・・・たしかに。
物の好みは人それぞれだとは思う。
コーヒーをそのままブラックで飲む人もいればミルクと砂糖をざくざく入れる人もいるし。
それ以前にコーヒー自体を飲まない人もいる。
だから、十人十色というみたいに物の好き好きはその人自身の問題であって。
それはさ、私も納得してるんだけど。
・・・・・・・・だからって、これはないでしょーよ。
ねぇ、サラザール・スリザリンさん?





秘密の部屋(笛ポタ番外編・映画『ハリー・ポッターと秘密の部屋』記念)





「リドるん。入り口はもう終わったー?」
大きめの声で呼ぶと、丸い扉を開けてリドるんが現れた。
ホグワーツの校章の入ったセーターを脱いで、ワイシャツの袖をまくって。
左手にはペンキの入ったバケツが二つ。色は銀と緑のスリザリンカラー。
・・・・・・・・・工事現場のガテン系兄ちゃんかよ。
「終わったよ。壁と天井の水漏れは塞げた?」
「モチロン。とりあえず大理石に物質変化しておいたから、あと1000年はもつんじゃないの?」
1000年かー1000年だって。きっと私は生きてないだろうなぁ。
でもリドるんは生きてるかもね。っていうか記憶の思念体だから関係ないか。
・・・ってことはリドるんって永遠の16才? うわー羨ましい! 永遠の美貌なんてほしくはないけど、とりあえず羨ましい!
「床も全部大理石にしたんだ?」
「うん。前の床はボロボロだったしね」
「1000年以上前に作ったものだから仕方ないよ」
リドるんが笑う。あらまぁ綺麗な笑顔。
でもその手のペンキはどうかと思うよ。みんなのアイドル☆リドル様が台無し。
まあ、それも50年以上前の話だし。今頃リドるんの同級生は初老の紳士&御婦人だし?
モテても嬉しくないかもね。いや、お年寄りに好かれるのはよいことさ。
「リドるん、以前来たときに模様替えとかしなかったの?」
「やりたかったんだけど出来なかったんだよ。何しろダンブルドアが僕に目を光らせていたから」
「あーじゃあ出来ないわ。あの校長先生は目ざといからね」
でも私は大変お世話になってるから、尊敬はしてるんだよなー。
だ・け・ど、与えられた信頼を裏切りたくなるのが人情ってもの!
裏切ってるつもりはないけどね。
だけどこうして私はリドるんと『秘密の部屋』の改装をしてるのです。
・・・・・・・・・レポートも終わって暇だし。
「床に浸水していた水も取り除けたし、今度はカーペットでも引こうか」
「うーん、それよりはコタツ希望。これから冬まっしぐらだし」
「コタツ? ああ、日本の暖房器具か」
「そうそう。コタツにみかんは日本人の常識」
「じゃあ畳も用意しなきゃね」
今度日本まで買いに行ってくるよ、なんて言ってるけど。
リドるんってイマイチ自分が思念体だって自覚がないよねぇ。やっぱり実体化出来るようになっちゃったからかなー。
何事も程々が一番ってことですか。
「この蛇たちはどうする?」
リドるんが通路の両側に並ぶ蛇の銅像たちを指さして腕を組んだ。
動作がいちいちカッコイイね。絵になるくらい王子様だよ。
でも私は王子様に興味ないしー。むしろ王様の方が興味あり! つーか、なる! 私が! 女帝に!
「個人的にはあってもなくてもいいんだけど」
「でも、さすがに捨てたりしたらサラザール・スリザリンに失礼だよ」
それもそうかもね。一応この部屋の主はサラザールさんなんだし。
「じゃあカラーリングしようか。私は右側やるから、リドるんは左側の列ね」
「わかった」
杖を持ち直してちょっと考える。蛇が1,2,3,4・・・・・・8匹かぁ。
どうしようかな。七色レインボーには1匹余っちゃうし、何色にしようか。
