ。・ルーピンになる気はない?」
「あははは、それはないですねぇ」
部屋の壁紙を魔法で張り替えながら、ほのぼのと会話なんかしてみたりする。
っていうか私、独身主義者なんだけどなぁ。本気で看板背負ってないとダメかもしれない。
リーマスさんだけじゃなくてドラコとか、ドラコとか、ルシウスさんとか、ルシウスさんとか、ルシウスさんとか、ハリーとか。
看板はベニヤ板で作ろうかなぁ。それともいっそのことローブに刺繍してもらおうかな。須釜さん、裁縫が得意って言ってたし。
・・・・・・・・・・いや、須釜さんに頼むのは辞めよう。何て縫われるか判らない。
『LOVE寿樹』なんて縫われちゃった日には、なけなしの貯金から新たなローブを購入しなくては。
「「ちょっと待て!」」
「いや、まだローブを注文してはいないけど」
やっぱり買うならダイアゴン横丁まで行かなきゃダメかなぁ。煙突飛行粉でひとっとびだから楽だけど。
魔法界も通販とか導入したらいいのにねぇ。そういうところは人間界を見習って互いに切磋琢磨していかなくちゃ。
「違う! 俺が言ってんのはそっちじゃない!」
黒犬・・・今は人型だからシリウスさんが、何だか必死な顔で言ってくる。
さっきまでリドるんと仲良く言い合いしていたのに、どうしたんだか。話のネタでも尽きちゃったのかな。
「・・・・・・」
「何さ、リドるん」
呼ばれて振り向いたら、永遠の16歳がこっちを見ていた。
いつのまにか完全に実体化することを覚えたらしいリドるんは、今や素で買い物にも出かけている。
昔の知り合いに会ったりなんかしたら、相手が心臓麻痺を起こしそうだな・・・・・・。もういい年したご年配の方だろうし。
そんなリドるんは、無駄に整った顔を捨てられた子犬のようにしている。演技が上手いな、相変わらず。
「・・・・・・僕を捨てるの?」
「ごめん、拾った覚えがないから」
「は僕を捨てて人狼なんかに乗り換えるんだ! 今までこんなに尽くしてきたのに!」
「どこらへんが尽くしてきたのか聞いてもいい?」
「家にいるときは毎日食事を作って、薬草だって取りに行ったし、商店街ではまけてもらえるように交渉だってしてきたのに!」
うわぁ、尽くされてる気がしてきた。つーかリドるん、もしや主婦になりつつあったのか?
そういえばいつも朝起きたらごはんが出来てたし、しかもそれは大抵美味しかったし、お昼も夕食も、挙句の果てには三時のおやつまで私の好きなものばかりだった気がする。
実家の実験室で薬を作ってるときも、材料はたくさん使ってるのに、何故かいつも瓶には満杯に入ってたし。
家計簿を見ると100グラム89円のひき肉とかが、何故か77円で購入されてたりしてたけど。
なるほど、これらは全部リドるんの行動結果だったんだ。親切な妖精さん、または屋敷しもべかと思ってたよ。
リドるん、君、良いお嫁さんになるよ。
「が稼いで、僕が家庭を守る。もう完璧だね」
「厚生省のモデルケースにもなりそうだね。最近は主夫も世間に広がり始めてることだし」
「いつでも時代の先を行く。うん、僕たちらしくてピッタリだ」
うふふ、あはは、なんて笑い合う私とリドるん。あらやだ、こちらでも新婚さんな雰囲気?
