なんつーか最近、このアルバイトはいかがなもんかと多々思ったりする。
不破は行く先々でおかしな文化やら風習やらを学んできては披露してホグワーツを面白くしてくれるし。
三上さんは三上さんで行く先々で女性を口説いては携帯電話のメモリーを一杯にして休日は大変そうだし。
翼さんは大抵客に性別を間違えられて不機嫌そうに帰って来てはマシンガントークを放ってくれるし。
まぁ笠井君は真面目にこなしているみたいで、着々と顧客も増やしているみたいだけど。
交通費ゼロ円の代わりに心労費とかかかりそうだよ。いやでも不慮の事態もすでにバイト代に組み込まれてるのかも?
あーなるほど、じゃあきっと魔法省はプラスαのお手当てはつけてくれないだろうなぁ。
うん、でもやはりバイトはコツコツ基本給で頑張りましょう。というわけで。
「よっばれて・とっびでて・パンプリーン♪ ハァイ、ご指名ありがとうございまーす!」
営業スマイルで笑ってみせると、私に押し倒されている金髪のお兄さんは殊更に目を丸くした。
同じ部屋にいたらしいオレンジの髪のお兄さんの手からゲームが転げ落ちる。緑髪のお兄さんはアイマスクをして寝たまま。
小さな寝息をバックに口上を述べましょう。何事も基本を疎かにしちゃいけないからね!
「ワタクシ、魔法界魔法省公認『魔法をマグルの人たちにも理解してもらおう!』協会から派遣されて参りました一介の魔女っ子です。さぁ、あなた様の願い事は何ですか? お一つ無料で叶えましょう!」
タダより高いものはないけど、まぁ今は気にせずお気軽にどうぞ。
犯罪に引っかからない限りはお客様に尽くす魔女っ子ですから!
アルバイター魔女っ子(ガンダムSEED連合トリオ編)
「さぁさ、金髪の男前なお兄さん、どうぞお願い事を一つプリーズ? 私たち魔法省所属のアルバイターはお客様の願い事を叶えるのがお仕事ですから、どんな願いでも遠慮せずにプリーズ・ギブ・ミー! まぁ犯罪関係はさすがにしたくないし禁止されてもいるので、そこのところを考慮してもらえると嬉しいかなーと私事を挟みつつ、でもお客様の最善を尽くしてこそのサービス業だとも思うんですよね。もちろん守秘義務は守りますし、個人プライバシーに関しましても鍋に入ればぱっくりと口を開く貝のごとく閉ざしますから、どうぞご心配なく。今丁度『あぁこれって夢かぁ。俺っては鮮明な夢を見るんだなぁ。ははは、実は俺って夢見る少年だったんだ』とか思われてるかもしれませんけれど、目に見えるものは少なくとも事実なのですからしっかりなさって頂けると嬉しかったり? 真実と事実は違うからあなたにとっての虚実が私にとっての真実だったりするのかもしれませんけど、哲学的な話をすると時間がいくらあってもたりませんからまたの機会にするとして、とりあえずこの場は願い事でも言ってみましょう? さぁ魔女っ子に騙されたと思って軽くお一つ!」
私がちょっとヤバイ系の人だったら、きっとこのまま大人の世界に持ち込んだんだろうなぁ。
だってそれくらいこのお兄さんは男前だよ。後ろに撫で付けてる金髪がキラキラで、青年らしい精悍さ。
ちょっと顔色が悪くてクマが出来てるのが気にならなくも無いけど、許容範囲オーケーオーケー。
そんな眼福なお兄さんの腰辺りに、ちょうど馬乗りになっている私は、傍から見たらかなり変な女に見えるだろうなぁ。
だって了承とってないし、強姦だよ、このままじゃ。おまわりさんカモンベイベー。
「オ、オオオオオオオオオオオオオルガァ!? い、今そいつ! どっから出てきたっ!?」
ゲームを落としたオレンジの髪のお兄さんが叫ぶ。
うん、こっちの人は男前というよりは可愛い系かも。ってことは私の好み。よしよしよしよし。
目を大きくして私を指差してるのが可愛いなぁ、なんて考えていたら、もう一人部屋にいた人がごろんとソファーの上で寝返りを打った。
そして落ちた。エメラルドグリーンのふわふわ髪が床に広がって、その向こうで目が開く。
あ、このお兄さんはオッドアイだ。綺麗綺麗。このお兄さんはビジュアル的にも綺麗系。
すごいなこの部屋。男前・可愛い・綺麗の全種目制覇してるよ。どこのホストクラブだ。銀座か、それとも赤坂か?