うーん・・・・・・じゃあ最初の1匹は、今は冬ということで雪の結晶模様にしよう。
ハイッ杖を一振りでホワイトシルバーのキラキラ蛇が出来上がり!
次はー・・・冬の夜空をイメージして綺麗な星を散らせてみた。頭の一番上には当然のように北極星で。
シリウスや冬の大三角も絶妙な配置。うんうん、上手だなー私。
3匹目はミカンにしよう。オレンジの皮に頭にはヘタ。舌はミカンの白い筋っていうことで。
こんな感じで4匹目は赤と白でサンタクロースに、5匹目は餅とダイダイで鏡餅に。
6匹目は節分で鬼の仮面をつけて豆を持たせ、7匹目はバレンタインで乙女の恥じらいを演出してみた!蛇で!!
で、最後の8匹目は右側半身がお雛様で左半身がお内裏様でひな祭り!
これで冬のイベントは網羅した! よし、どうだリドるん! むしろどうだ、サラザール・スリザリン!
、出来た?」
「出来たよ。リドるんは?」
「僕も出来たよ」
クルッと振り返ったら、リドるんも丁度振り向いたところみたいで。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
右から順に、バラ模様、迷彩、ハートマーク乱舞。・・・・・・ここまではいいとしよう。
問題はその次からだ!
何だその4匹目の蛇は! くしゃくしゃの黒髪に丸眼鏡、おまけに額の稲妻形の傷!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハリーかよ! もう恨みはないって言ったあの日の台詞は嘘だったのか!?
その隣の蛇は赤毛の髪にソバカス・・・・・・・・・どう考えてもロンだよね・・・。
こうなったらハーマイオニーもいるのかと思ったのに、どうやらいない模様。よかったというか、何というか。
6匹目の蛇は白くて長いヒゲ。半月状の眼鏡。・・・・・・・・・・・・間違いなくダンブルドア校長だよ・・・。
7匹目は金髪ロンゲのオールバック。マルフォイ・・・ではないから、その父上かな。
そして最後の8匹目。・・・・・・・・・これがまた普通の蛇皮で。
緑というか茶色というか銀色というか、見事なまでの配色だね。まさに本物チック。
でもさ・・・・・・こんなにまともな蛇なのに、この中にいると激しく場違いに見えるよ・・・。
「・・・
「何さ、リドるん」
「流石だね、素晴らしい芸術だ」
「・・・・・・リドるんこそ、後世にまで残せる大作だよ」
むしろ後世まで残るブラックリストだけどね。
ハリーやロンもまさかこんなところに自分に似た蛇の銅像があるとは思わないだろうなぁ。
それより不憫なのはマルフォイの父君。アナタ何かなさったんですか? このトム・マルヴォーロ・リドルさんに。
「天井からは外の光が差し込むようにしたから、夜は月光浴が出来るね」
「私は夜は寮で過ごすからしないわよ。ちゃんと外部からは見えないように魔法かけたんでしょうね?」
「それは勿論。僕を誰だと思ってるんだい?」
「私の友人・リドるんでしょ?」
友人というか親友というか悪友というか背後霊というか微妙だけど。
うーん、とりあえず切っても切れない仲なのは確かかもねぇ。
「・・・・・・全く。敵わないよ、には」
リドるんが苦笑しながら、でも嬉しそうにそう言った。
そういえばリドるんは前に友人なんかいないって言ってたっけ。下僕ならたくさんいるとも言ってたけど。
まぁそれも仕方ないかもしれないけどねー。
眉目秀麗・成績優秀・スリザリン監督生でなおかつ闇の魔法に染まった真っ黒リドるんに友愛を持って近づく輩がいたら見てみたい。
拍手して賞賛してあげるよ。君こそまさに勇者だ、なんて言ってさ。
「で、この大きすぎるご老人はどうする?」
