アルバイター魔女っ子(ヒロイン&立海編)





ご存知の通り、いや初対面な真田さんたちはご存じないかもしれませんけど。
私、作り出すよりは壊す方専門なんです。
いえもう本当に、だから人には向き不向きがあるんですってば。
「ここだ」
そう言って病室のドアを開けた真田さん。
人の話は聞きましょうね。いい加減にさ。



「いらっしゃい」
そう言って迎え入れてくれたのは、線の細い綺麗なお兄さんだった。
最初に真田さんを見て、でもってその後ろにいる私を見て目を丸くする。
そして笑った。うっわ、美人さん。
「はじめまして」
「はじめまして」
「君は真田の彼女?」
「いーえー違います」
さっぱりきっぱり否定しておこう。真田・S・弦一郎は武士すぎて私の好みではないのです。
(ちなみにSはサムライのSなのであって、間違ってもサドのSではない。スーパーのSならまぁオッケー)
どちらかと言えば美人さん、あなたの方が好みなんですけどねぇ。
「幸村、彼女は魔法使いだ」
「・・・・・・・・・え?」
「だから、彼女は魔法使いだと言っている」
真田さん、あなたに称号を差し上げるよ。
キング・オブ・省エネ文字削減ゆえに不親切。あなたはもうそれで決定だ。
「・・・・・・・・・そうなの?」
首をかしげて私を見る幸村さんには、順応力と対応力の花丸を。
「はい、一応魔女っ子をさせて頂いています」
「・・・そうなんだ・・・・・・。俺、初めてだよ。魔法使いさんに会うの」
「私もあなたの様に綺麗な男性に会うのは久しぶりです」
「初めてではないんだ・・・? 少し残念だな」
「世の中は広いですから」
郭君とか、ドラコとか、青学の不二さんとか、探せばそれなりに男性美人さんもいるわけでして。
だけどやっぱり美人さんに会えるのは嬉しいので、ニッコリと笑っておいた。
そうしたら同じように微笑み返してくれる幸村さんは、やっぱりいい。うん、素敵。
真田さん、こんな美人さんを紹介してくれてありがとう! サンキュー・ブシ!
――――――だけどさ。



越えちゃいけない一線というのは確かに存在する。
人の命を操るのが禁忌なように。
してはいけないこと、許されないこと。
協会に所属する際に何度も念を押され、言われ続けてきたこと。
私たちは神じゃない。
・・・・・・だから。



「ごめんなさい、真田さん。私には出来ません」
振り向いて見下ろしてくる相手と目を合わせて。
頭を下げて。



「ごめんなさい」



悲痛な願いを、無視した。



病室に訪れた沈黙は間違いなく私の作り出したもの。
幸村さんは何が何だか分かっていないようで戸惑っているし。
真田さんは、ただ願っただけ。
だから罪はない。
「・・・・・・・・・ならばおまえに用はない。去れ」
必死ゆえの傲慢。
一途と盲目は違うけれど、それを教えるべきは私じゃないから。
「―――真田」
かけられるのは柔らかい声。状況を知らないのに任せてしまうのは申し訳ないけれど。
「真田、よく分からないけど、その言い方は彼女に対して失礼だよ」
「庇う必要などない。こいつが自分で言ったんだ。『何でも願い事を言え』と」
口を滑らした、と思ったのは私と幸村さんだけだった。
当の真田さんは気づかない。盲目過ぎて苦笑よりも悲哀が勝る。
「・・・・・・・・・それで、俺の病気を治してくれるように言ったんだ?」
こういうことを本人に言わせてはいけないのに。
そんな無理やりな笑顔なんて浮かべさせてはいけないのに。
「・・・・・・俺はそんなに哀れまれる理由はないよ」
身勝手な望みが大切な人を傷つけてしまったことに、ようやく真田さんは気づいたみたいだった。



