幸村君の華麗なる快気道
その日、大石はたまたま叔父である医師を尋ねに病院を訪れた。
薬品の匂いと独特の雰囲気が広がる院内に足を踏み入れ、叔父と約束しているカフェテラスを目指す。
パジャマ姿の子供が両親と嬉しそうに話しているのに目を細め、老人たちがロビーで集まっているのを見やり。
ちょうど購買に差し掛かったところで、目の端で捕らえた光景に大石は思わず足を止めた。・・・・・・止めざるを、得なかった。
何故ならそこには、彼の知っている人物が、全くもって想像もつかないような格好をしていたのだから。
「立海の幸村が猫の耳と尻尾をつけて病院内をうろついていた?」
思い切り眉を顰めて呟いた手塚に、大石は深く首を立てに振った。
何を言っているんだ、と手塚の表情が語っているのに気づき、慌てて言葉を付け足す。
「いや、本当なんだ。白い、こう・・・・・・ペルシャ猫みたいな耳と尻尾をつけた状態で、病院の購買で買い物をしていたんだよ」
「・・・・・・・・・幸村は入院しているから、病院にいるのは当たり前だが・・・」
猫耳というのはありえない、と眉間の皺が如実に語っている。
けれど大石は確かに見たのだ。昨日、病院で。
ふさふさの猫耳を黒い緩やかなウェーブの髪から生やし、パジャマのズボンから耳と同じふさふさの尻尾を生やしている幸村を。
雑誌のページをめくると同時に尻尾はパタパタと左右に揺れていた。
高級そうな猫だなぁ、などと思ってしまったのは一種の現実逃避だったのかもしれない。
けれど紛れもなく幸村には猫耳と尻尾が生えていて。
大石以外の人々も、そんな彼の姿にチラチラと視線をやっていた。
白衣に身を包んだ医師や看護士、それと入院している他の患者たちは、さも当たり前のことのように気に掛けたりはしていなかったけれど。
幸村に、猫耳と猫尻尾。
似合っていないわけではない。むしろとてもよく似合っていた。
だからこそ、大石は何も言うことも聞くことも出来なかったのだ。
「まぁ・・・・・・幸村にもいろいろと事情があるのかもしれないしな・・・」
どこか遠い方角を見ながら呟く手塚に、頷きながらも大石はツッコミを入れたかった。
『病院内で猫耳と尻尾を身につけるだなんて、それは一体どんな事情なんだ』―――と。
現実と常識を秤に掛けている彼らは知らない。
幸村のその猫耳と猫尻尾が、彼の服用している薬の副作用だということを。
そしてそんな波乱万丈な薬を作っているのが自分たちも良く知っている魔女っ子だということを、彼らは知る由も無かったのである。
2004年5月13日