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アルバイター魔女っ子(ヒロイン&立海編)





とりあえず小金を稼ごうと思って魔法界魔法省公認『魔法をマグルの人たちにも理解してもらおう!』協会に登録をしてみたものの。
呪文がひみつのアッコちゃんとメジャーどころの所為なのか、結構な呼び出しを食らってしまう。
『呪文+魔法使い』っていう単語がサインなんだよねぇ。
その言葉がマグルによって口にされれば、たとえ授業中だろうとその場へ強制的にご招待。
まぁ呼び出された回数によってバイト代も増えていくから良いんだけどさ。
でもやっぱり授業中に呼び出すのは、学生の身としては辞めてもらいたいわけで。



でもってさらに言えば、クイディッチ中に呼び出すのも、どうかと思うわけで。



ぷかぷかと箒に乗りながら、とりあえすはスマイル一つ?
金を貰ってるからにはプロフェッショナル根性を見せ付けてあげましょう。
後で倍返しで協会にバイト代の割り増しを請求するけどな!」
――――――というわけで。



「よっばれて・とっびでて・パンプリーン♪」



私よりも2メートル下で固まっている人間の皆様に、私は宣伝文句を高らかに言い放った。



「どうもいきなり上から登場してしまい申し訳ありません。お客様を見下ろすだなんて、あぁまったくもってプロにあるまじき失態! けれどこれもすべて突然に呼び出すようなシステムを設けた魔法省が悪いのです! やはり改良の余地あり、一から見直して作り変えなくてはいけませんねぇ。お客様に気持ちよく願い事を仰って頂こうという趣旨に、最初から見事に反しておりますし。あぁでもこれが狙いなのかもしれません。マグルの皆様と仲良くなろうというフリをして、けれど真意はその真逆。ええ、見事な手腕です。さすがは老齢な魔法使いお偉方の方々。手法には凝っていますし、金も十分にかかってる。なのに意外と成果が挙がっていないのはどうしてなんでしょうねぇ。やはり現場を受け持っているバイトさんたちが己の責務に一生懸命取り組んでいるからでしょうか。ならもう少しバイト代を上乗せしてくれても良いと思いませんか? 社会経験が大切とかどうとかいうモットーなんていりませんから。世の中は金ですよ、金。八割方はそれで解決できるんですから、サービスしてくれても良いものを。え? 残りの二割は何なのかですって? そんなの決まってるじゃないですか。力と愛ですよ。パーセンテージ的には1:1ですね。あぁなんて素晴らしい世界!」
一気に喋って、少しツッコミを受ける間を作ってみる。
けれど何も言ってくれる様子がないので、さらに続けてみよう。喋れるうちに喋っておかねば。
勝負は最初の一発でかなり決まってしまうものだしね。
「ご紹介が遅れました。私、姓は久堂、名を昭乃。コードネームもありますが、それは秘するのがプロというもの? どうぞお好きなようにお呼び下さいませ。この度どうしてこちらに現れましたかといいますと、それは皆様の願いを叶えるためなのです。魔法使いと人間、両者の間に流れる溝は深く、今では関わることすらほとんどなくなってしまいました。けれど地球は一つなのです。いくら魔法を使う我々といえど、この星をなくしてどこに住むことも出来ないのです。それならばやはり、この広く狭い地球で多くの人々と麗しい友情を築いていきたい。そう思って設立されたのが、魔法界魔法省公認『魔法をマグルの人たちにも理解してもらおう!』協会です。私めも及ばずながらこの協会に所属しておりまして、日夜魔法使いの存在を広めるために東奔西走している所存でございます。あぁちなみにマグルとは魔法の使えない人間の方々のことでして、つまりは皆様のことなのですけれど。呪文によって現れ、マグルの皆様の願いを叶え、そして魔法使いに良い印象を持っていただく。私の使命はそれだけですが、何故かその少しのことがとても難しく且つ楽しい! いえいえ本音というのは隠しておくのが定番ですが、初対面の相手には露呈して方が良いという不思議物。というわけで言っていましたが如何でしょう。マグルと魔法使いの交流のために一肌脱いではもらえませんでしょうか?」
ようするにさっさと願い事を言え。
そう思ってスマイルを浮かべて見せたのに、目の前の人々はまだ固まったまま。
うわー・・・・・・今回の人たちは順応力が低そうだよ。