部屋の奥の中央にある老人の顔の石像を顎でしゃくる。つーか邪魔なのよね、コレ。
「口を開けたときに現れる通路の先にはバジリスクの根城があるけど、今はアレもいないしね」
「ハリーが倒しちゃったんでしょ?」
勿体無い。いいパシリになるかと思ったのにさー。
「そうだよ。あの戦いは実に見事だった。にも見せたかったよ」
「当時の私はランドセルを背負って小学校に通ってましたので、到底無理でございます」
「ビデオにでも撮っておけば良かったなぁ」
あ、がいないときは僕は暇だしテレビとビデオも用意しなくちゃ、なんて仰るリドルさん。
この人そのうちレンタルショップの会員カードとかまで作りそうなんですけど。・・・・・・・・・まぁいいや、私の名義でないなら。うむ。
「この像はこのままでいいんじゃないかな。一つくらい前の部屋のものが残っていてもいいと思うし」
「そうだねー。まぁ歴史を感じる思い出にでも」
「じゃあ後は家具だね」
そう言いながらベッドとか本棚とかテーブルとか杖を振って出すリドるん。しかも全部アンティークの統一してあるヤツ。
・・・・・・・・・・あ、今なんかすごく嫌な想像をしちゃったんだけど。
二人で部屋のインテリアを考えて、統一性の家具を配置して、お互いの趣味の本とか小物とか並べて。
これってさぁ・・・・・・・・・これって・・・・・・。
「何だか新婚さんみたいだね」
「・・・・・・・・・家事は頼んだよ、ダンナ様」
「任せて、新妻さん」
ニッコリ笑って言いやがるリドるん。
あぁもうヤダ。どうしてこう人の考えを読むんだか・・・・・・。やっぱり根本的に似てるからなのかなぁ。だから読めるのかなぁ。
だったら私もリドるんの考えが読めるはずなんだけど。いや、読めるけど読みたくないっていうのが本音かも。読んでもリドるんは真っ黒だし。
「じゃあ今日はこんなとこで。もう夕食の時間だから私行かなきゃ」
「そう、残念だけど仕方ないね」
寂しそうに笑わないで下さい。演技だと判っていても笑っちゃうからさ。
「また明日遊びに行くから」
「来ないでいいよー。リドるんが来るとハリーが色々と大変なんだし」
敵意むき出しで睨むし、もちろん口でも攻撃するし。リドるんも楽しんで相手をしちゃうから喧嘩はさらにデッドヒート。
二人でやってる分にはいいんだけどさ、私を間に挟んでやるからいい加減ウンザリなんだよね。
「じゃあ部屋に行くよ」
「さらに来ないで。変態さんはお断り」
「あはは、ヒドイなぁ」
笑いやがるし! コイツ・・・つい3日前に人の着替えを覗いたのを反省してないな。やっぱりもっと判らせてやるべきだったか・・・。
「じゃ、また明日」
「お休み、
手を取ってキスを一つ。
あぁ本当に王子様みたいだね。だけど私には必要ナシ!
「またねー」
無反応な私に苦笑するリドるんに手を振って、秘密の部屋を後にする。
はーやれやれ。一仕事終えた後はビール・・・じゃなくって木田さんの入れてくれたコーヒーが飲みたいなぁ。
でも今は本校にいるんだし、我慢するか。



丸い扉をくぐって部屋を出た後に何故だか背筋がゾッとして振り向いた。
そしたらそこには世にも恐ろしい物体があって・・・・・・・・・。
思わず泣きそうになっちゃったよ。
だってそこにはさ・・・・・・・・・。
『リドるん&の愛の部屋☆立ち入り禁止だよ!』ってピンクのペンキで描かれた看板が・・・・・・・・・。
あぁもうやだ・・・・・・日本校に帰りたい。この際渋沢さんや須釜さんでもいいから誰か迎えに来て。
ヘルプミー!



しかしそんな私の願いも虚しく、後日この部屋を訪れたハリーによってその看板は粉々に砕かれるのであった。
(そしてやはり大戦勃発)





2002年12月4日