「・・・・・・ごめんね」
真田さんを笑顔のまま追い出した(言葉は悪いけれど、それはまさに『押し出した』に近い)幸村さんは、薄幸美人の顔で笑った。
うーん・・・・・・美人さんにはもっと明るい笑顔が似合うと思うのだけれど。
「いいえ、こちらこそ力が及ばず申し訳ありません」
「そんなことはないよ。魔法使いさんにも、してはいけないことはあるだろうし」
「・・・・・・気づいてましたか」
「うん、何となく」
サトリかもしれない、この人は。
なんだろうか。病院というものはサトリの養成地なのかな。
それともただ単に幸村さんが妖怪なだけか? でもまぁいいや、美人さんなら妖怪だろうが幽霊だろうが何でもオッケー。
シンプルなパジャマの上下がやけに目に付く。
一年くらい前にはさっきの真田さんと同じジャージを着ていた体。
テニスプレイヤーとしてのこの人を、見てみたいとも思うけれど。
「・・・・・・ごめんなさい」
再度謝罪を口にしたら、幸村さんは笑った。
それはとても綺麗な、泣きそうな笑顔だった。



病室から出てくると、真田さんがいた。
でもってそのちょっと向こうには柳さんやら他の皆さんが、廊下に立ってたりソファーに座ってたりしてる。
目が合ったジェントルマン柳生さんにニコッと笑ってみた。ちなみに腹黒じゃない笑顔で。
なのにやっぱり笑顔の応酬になってしまってどうしよーかな、とか考えていたら。
「・・・・・・・・・すまなかった」
真田さんからちょっと凹んでるっぽい声が降ってきた。
見上げてみれば、20センチくらい上で困ったような戸惑ったような、ちょっと悲しそうな顔が見えて。
こんな顔をさせてしまって申し訳ないと思う。でも、私にもやっぱりルールはあるから。
「いいえ、どうかお気になさらずに。真田さんが悪いわけではないんですから」
それだけ言って、「幸村さんが呼んでましたよ」と告げる。
やっぱり困ったような顔をしている真田さんを無理やり病室の中に押し込んで、と。
やーもー、あの人も15歳に見合った表情をするんだねぇ。友達に関するときはやっぱり年相応になるんだ。
今頃、幸村さんにも謝ってるんだろうところを想像してみると、これがちょっと可愛らしい。
うん、真田さんは実は可愛いかもしれないぞ。それはそれで良し!
「なぁ、
「何でしょうか、切原さん」
「赤也でいいって」
「じゃあお言葉に甘えまして。何でしょう、赤也?」
「願い事ってまだだよな? じゃあテニスの相手してくれよ」
そう言った切原君もとい赤也の目がキラーンと光った。
だけどそれは眩しい少年のものではなくて、どちらかといえば獲物を前にした肉食獣の目であって。
うーん・・・・・・・・・こういうのは、嫌いじゃないから。
「魔法使ってオッケーならいいですよ?」
「よっしゃ決まり!」
そう言ったが瞬間、手を握られた。キャー! セクハラだわー! おまわりさーん!
病院内で呼んでも来てくれるはずがなく、そんな感じで引きずられる引きずられる。美人幸村さんの病室が遠ざかっていく・・・!
丸井さんやら仁王さんやらは楽しそうに笑ってついてくるし、ジャッカルさんと柳生さんも結局はついてくるし。
柳さんは一言断っておくためか、幸村さんの病室の中へ顔を出していて。
つーかお兄さん方、セクハラを黙って見てないで止めてくださいよ。じゃないと共犯者でお呼ばれしてもらいますよ、警察に。
「俺さぁ、マジで強いよ?」
自信満々に赤也が言う。じゃあお手並み拝見といきますか。





「ただいま帰りましたー」
大広間の扉を開ければ、それはもう美味しそうな夕飯が広がっている。
魔法で水を出して手を洗って、でもって乾燥魔法で綺麗に乾かして。
多紀と柾輝の間、光宏の前の定位置に腰を下ろす。
あーやっとご飯だよ! お腹すいたよ! 疲れたよ!!
「お帰り、。今日は結構時間かかった?」
正面から光宏が話しかけてくる。つーか野菜も一欠けらくらいは食べなさいって。
「かかったよ。ずーっとテニスやってた」
「テニス? それが客の要望か?」
「うん。魔法ありだけど、やっぱ基本は私の体力だしね」
ちゃん最近多いね、テニス関係の呼び出し」
柾輝がスープをよそってくれて、多紀がパンを取ってくれる。至れり尽くせり女王様だ!
「何でだろうねぇ。やっぱ名刺渡してきてるのがイイのかも」
「実験体がどんどん増えてるもんなー」
「本当。忙しくてラッキーみたいな?」
電話も結構かかってくるから、受付役のリドるんなんか電話番で大変そうだよ。
でも面白そうな仕事だったら一緒についてくるし、何だかんだいって楽しんでるっぽいからいいけど。
バイト代も入るし、実験体は私的に確保できるし、リドるんは暇つぶしを見つけたし。
うん、良いことばっかだ。
「頑張りすぎて身体は壊さないようにね?」
優しい言葉をありがとう、多紀!



