何だか最近、不破はアルバイトで面白いところに呼び出されることが多いらしい。
まぁデスノートやら死神やら楽しい情報を持ち帰っては考察しながら披露してくれるから、私としても喜んでお付き合いしているのだけれども。
だけどまぁ、本当にいろいろと呼び出されてるみたいだねぇ。



は郭に求愛されていたのだな」


どこをどうしてそうなったのか、順序だてて説明プリーズ。
この固まってしまった大広間を責任持って解凍してくれ、不破不破。





アルバイター魔女っ子(まるマ編)





今日は宿題も終わったから、先日スネイプ先生から頂いた魔法薬学の最新論文を読むために自室を出た。
いや別に部屋で読んでもいいんだけどさ、室内に篭りっきりだとつまらないって以前光宏に言われたし。
何がどうつまらないのかちょっと疑問だけどまぁいいでしょう。私だって光宏たちと一緒の方が楽しいしね。
だからレイブンクローの談話室に下りていった。そうしたら誰もいなかった。
あらまぁこれじゃあ部屋にいるのと変わりないじゃない? なんて思ったので気紛れに足を大広間に運び。
渋沢さんに調教されている藤代君や鳴海君らハッフルパフに手を振って、須釜さんの監視下で宿題をしている結人や真田君らスリザリンに笑顔を返して。
有希らグリフィンドールと少し話をしてからレイブンクローのテーブルに向かうと、光宏や柾輝たちがティーセットと一緒に出迎えてくれた。
あー何だ、ここにいたのか。じゃあ談話室にいないわけだ。納得納得。
席について話をしたりお菓子を食べたりしながら、最初の予定通り魔法薬学の論文を読み始めて30分くらい経った頃。
どこからともなく現れた不破が、静かに私の背後に立った。
無言で後ろに立たれると本能的に攻撃しちゃいそうなんだよね。嫌だな、この物騒な性格。どうにか修正されないかなぁ。
そんなことを考えながら振り向いた私に、不破は言った。



は郭に求愛されていたのだな」



そして場面は冒頭へ巻き戻しリターン。



不破の良いところはオブラートという薄っぺらだけど人間関係の潤滑油でもある存在が彼の辞書に刻まれていないところだと思う。
だけどそれは短所にもなると思うのだよ。これで自己分析は完璧だね。うん、履歴書の特筆欄もバッチリだ。
で、えーと? 何の話だっけ?
は郭に求愛されているのだという話だ」
「求愛って求愛? 愛を求める狩人と書いて求愛?」
「そうだ」
うわぁ、各テーブルから悲鳴やら怒号やら何かがぶつかったり握りつぶされたりする音が聞こえてくるよ。
だけど不破、何でそんなことを思いついたのさ。考察ルートが是非とも知りたい。なので聞く。
「理由は?」
愛の告白というのは受けたことがないから、何が理由かと思ったら。