何だかこのまま話し続けても右から左へ流されそうなので、ちょっと待ってみることにした。
っていうかここはどこ? 私は誰じゃないけど、場所はさっぱり分からない。
周囲を見回してみれば、テニスコートなのは分かる。しかもただっ広いのも分かる。
しかし部員は目の前にいる7人しか見当たらないんですけど。ひょっとして貸切コート? もしくはVIP?
わお、やった! こんなところで人間界のVIPとお知り合いになれるなんて!
協会もたまには良いことをしてくれるねぇ。うん、やっぱり急な呼び出しも文句言わないでおいてあげるよ。
「・・・・・・・・・これは幻だ」
そう言う帽子の人は、順応力が0に近いらしい。
「そうだ、これは幻だ。いくら何でも箒に乗って空を飛ぶ人間がいるわけがない」
いえ、いるんですってばここに。あぁでも私は人間じゃなくて魔法使いだから、ある意味正論かもしれませんけど。
「さぁ練習に戻るぞ! 全国三連覇を成し遂げるためには休んでいる暇などない!」
現実逃避が面白い。うん、ラケットを手にしてコートに戻るこの人はものすごく面白いぞ。
なので思わず後ろをついてってみた。背が高いなぁ。180センチくらいあるかもしれない。渋沢さんよりは、少し低いかもだけど。
「・・・・・・・・・真田副部長」
「何だ?」
後ろから声がかかって、帽子の人が振り返る。なので私も同じように振り返ってみる。
クルクルとした髪の少年が、どこか間の抜けた顔でこっちを見ていて。
「・・・・・・・・・無理があると思うんスけど」
「何がだ、赤也」
「だから、その子の存在を無視するのは無理だと思うんスけど」
クルクル少年は順応力がそれなりにあるらしい。うん、理想的なタイプに近いね。
しかしこの帽子さんはまったくだめだ。現実を直視する能力に欠けてるよ。欠けすぎてるよ。
きっと妻が出て行ったとしても「そんなことはない」って言って、翌日も普通に出社するタイプだ。それで死の間際に「本当だったのか・・・」って気づく感じの。
うわ、楽しい。ものすごく楽しいよ。見てみたいよ人生ダイジェスト。
「人間は精神を統一すれば、おのずと己の見るべきものが見えてくる」
「いや、だから俺にはその子が見るべきものに見えるんスけど」
「赤也、おまえはたるんどる!」
「・・・・・・真田副部長の方がたるんでますって」
クルクル少年の言うことはもっともだと思う。
順応力0なのは生まれつきなのかなー。でもそれって結構その後の成長過程で変わると思うんだけど。
きっと箱庭育ちに違いないな、この帽子さんは。立派な木箱にでも入れられて育ったんだろう、うん。丸いメロンも箱に入れて育てれば四角いメロンになるように。
つーことは何か? 人型に入れて育てれば、人型メロンが出来るのか? うわ、ちょっと食べてみたい。
そんなことを考えていたら、クルクル少年の向こうから襟足が少し長くて、口元にホクロのあるお兄さんが手を振ってきた。
なので笑顔で振り返した。帽子さんに存在を無視されているとはいえ接客業だからね。スマイル0円。
そうしたら風船ガムの人も振ってきたから、スマイル二倍でプレゼント。
やーいいねぇ、帽子さん以外は結構慣れるのが早いみたいだ。
「弦一郎、現実を直視しろ」
「蓮二、おまえまでそんなことを」
「状況把握がしっかりと出来ない者は勝負に勝つことも出来ないぞ」
「・・・・・・それはそうだが・・・」
何だかものすごい会話が為されているような気もするが。
「今って2004年の日本ですよね?」
「ええ、そうですよ」
聞いたら眼鏡の紳士風のお兄さんが頷いてくれた。うん、ということは何か。
帽子さんだけが戦国時代からタイムスリップしてきているということなのか。
うーわーホグワーツ日本校の裏道以外でもそんなことを出来るのか。っていうか帽子さんはマジで武士っぽいんだけど。
その手に持ってるラケットが真剣で、来ているジャージが鎧で、被ってる帽子が兜で。
・・・・・・・・・・・・・・・・・似合いすぎてて、どうします?



