「・・・・・・・・・どうしよう。どうしたらいいと思います、幸村さん?」
「僕はいいと思うよ。誰だって犠牲を払わずに幸福を得ることは出来ないんだから」
「優しいお言葉をありがとございます。あぁでも怒られそうだなぁ。猫パンチされたらどうしよう」
ちゃんなら避けた上に反撃できるから大丈夫だよ。何かあったら俺も力になるから」
「ありがとうございます」
「忘れないで。ちゃんは確かに俺を救ってくれたよ」



テニスラケットを片手に微笑む幸村さんに励まされつつ。
『反γ-グリフェプタン』改め『魔女っ子特製薬・元気になぁれ!』は完成した。





アルバイター魔女っ子(ガンダムSEED連合トリオ編)





「どうも二週間ぶりですコンニチハ。お待たせしてしまって申し訳ありません」
移動したと同時に言ってみたけど、それよりも気になることがある。
何で私は浮いてるんだろう。箒にも乗ってないのにオルガさんたちの驚いてる顔がずいぶんと下に見える。
どうしよう、やっぱりここはスカートを押さえておくべきか? あぁでも中にスパッツ履いてるから別に見られても問題ないか。
むしろ問題なのは今この部屋に重力があるかないかであって、もしかしたらもしかしなくても今この船はひょっとして?
「あの、外ってもしや銀河ですか?」
お月様とかすぐ横に見えたりしますか? 兎とか蟹とかいますかね。捕まえて持って帰って是非とも栽培したいのですか。
「・・・おまえっ・・・・・・この前の・・・・・・」
「はい、先日の魔女っ子です。遅くなってすみません。どうも納得した出来に仕上がらなくて」
「遅いんだよっ・・・・・・バァーカ!」
言葉とは裏腹に、クロトさんは床を蹴って近づいてきた。
手から落ちたゲーム機や、溢れた涙がぷかぷかと宙を浮かんでる。
うわぁ、やっぱりここは無重力空間っぽい。私、宇宙なんて初体験だよ。地球上でもかなり希少価値な経験をしちゃってるよ。
しかも抱きしめられちゃってるし。ふわっじゃなくてぎゅーだし。そして推進力のまま天井にぶつかったし!
「・・・・・・・・・夢かと思ってた・・・」
イヤホンで音楽を聴いていたらしいシャニさんが、目を瞬いて私を見る。オッドアイの目が変わらず綺麗。
いやいや、こんな美形さんたちと出会ったのが夢だったら私が悲しいし。
「・・・・・・とにかく降りて来いよ。おら、クロトも」
オルガさんが天井にくっついてる私たちに向かって手を差し出してくれる。うわ、優しい! 姫扱い!? つーかむしろ救世主!?
抱きついているクロトさんをそのままに床に足をつけると、でもどこかやっぱり浮いてる体感。
うーん。無重力って結構生活しにくそうだなぁ。というか魔法薬学の実験とか出来なさそう。いろいろ。
杖で誰かに魔法をかけたときもまっすぐちゃんと届くのかなぁ。後で誰かで試してみよう。うん。
「「それで」」
顔を上げて言いかけたら、オルガさんとハモッた。
お互いに思わず口を噤んでしまったので、これ幸いにとニッコリ笑顔。これで先手は頂いた!
「それで、体が戻ったらどうするのか、決まりました?」
問いかけるとオルガさんは小さく息を呑み、そして頷いた。
すぐ隣にいるクロトさんを振り向いても、唇を噛みながらしっかりと頷かれる。
ベッドにいるシャニさんも、まっすぐに私を見て頷いた。
――――――あぁ、うん。これなら。



「俺たちは―――・・・・・・」
「いいですよ、言わなくて。何となく判りましたから」



悪事を企んでそうな目じゃないし、嘘をつこうとしている感じもない。だったら聞いても聞かなくても一緒だし。
むしろ聞いても私にはどうしようもないから言わないでもらえる方が個人的に助かる。知らぬが仏とは昔の人もよく言うなぁ。
「はぁ!? ちょっと待ってよ!」
クロトさんが叫ぶ。ちょっと待ってはこっちだ。耳元で大声出すのは止めて下さい、お兄さん。
「僕たちがどうするかによって薬くれるかどうか決めるんじゃなかったの!? なのに何で聞かないわけ!?」
「え、だって二週間の間ずっと考えて下さっていたみたいですし。それに一度自分で決めたことって、他人に何言われても変えないでいて欲しいですから」
「・・・・・・じゃあ何・・・? もしかして最初から聞く気なかったわけ・・・?」
「いえ、行き当たりバッタリな性格していますので、そういうわけでも」
答えるとシャニさんはむぅっと頬を丸くした。うわ、可愛い! 何だこの可愛い生き物は!
目の前にいるオルガさんは、どこか呆然としている様子。ひらひらと手を振ると、我に返ったのかビクッと動いて。
「・・・・・・いいのか・・・?」
信じられないように聞いてくるから、しっかりと首を縦に振って頷いた。
そうするとオルガさんは自分の髪をくしゃりとかき混ぜて俯く。
震える肩に、顔は見えないけど泣いてるんだと気づく。
小さな水滴が丸くなってぷかぷかと浮いて。
「・・・・・・っ・・・」
感動的なシーンに悪いんですけれど、いやはや言っておかなくてはならないこともあるわけで。