「・・・・・・オルガ・・・」
綺麗な緑お兄さんがぽつりと呟く。やる気なさそうな声だな、オイ。
「連れ込むのは勝手だけど、俺たちの前でヤるのは止めてくんない・・・・・・?」
「―――なっ!? ば、馬鹿野郎っ! シャニ!」
「オルガって受けだったんだ・・・・・・俺、知らなかった・・・」
「えっ!? オルガってそうなのか!?」
「テメーまで何言ってんだ、クロト!」
「でもその格好で言われても説得力ないし・・・・・・」
呟く緑お兄さんと目が合ったので、ニッコリと営業スマイルしておく。
お兄さんは胡散臭そうに少しだけ表情を変えて、床にペタリと頬をくっつけた。うっわー可愛い。
どこをどう見回しても見眼麗しい部屋に乾杯! なのでちょっと素で笑って告げた。
「さぁ、お兄さん。願い事を一つどうぞ!」
何故か顔を真っ赤にした金髪お兄さんは、制服か軍服みたいなのを改造した服を着ている。
・・・・・・・・・美形はコスプレも似合うなぁ。うん。腐女子に大人気間違いなしだね!
床に張り付いている緑のお兄さん。少し高めの声でたくさん喋るオレンジのお兄さん。私をどかせて息を整えている金のお兄さん。
名前を聞いたところによると、それぞれシャニ・アンドラスさん、クロト・ブエルさん、オルガ・サブナックさんと仰るらしい。
でもってここは船の一室だとか。しかも今は戦争中だとか。世の中には二通りの人間がいるだとか。
うーん・・・・・・・・・一体私はいつの時代に呼ばれてきたんだろうか。少なくとも現代でないことは確かだと思うんだけど。
じゃないと品種改良してコーディネーターなんて作れないって、マジで。改良するのは野菜までにしとけばいいのに、まったく。
「つーか、おまえはどこの誰だよ? 俺に何の用だ」
「ですから先程も説明申し上げたように、私は魔女っ子で、オルガさんの願いを一つ叶えるために現れました。オルガさん、呪文を唱えられたでしょう? 『テクマクマヤコン、テクマクマヤコン』って。あれが引き金になって私が召喚されるようになってるんです。願いを叶えるまでは元の世界に帰れないので、ご協力頂けると嬉しいのですけれども」
「魔女っ子って何?」
「魔法を使う子供のことです、クロトさん」
「・・・・・・・・・てくまくまやこん・・・?」
「オルガさんの読まれていた本に載っているみたいですね。私たちの時代のアニメーションで、ヒロインが変身する際に唱える呪文です」
「で、願い事ってのは何だよ」
「そのままです。私たちの時代では魔法使いとマグル―――魔法を使わない人々との間に、長くて深い溝があるので、それを少しでも埋めるべく頑張っているのが私たちアルバイターなんです。魔法使いにプラスのイメージを持って頂くことを第一に掲げています」
だからとりあえず言ってみてくださいな。○か×かはこちらで判断するので。
そう言ったら、オルガさんは切れ長の目をすっと細めた。考え込む様子も男前。
クロトさんは隣のベッドから目をキラキラと興味深そうに輝かせて、シャニさんは床の上からじーっと猫が宙を見るようにオルガさんを見つめる。
何だか真剣に考えてくれてるみたいだし、これなら早く戻れそうだなぁ。
そんなことを考えながら、私はオルガさんがゆっくりと口を開くのを見ていた。
だから正直、予想外の展開に驚いたのは事実。
「・・・・・・・・・俺たちを、『人間』にしてくれ」
そんな素敵な容姿して実はロボットなんですか。
そう問いかけたかったけれど、オルガさんの真剣な表情に聞くことは止めた。
クロトさんが息を呑み、シャニさんがぎゅっと手の平を握り締めていた。
果たして『人間』とはどういうことを指すんだろう。
オルガさんたちが人間でないのなら、きっと私も人間でない。
本当に『人間』らしい人って、一体どんな人なんだろう。
それは果たして本当に『人』なのだろうか。
「えーと・・・・・・内容整理しますので、もし間違ってたら指摘してやって下さいね」
どうやらオルガさんのものらしいベッドに正座しながら、とりあえず思考をフル活動させる。いや、脳の二割くらいしか動いてないだろうけど。
えーとつまりここはいつの時代だとか、場所はどこなんだとかいうことは置いておいて。