リーマスさんとに比べるとどことなく腹黒で似通っている感が否めないけれど。
「・・・・・・・・・いい加減にそのネタから離れてくれ・・・・・・」
はらはらと今にも泣き出しそうな顔で、シリウスさんが言った。
打たれ弱いなぁ。そんなじゃ一緒に暮らして胃を傷めるよ? 薬は同居者割引で請け負いましょう。
運命の悪戯というほどのものではない出会いによって、私はリーマスさんと知り合った。
というか、ただ学校で教師と生徒として出会っただけなんだけど。
そしてリーマスさんはもれなく黒犬もついてくるというお得な人で、でもって私は記憶の思念体がついてくるという厄介な罰ゲームのような代物で。
黒犬ことシリウスさんはまだ濡れ衣が晴れていない脱獄囚だから隠れていなくてはいけないし、リーマスさんは満月に暴れる場所がほしい。
それらを考慮したうえでダンブルドア校長先生が用意してくれたのは、ホグズミートの外れの外れにある『叫びの屋敷』だった。
学生時代のリーマスさんの別荘。じゃあそこに何で私がいるのかと言いますと。
『、私と一緒に暮らさないかい?』
――――――と、まぁ家賃をタダにしてくださるという素晴らしいご招待を頂いたので、その結果。
地下の秘密の部屋にばっかりいるのもアレだし、実家には長期の夏期休暇で帰るとして、でも短期の休みの日はどうしようか迷うわけで。
結果としてリーマスさんに誘われてお邪魔したら、どこかで見た黒犬さんがいて、私にはやっぱり当然のごとくリドるんがついてきた。
結局はこの四人で暮らすことになったわけだったりするのだけれど。
これがまぁ、リドるんとシリウスさんがぶつかるぶつかる。
気持ちは判らなくもないんだけれど、でもどちらかと言えば私はリドるんと同じ部類だし、痴話喧嘩に割り入って馬に蹴られたくもないしねぇ。
「「誰が痴話喧嘩だ!」」
ほらまた声も重なって。仲良きことは美しきかな。麗しい男の友情。
「リーマス! おまえはこんなヤツと住んでいいのか!? コイツはジェームズやリリーを殺したんだぞ!」
シリウスさんが、リドるんを指差して言う。
リドるんは相変わらず涼しい顔をしているけれど、うん、やっぱ言われると思っていたよ。
だって君はトム・マルヴォーロ・リドルさんなわけだし。シリウスさんにとっては親友の敵だし。
だけど意外にもリーマスさんは苦笑染みた笑みを浮かべて仰られた。
「そりゃあね、私だって許せないよ」
「だったら―――っ」
「でもシリウス、彼はトム・マルヴォーロ・リドルであって、ヴォルデモートじゃない」
―――おぉ。
そんな感じの顔をリドるんがした。見所あるな、おぬし、っていった感じの顔を。
リーマスさんは穏やかにシリウスさんを見て続ける。
「このリドルは16歳で、まだジェームズたちを殺す前の、殺そうと考えるどころか存在さえ知らないんだよ。リドルは記憶となって日記に篭った時点で、ヴォルデモートは別人になったんだ。だから私は、ヴォルデモートは憎いけれどリドルを憎むのは少し違うと思う」
―――おぉ。
「じゃあコイツのしたことを全部許すっていうのか!?」
「もちろんヴォルデモートのしたことは許さない。彼と対決することがあるのなら、私は全身全霊をかけて彼を倒すよ。だけどリドルのしたことといえば・・・・・・」
チラリとリーマスさんがリドるんを見てにこやかに笑った。
「せいぜい私のに付き纏うくらい?」
「好意はありがたく受け取らせてもらうけれど、は渡さないよ? リーマス・J・ルーピン」
スマイルは0円らしいけれど、こういった毒の含んだものはどうかと思う。
むしろお金を払ってでも廃品回収してもらいたい。熨斗つけてプレゼント・フォー・ユー!
「・・・・・・・・・だから何で話がそこへ行き着くんだ・・・・・・っ」
涙するシリウスさんは、実は廃品回収業者なのかもしれない。
一階はリビングとダイニングとキッチンに水周り。それと応接室が一つ。
二階は洋室が四つに客間が一つ。中二階には背の高い本棚が作りつけられている書斎があって。
三階は屋根裏部屋みたいな部屋が一つ。見晴らし最高足元注意。
地下には食料庫とホグワーツにある暴れ柳に繋がる通路へのドア、そして小さな研究室が一つ。
学生リーマスさんが満月のたびに使用していただけの割には、何だかやけに部屋が多い。
でもまぁいいや、だからこそこうして四人で一緒に使えるわけだし。
「じゃあ、とりあえず――――――」
一つ、大きく息を吸って。
「「「「最初はぐー、じゃんけんぽんっ!」」」」
勢い良く突き出された手はグーが三つにパーが一つ。
うわぁ、私ってばゲームだけじゃなくてじゃんけんも最強系?