「御礼を言って頂くのはまだ早いです。実はこの薬、副作用が出来てしまって」



誤魔化すために明るく楽しく出来る限りの笑顔で言ったのに、場はカチーンと凍ってしまった。
目の前のオルガさんも、隣でおそらく嬉しさの余り泣いていたクロトさんも、じっと私を見ていたらしいシャニさんも。
三方皆さん、ギギギギッとまるでブリキのロボットのような音を立てて、私を振り向いて。
うわ、怖。『副作用』って言葉はタブーっぽいしなぁ、三人とも。仕方ないか、仕方ないよ。
なのでちゃんと説明をしておこう。
「えーとですね、私も元の世界に戻ってからすぐに薬の開発に取り組んだんですよ」
シャニさんの睨んでくる姿が怖くて面白い。片目が髪で隠されてるから幽霊みたいでなお良し。
そのままお化け屋敷とかでバイトしても平気そうだけど、かっこよすぎて違う部署に回されそう。
でもシャニさんに営業や客寄せが出来るのかと言われたら、それも謎? キャッチはホストの第一条件なのになぁ。
「だけど『γ-グリフェプタン』が、これがまた良く出来た薬でして。やっぱり未来の技術ってすごいですねぇ。リドるんだけじゃなくて多紀や不破、果てはスネイプ先生にまでお手伝い願っちゃいましたよ。まぁそのおかげで、どうにか依存性を打ち消す薬は作れたんですけれど」
クロトさんが不安そうな目で私を見ている。可愛いなぁ、この人は。年上っぽいのにこの可愛さはありなのだろうか。
いや、ありだ。やはりホストクラブはいろんな種類のホストがいなくちゃ成り立たないし、稼げない。
「強化された身体を元のナチュラルレベルにまで戻すのは無理という結論になったので、じゃあ維持するのに不可欠な『γ-グリフェプタン』を摂取しないで済むような方向で開発してみました。そうして出来たのがこの薬です」
持参した鞄から大き目のピルケースを取り出す。
前回奪っていったデータから見たところによると、三人とも依存レベルが違うので、それぞれ個々に合わせた世界に一つだけの薬。ちなみに花屋の店先には並んでない。
オルガさんは金のカプセル。クロトさんはオレンジで、シャニさんは緑。
間違わないように、それぞれ髪の色で決めてみました。ちなみに味はそれぞれバナナ・オレンジ・メロン。
「これを一日に三回、朝昼夜の食事後に服用して下さい。出陣の際にやむを得ず『γ-グリフェプタン』を飲まされた場合は、出来るだけ直後にこの薬を二錠飲んで、でもって『俺ってば全然平気★これくらいじゃ負けないさ』と自身に暗示をかけて下さい」
「・・・・・・俺ってば全然平気★これくらいじゃ負けないさ・・・・・・」
「ベリグ、シャニさん」
「真顔で言うな、シャニ」
ツッコミを入れたオルガさんは、どうやら言ってくれないらしい。病は気からと言うのに。ちっ!
「三ヶ月も薬を飲み続ければ、お三方とも『γ-グリフェプタン』の依存性からは解放されて、普通の強化人間に戻ります。ただ―――・・・・・・」
「・・・・・・ただ?」
ごくりとクロトさんが唾を呑む。オルガさんもシャニさんも神妙な顔で私を見る。
あぁ、幸村さんが言ってくれたように、彼らが受け入れてくれるといいのだけれど。
受け入れてくれて幸村さんが『力を貸してくれる』状態にならないと良いのだけれど!
そう願いながら私は口を開く。



「ただちょっと副作用として、身体が弱ったときには動物変化しちゃったりするようなっちゃうんですけど、まぁそれはお菓子のオマケだとでも思って受け入れて頂けるとものすごく嬉しかったりしますのでここはどうか一つよろしく」



あぁ、どうかこんな愚かで楽しくて笑える可愛い副作用を三人が受け入れてくれますように!