「まずこの世界には普通の人間ナチュラルと、それを進化させたコーディネーターがいる。でもって両者はそれぞれの主張の基に戦争をしている」
オルガさんが一つ頷く。
「オルガさんたち三人はナチュラル、つまりは地球連合の軍人さんで、大きなロボットに乗って最前線で戦っていらっしゃる」
クロトさんが二つ頷く。
「だけど能力的にナチュラルはコーディネーターより劣っているから、それを埋めるべくオルガさんたちは薬を投与されたり、手術を繰り返し受けている」
シャニさんが零個頷く。
「しかし強化能力を維持するには『γ-グリフェプタン』という薬を飲まなくてはならなくて、実はそれには麻薬に似た依存性があるらしく、禁断症状はかなり苦しい」
オルガさんが苦く頷く。
「でもこれを飲まないとロボットには乗れないし、オルガさんたちは経歴を抹消されてパイロットとしてこの場にいるわけで責務を放棄すれば激しい『おしおき』を与えられるし、禁断症状に苦しむからやっぱり飲まなくちゃいけないわけで、結局は常習性に囚われていく」
クロトさんが俯く。
「だからオルガさんは『薬から解放されたい』と願った」
シャニさんは黙ってる。
うーん。経緯は大体判った。これでオルガさんたちの顔色が悪かったりクマが出来てたりする理由も判った。
あーでもずいぶんと変な世界に来ちゃってるみたいだなぁ。っていうかこれが未来? 暗いな、地球の未来。
いやでもここで起こってる戦争はどうやら利益関係ではなく思想が根底にあるみたいだから仕方ないかもしれないけれど、だったら個人で済ませとけというのが私の意見であって。
むしろ国交を断絶してお互いにエイリアンだと思って生きていけばいいんじゃないの? まぁそう出来たら戦争は起こってないか。
それにしてもあれだな。『後悔先に立たず』って諺を実感した人多いだろうな、ナチュラルは。
「―――で?」
「はい?」
顔を上げるとオルガさんと目が合って、ものすごい勢いで睨まれた。
発された声は低いけれど、すごく冷ややかで。
「どうせ叶えられないんだろ」
けれど、根底にある期待と希望は隠しきれていなかった。
アルバイター規約の中には、守らなくてはいけない条件が多々ある。
お客が願っても断らなくてはいけないものが実はたくさんあるのだけど、代表的なのは三つ。
一、客以外の誰かの気持ちを変えてはいけない
二、世界情勢あるいは経済等に影響を及ぼしてはならない
そして、三つ目が一番難しい。必死に願う人ばかりだから。
三、客を含めた万人の生命および寿命を変えてはならない
・・・・・・・・・私はすでに幸村さんの前例があるから破っちゃってるんだけど。
でもはっきりと判るし、知っている。
私たち魔法使いは、神ではないのだ。
でも、『薬』と聞いて黙っていられないどころかむしろチャレンジしたろうじゃん私に作れない薬なんて無くってよオーホホホホホホとか自信過剰なことを思ってしまうくらいに私は魔法薬学狂なのであって。
そして目の前に新しい症例があったら治してみたくなるってのが研究者!
そう思いませんか? スネイプ先生!
「オルガさんたちは体が戻ったら、一体どうするんですか?」
尋ねると、オルガさんは険しくしていた表情を訝しげに歪めた。
私が答えをイエスノーで答えなかったことが不満らしい。
せっかちだと女性に嫌われますよ? せっかくそんなに男前な顔してるのに勿体無い。あぁ勿体無い勿体無い。
「・・・・・・テメーに関係ねぇだろ」
「うーん、それなら『今考えています』って答えて頂いた方が互いに良いと思うんですけれど。まぁ、私とオルガさんの人生が交叉するのは今現在のただ一点だと思うんで確かに関係ないんですけど、でも私たちアルバイターには規約というのがありまして、それを侵す行いは出来ないんですよね」
「つまり出来ないってことだろ」
「それで、オルガさんたちは薬の束縛から抜けられたらどうするんですか? それでもまだロボットに乗って戦うんですか?」
「・・・っ!」
オルガさんが乱暴に立ち上がる。
床から突き刺さってくる視線が痛いと思ったら、シャニさんも私を見ていて。
クロトさんも唇を噛み締めて私を睨んでる。
うっわー・・・・・・美形三人から睨まれるのって怖いなぁ。でも視線独り占め?