「郭がに平手打ちを食らわしたからだ」



・・・・・・・・・ねぇ、不破。
君は一体何処の異文化に呼ばれてきたのさ。



何だかシーンとしている大広間は、おそらく私と不破の会話を見守っているのだろう。
スリザリンテーブルで真田君と結人と宿題をしていた郭君は、今は須釜さんの隣の席に座らされている。
うわぁ、精神的にきつそうな位置だね★ あとで胃薬でも処方してあげよう。
「えーと、何? 今回呼び出された先はどこだったの?」
「眞魔国【しんまこく】だ」
「地球上にありそう?」
「いや、おそらくないだろう。渋谷有利に言わせると、そこは『スタツア』で導かれた場所らしい」
「『スタツア』って、ネズミーランドの?」
「あぁ」
「ってことは、それを知っているシブヤユーリさんとやらは地球人なんだ?」
「県立高校に通う16歳男子だ」
それじゃ私たちと同年代だ。うわー魔法使いしている私たちに言われるのもアレだろうけど、どこにでも苦労してる人はいるんだねぇ。
是非ともお友達になりたいな。異世界体験談とかしたら盛り上がれること間違いないって。
「で、そこの風習だと『平手打ち=求愛』だと?」
尋ねたら、不破はこくりと頷いた。
どこかのテーブルから郭君へ向かってブラックな視線が飛ばされた。
「想いを寄せている相手の頬を平手打ちするのが、眞魔国貴族の伝統的な求婚方法らしい」
「ちょっとSM入ってそうだね、眞魔国の貴族さんとやらは。それで、返事はどうするの?」
「承諾ならばもう片方の頬を差し出す。拒否の場合は特に言っていなかった」
断られることを考えてないなんてプライドが高いなぁ、眞魔国貴族さんは。
それにしても痛そうなプロポーズだ。これじゃ本当に相手のことを想ってるんだか微妙だと思うんだけど。
それともアレか。「殴りたいほど愛してる」ってやつなのか。うわぁ、ドメスティックバイオレンスに発展しそうな予感。
眞魔国の貴族さんは優雅そうな立場の割りに、裏ではドロドロ愛憎劇っぽい。昼メロ万歳。
「ちなみに」
「ん?」
促すと、不破は相も変わらずオブラートを辞書に書き加えていないらしく。



「相手に平手打ちをやり返すと『求婚返し』が成立し、めでたく婚約者となるらしい」



さぁここで本編14話『1ラウンドKO』を参照プリーズ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



うわぁ、私ってば郭君の旦那になっちゃうとこだったよ!



「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「==========!」
「−−−−−−−−−−!」
バックの喧騒は聞こえません。一切合財無視します。だって郭君に向かって叫ばれてるのであって私宛ではありませんから。
それにしても一年生のときのことなんて皆よく覚えてるね。
まぁ確かにあれが、今の私と郭君のポジショニングに繋がったことは間違いないけどさ。
あぁ懐かしき青春の日々。いやまだ水色時代を終えたつもりはないけれど。
「ちなみに渋谷有利はその文化を知らないうちに、己の母親に対して暴言を吐いたフォンビーレフェルト卿ヴォルフラムに怒り、平手打ちを食らわせたことで卿の婚約者となってしまったらしい」
「爵位にプラスしてお金持ちそうだし、いいんじゃないの?」
「だがどちらも男だ」
「法律と国民意識の進んだ国だね」
「また、フォンビーレフェルト卿ヴォルフラムもあることから渋谷有利に平手打ちを返したらしく、それで二人は晴れて公認婚約者となり今に至ると言っていた」
「ちなみに卿は?」
「外見年齢16歳、実年齢82歳。金髪緑眼の俗に言う美少年だろう。ただ口は悪く、温室育ち故のわがままな性格であると言える」
「うわ、好みっぽい」
なんとなく脳裏に翼さんが浮かんだ。
いやいや翼さんは口は悪いけど的を得たことしか言わないし、性格もきつくはあるけど自分の行動にはちゃんと責任を取る素晴らしいお方。
あぁでも翼さん系のビジュアルだったら大歓迎。うわ、行ってみたいな眞魔国。呼んでくれないかな、シブヤユーリさん。
そんなことを考えていたら、カチャンという金属音がした。
振り向いてみれば、郭君に何やらマシンガントークをかましていた翼さんが、勢い余ってフォークとナイフのセットを落としたところらしく。
とりあえず足元に転がってきたナイフを拾い上げて渡す。
「翼さん、落としましたよ」
「悪い。サンキュ、
もちろんマナーに乗っ取って、持ち手の部分を差し出しました。翼さんは受け取りました。
――――――ら。



「今、は椎名に決闘を申し込んだのだな」



じっと私たちの様子を見ていた不破の声に、再び大広間に静寂が訪れる。
オブラートを買ってきて不破にダウンロードしよう。うん。



「眞魔国では、落としたナイフを拾って渡すと『決闘の申し込み』をしたことと同意になる。椎名が受け取ったということは、その申し出を受けたということだ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
魔法省のアルバイトはせめて同じ惑星の中だけにしてほしいなぁ。
異文化コミュニケーションも大切だとは思うけど。
そんなことを考えつつ、私は翼さんを仰ぎ見て笑った。



「デュエル、スタンバイ?」





2004年11月14日