部屋には再び沈黙が舞い降りた。まぁでも笑顔を浮かべ続けていよう。0円だしね。
「動物・・・・・・」
「どうぶつ・・・・・・」
「ドウブツ・・・・・・」
三人とも呆然と呟いたから、頷いて続ける。
「ちなみにオルガさんは金色の毛並み美しい男前なゴールデンレトリバー、クロトさんはコンパクトな身体と長くない耳が特徴のオレンジ色したドワーフホト、シャニさんは全長50センチのエメラルドグリーンとホワイトがポイントなパンダです。あら、どれも可愛い」
「犬!?」
「パンダ・・・・・・」
「ドワーフホトってって何?」
「ウサギです。身体がコンパクトに丸くて、耳は5センチ強が理想。活動的で非常に人懐っこい性質の」
「あ、ならいーや」
「クロト!?」
簡単に了承したクロトさんを、オルガさんが信じられないものを見るような目で振り返る。
その目がすでにウサギを見ているような目なのは気のせいだよね、うん。
「だって薬を飲まなくてよくなるんなら、ウサギになるくらいどうってことないし」
「ちなみに、一生動物になるわけじゃありませんから。弱っているときだけで、元気になればまた人間に戻りますし」
「・・・・・・なら、俺もいい」
「シャニ!?」
今度はオルガさん、パンダを見るような目でシャニさんを見る。
いやですから大丈夫ですって。慣れてくればそのうち自分の意志でも変身できるようになりますから。
そんな風に思って眺めていると、自分の髪をくしゃくしゃにしながら唸っていたオルガさんは、ついに渋々とした感じで頷いてくれた。
うわ、本当にどうにかなったよ、幸村さん! あなたの力をお借りせずに済みました! あぁよかった!
「ちなみに動物になっても強化は続きます。なのでその力で同種ピラミッドの頂点にでも立ってみて下さいね」
捕獲されて解剖されることだけはご注意プリーズ。



薬も渡した、服用方法も教えた、副作用についても説明して了承貰った。
よし、これで当面の仕事はオッケー。後は三ヵ月後にチェックに来るだけ。今回のバイトは長期だなぁ。なのに基本給なんだよねぇ。
まぁ違反犯してるし、バレなければ良いとしよう。でもって完治した暁にはお三方とも動物化してもらって抱かせてもらおう。
「じゃあこれをお渡ししておきます」
鞄から分厚い日記帳を取り出して、オルガさんに手渡す。判る人には判る小細工満載日記帳。
スリザリンっていうのは根性悪いけど能力は優秀でいいよねぇ。サラザール・スリザリンの知能に乾杯だよ、まったく。
「何だ? これ」
「日記帳です。交換日記しましょう」
「・・・おい」
「あ、僕やる!」
「・・・・・・俺も」
クロトさんとシャニさんはノリがいいなぁ。でもって苦労してそうだなぁ、オルガさん。
「毎日、その日の体調や具合について記して下さい。この際スケジュール帳や本気で日記にしても構いませんから。ちなみにこれは私の持っているものと繋がっていまして、オルガさんたちが日記に書いた文字は私の方に写るし、私が私のに書いた文字もオルガさんたちの日記に届くようになっています」
なので遠距離交換日記。ちょっとした薬と呪文で日記を改造して作ったんだけど、これひょっとして特許取れるかも?
離れてる恋人たちにオススメの一品! でも魔法界は暖炉やら何やらあるから遠距離ってあんまりないかも?
「次は三ヵ月後に来ますね。その頃にはたぶん完治してると思いますから」
「あぁ・・・・・・」
「じゃあまた」
鞄を手にして杖を一振りしようと思ったら、何でかその腕を掴まれた。
何かと思って見上げれば、オルガさんと目が合って。
うわぁ、やっぱり美形だ。男前っていいなぁ。何してもプラスαだなぁ、なんて考えていたら。
「・・・・・・・・・ありがとな」
ひどく感謝の篭った声に、何でか困った。
だから期待と感謝にはなれてないんだって! 根がリドるんと一緒なものですから!
なのにクロトさんもシャニさんもじっと私を見て言う。
「ありがと!」
「・・・・・・ありがと」



「―――どういたしまして」



本当は完治してから受け取るべき言葉なんだけど、彼らが本当に嬉しそうな顔で言ってくれるから受け取っておこう。
結果が出るのは三ヵ月後。その頃には可愛い動物三匹が抱けますように。





2005年1月22日