「乗らなきゃ殺られるんだから仕方ねぇだろ」
「殺される理由である禁断症状が解決したら、その言い分は通じませんよ。オルガさんたちはロボットに乗って戦いたいんですか? それは一体何のために?」
「戦いたいわけないだろっ! だけど殺らなきゃ殺られるんだから仕方ないじゃん!」
「戦争なんてしたい人がすればいいじゃないですか。それなのに何であなた方が戦うんですか?」
「・・・・・・あんた、うざぁい・・・」
「それとも」
酷いことを言っていると判っていて告げる。
「実は薬を飲んでいる間の状態が、本当のあなた方なんですか? 高揚して、誰を殺すことも厭わない―――・・・・・・」
「獣のような、姿が」
飛んできた拳を身を捻ることで避けた。次いで繰り出される蹴りも立ち上がって交わす。
「オ、オルガ!」
「うるせぇっ! こいつ人のこと知らねぇで勝手なこと言いやがって・・・・・・っ!」
クロトさんが叫ぶけど、オルガさんは手を止めずに私を攻撃してくる。
床に転がっていたシャニさんもいつの間にか立ち上がっていて、ゆらぁりと猫背のまま片目で私をきつく睨んで。
「うさいんだよ、おまえっ!」
さっきからは考えられない俊敏な攻撃で足を払われる。
うっわ、さすが二人とも薬で強化されてるだけあるよ。強い強い。今まで戦った『人間』の中ではトップクラス。
だけど私は『人間』じゃないし、ましてやこんなところでやられるわけにもいかない。なので。
「・・・・・・っ!」
シャニさんの腕を取って背負い、床に叩きつける。
次いでオルガさんの拳を避けて距離を詰め、アイアンクローよろしく足を払って撃墜させた。
どっちが痛いかなんて言うまでもなく?
ローブの裾を払って見回してみると、クロトさんは膝を抱えて蹲っていた。
シャニさんもオルガさんも床に転がったまま。おそらく無理な強化で爆発的な力はあっても、長時間維持は出来ないんだろう。
聞こえてくる嗚咽と不規則な荒い息が、この人たちがどんなに苦しんでいるのか教えてくれる。
だからってわけじゃないけど。
本当は違反だし、彼らの人生や、ましてやそうなることで散るかもしれない命を背負えるわけじゃないけど。
――――――それでも。
「・・・・・・結論から言えば、あなた方の身体を元に戻し、『γ-グリフェプタン』の症状を消す薬は作れます」
こちらを向く彼らの顔は見れない。
「だけど渡すが否かはまだ決めません。だから次に会うまでに考えておいて下さい」
「あなたたちが今後何のために戦い、生きていくのかを」
それだけ言って杖を振り、とりあえずお暇することにした。
最後に見た三人の目が、それぞれ信じられないように見開いていた。
・・・・・・期待されるのって苦手なんだけどなぁ。あぁもうまったく、今回はしんどいバイトになりそうだよ。
特別手当欲しいなぁ。でも申請したら違反でクビになりそうだから黙っておこう。
適当に願いを申請されたことにして、材料費だけは誤魔化して頂くことにして。
あぁ、うん、何か疲れた。
もしもあれが地球の未来だったら嫌だなぁ・・・・・・。美形を改造するだなんて人間業じゃないよ。
そんなことを考えながら手持ちのビーカーと、帰り際に研究室に侵入して盗ってきた薬を手に取る。
この際だからお兄さん方を改造するように指示出してる『アズラエルさん』とやらもいじっちゃおうかな。
まぁ、とにかくしばらくは『反γ-グリフェプタン』の製造に勤しむことにしよう。
あーテスト期間中じゃなくって良かった!
2005年1月19日