その日の夜、夕飯も復習も入浴も遊びも全部終えて部屋に戻った後、私はハンガーにかけておいたローブの中からレターセットを取り出した。
これは今日の帰りにムジルーシで買ってきた、いたって変哲のないシンプルな便箋と封筒セット。
取り出して、羽ペンにインクをつけて、と。
「『拝啓、幸村さん―――お元気でお過ごしでしょうか』・・・・・・ってコレはちょっと変か」
今日会ったばっかだし、入院している人に『お元気ですか』も何もないと思うし。
じゃあどうするよ。ここはやっぱり『今日はあなたと出会うことが出来てとても嬉しかったです』とでも書いておくべき?
あー・・・普通に手紙を書くよりかはラブレターの方がいいなぁ。だってアレは何を書くかがハッキリしてるし。
いっそのことラブレターにしちゃおっかな。幸村さん宛ての愛手紙。切々と幸村さんの美について語ったら100点満点で採点してくれないだろうか。
あ、でも果たし状というのも捨てがたいかも。あれなら郭君にもらってるから参考資料もあるし。
まぁ、とにかく、文通っていうのはお互いの日常にあったことを知らせあったりするのが定番だろうから。
ホグワーツのシステムでも説明することから始めてみよう。うん。



幸村さんの病室で、私は彼から一つの『願い事』を請け負った。
それはまぁとても簡単で、そして何故か難しいこと。
けれど美人さんのお願いを断るほどに私は美食家なわけじゃないので。
結局その『お願い』を受けて、私はなったのだ。

幸村さんの、文通相手に。

何でも幸村さん曰く、病院とは結構暇なところらしい。
真田さんたちがよく見舞いに来てくれたり、同じ病棟の子供たちと遊んだりはするものの、やはり時間を持て余すごとが多いらしく。
そこで白羽の矢が立ったのが、私というわけか。
ちゃんのことを知りたいから」
そう言った幸村さんは、何気に詐欺師の素質があるのだろう。美人だから効力更に倍。
まぁ、私としても魔法使いのことを受け入れてもらうには丁度いいかな、と思ったので引き受けた。
そして今に至るのである。



とりあえず適当にホグワーツのことやらを書いて、便箋二枚を折り畳んで封筒に仕舞う。
これから毎日手紙の遣り取りをするわけだし、まぁ最初はこんなものでしょう。うむ。
糊で封をして、でもってホグワーツの校章(リドるん作)で判とか押しちゃったりして。
学校から借りてきたフクロウさんに手紙を銜えさせる。それと忘れちゃいけません、もう一つ。
机から離れて窓際に寄っていくと、数々の実験器具の中でゴポゴポと音を立てているビーカーを取り出して。
ろ紙で濾してみると、見事に丸い塊のようなものが取り出せた。
「おぉ。見事な蛍光グリーン!」
一口大のそれを洗って乾かしてから可愛らしい紙にくるんで、両側を絞って、と。
それを小さな袋に入れて、フクロウさんの背中に括りつけた。
「無事に幸村さんのところまで届けておくれ」
チュウを一つして窓から放す。
後は病院でフクロウが捕まりませんように。幸村さんが鳥アレルギーでないことを祈るだけ。



魔法界にはルールというものがあり、それは魔法省公認なバイト先でも同じことで。
つまり、手出しは無用なんだけど。
フクロウが飛んでいって、見えなくなるまで見送ってから呟く。
「飴、ちゃんと食べて下さいね」
塵も積もれば山となる。薬もちょっとずつ溜まっていけば病気を治すことも出来るから。
バレないようにするにはこれくらいしか手段がないし。
味もグレープとかイチゴとか開発するんで、ダイエットは諦めて全部きれいに食べてくださいな。
だってやっぱり、幸村さんのテニスしている姿を見てみたいなーとか思っちゃったし。
なので魔法省にバレない程度に、コツコツ治していきましょう。
私、これでも魔法薬学は得意ですし?



何より、美人さんの『願い事』は叶えるのがモットーですから。





2004年5月8日