「というわけで、三階の自殺の名所にもなりそうな屋根裏サンキュー!」
天井は斜めだけど面積は一番広いし、見晴らしはいいし、窓をぶち破れば外出も出来そうだし、屋根に上って月を見ることも出来そうだし。
一階のダイニングまでの距離が遠いこともないけれど、まぁそれはそれでどうにかなるでしょう。
むしろ使えるようになった『姿現し』を確実に使用できるようになるため練習するのに一石二鳥。
敗れ去った男性陣は二回目の勝負を繰り広げ、結果的に順位はシリウスさん、リドるん、リーマスさんに落ち着いたらしい。
「じゃあ俺は二階の南側に面した部屋をもらう」
「犬にそんな日当たりのいい部屋は無用だと思うけどね。僕は北側の部屋をもらうよ。日に当てたくないものが幾つかあるから」
「突き当たりと階段の傍か・・・・・・。なら私は階段側にするよ。奥の部屋は二つ目の客室にしよう」
「てめぇ、リドル! 犬犬犬ってうるせぇんだよ!」
「リーマスさんの脱狼薬は私が作りますから、心配しないで下さいね」
「ありがとう、。同居人割引は利くかな?」
「僕としては不本意で仕方がないよ。ダンブルドアの用意した家に、まさか狼と脱獄囚の犬と住むなんて」
「二つ目の客室、ハリーの部屋にします? 休みの時に誘ったら喜ぶだろうし」
「そうだね、それがいいかもしれない」
「だったら出てけばいいだろ! 誰もおまえにここに住めとは言ってねぇよ!」
「一階の応接室はそのままでいいとして、書斎はどうします? リーマスさんが使います?」
「本棚はたくさんあるから全員で兼用しよう。は地下の研究室が必要だろう?」
「と僕は一心同体。のいるところに僕があり、僕のいるところにがいるかは判らない」
「じゃあ後は家事当番の役割分担をして」
「それぞれの部屋よりも先にリビングやダイニングの家具を買い揃えなきゃね」
「・・・・・・・・・おまえ、そこは見栄でも『僕のいるところにもあり』って言っとくべきだろ」
「ゴミ捨てって何曜日ですかねぇ。それとも自家焼却炉とか作ります? むしろ電力所とかもあったら便利だと思うんですけど」
「マグルの科学には目を見張るものがあるから、それもいいかもしれないね。電気とガスと水道と・・・」
「それは出来ないよ・・・・・・の想いは僕にないのだから・・・」
「じゃあ地下二階とか作りましょうか。一切合財自家生産にして、俗世から離れた仙人のような生活を」
「何かあったときのためにシェルターを作っておくのもいいかな。対ヴォルデモート用の装備とか」
「おまえも苦労してるんだな・・・・・・・・・」
「地面がウィーンって割れてロボットが出てきたり」
「壁がくるってひっくり返る仕掛けだったり」
「いいんだ・・・・・・のためなら」
「忍びの地図が必要になりそうですねぇ」
「じゃあ今度はこの四人で作ろうか。案内板として玄関に張っておくのもいいね、もちろん偽物を」
「リドル・・・・・・」
「あぁ、すっごい楽しい家になりそうです。ビバ・セカンドホーム!」
「私もと一緒に暮らせて幸せだよ」
「シリウス・・・・・・」
良く判らないけど、私とリーマスさんが真面目にリフォームの話をしている間に、リドるんとシリウスさんはとても仲良しになっていた。
男の友情には時間は関係ないんだなぁ、と一つ賢くなって。
ピロリロリーン・レベルアップ! は狡賢さが3上がった!
・・・・・・・・・だったらいいんだけどねぇ。
四人で共同部屋のインテリアを考え、家具や何やらをカタログを見て話し合う。
紅茶とお菓子でほのぼのしてて、これが家族っていうものなのかなぁ、なんて思ったりしたりして。
「じゃあ僕はの夫役だね」
「私もの夫役だね」
「・・・・・・・・・」
「「シリウスもの夫役をやりたい?」」
見事なハーモニーで笑顔を浮かべるリドるんとリーマスさんは、ある意味とても素敵だと思う。
真っ青な顔をしているシリウスさんは気の毒かもしれないけれど、長いものには巻かれろと言うし。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも、だったら」
私の呟きに戯れて役どころを決めていた男性三人が振り向いたから、ニッコリと笑ってみせた。
長いものに巻かれるのが人生というのなら。
「私が頂点に立ったら、私は女王様になっていいんですよね?」
ちょっとした遊び心で言ってみたのに、何故だか三人は固まってしまって。
でもその後の暮らしでいろいろと楽が出来たから、別にいいかなと思ったりした。
2004年8月20日