その後、とりあえず自己紹介をしてもらえることになった。
クルクル少年の名前は切原赤也。168センチのO型で、好きな食べ物は焼肉な中学二年生らしい。
趣味は格闘ゲームってことからして藤代君と話が合うかもしれないなぁ。
昭乃はゲームしねーの?」
いきなり名前呼びだけど、まぁいいや。クルクルは順応力が高すぎて難点。
「するけど、あんまり・・・・・・」
相手をすることが出来ないかも。私はカードゲームや麻雀だけじゃなくてテレビゲームまで鬼のように強いから。
何でこんなに強いのかは疑問だけどね。だから相手になれません。なりません。
二番目に紹介されたのは、小麦色の肌が健康的なジャッカル桑原さんだった。
ラテンな血を引くハーフなお方。
あぁでもということは、ひょっとして柾輝もラテンなのかな。だって同じような小麦色の肌だし。
「・・・・・・よろしくな」
ジャッカルさんは私の存在にまだ戸惑っているようだけれど、笑顔を浮かべて挨拶してくれた。
でもって次は。
「俺は丸井ブン太。シクヨロ!」
風船ガムな人は結構年相応っぽい人だ。というかこの人と帽子サムライさんが同じ年で良いのだろうか。
「私は柳生比呂士です。よろしくお願いしますね」
眼鏡のお兄さんはジェントルメン風だが、紳士は腹黒だというのがホグワーツの鉄則なわけでして。
一抹の不安を抱えつつ、まぁいいやなんて思ったり。だってそっちの方が楽しそうだしね。
「俺は仁王雅治。それで、君は本当に魔法使いなんかい?」
「はい、そうです」
「ほほう」
楽しそうに笑ったのは襟足を結んだホクロのお兄さん。この人は紳士さんとは違った意味で黒さを感じる。
この黒さはどちらかというとノリックさんと同じ系統かな。電波系というか、ナチュラルなのに自覚系というか。
どっちにしろ面倒くさい。でもそれでこそ面白い。
「柳蓮二だ。よろしく」
「よろしくお願いします」
手を差し出されたので握手してみる。この人はさっき帽子さんに勝利のコツを説いた人だ。
うーん・・・多紀と似て、開いてないのに見えてる目。どこの世界にも似たパターンの人はいるみたい。
そんな柳さんは、ラケットの持っていない方の手でコートを指差して。
「それでアレが、真田弦一郎。15歳」
年齢偽証だと思ったのは真田さんだけじゃなく渋沢さんのためにも伏せておこう。
でもとりあえず真田さん。そろそろ私の存在を認める気になりましたか?
「・・・・・・・・・確かに勝利を手にするためには冷静な判断力が必須・・・・・・いや、しかし人間が箒で飛ぶなどということがありえるのか? 漫画やアニメではあるまい・・・・・・では何故・・・」
往生際が悪いな、この人。
えーでもまぁとにかく役目を全うしないとバイト代が出ないわけでして。
「あなた方の願い事を一つ叶えますので、どうぞ何なりとお申し出下さいませ」
脅迫まがいの笑顔で真田さんを脅して、ニッコリと笑ってやった。



私たちアルバイター魔女っ子は、協会に所属する際に適性検査を受けさせられる。
魔法使いとしてマグルの前に出しても恥ずかしくないだけの実力を持っているか。
きちんと礼儀作法は出来ているか。魔法界の仕組みをちゃんと説明することが出来るか。
人間界の常識も持ちえてないといけないし、何よりピンチを切り抜ける機転もなくちゃいけない。
筆記試験・面接・実技試験の三つをクリアーするには、それなりのレベルが必要になってくる。
だから志望者の数が多い割りに、正式なアルバイターになれる者は少ない。
それ故にバイト代はかなり高かったり、将来のコネとかも沢山出来たりするんだけど。(つーか私はそれが目的だし)
やっぱり、束縛もあるものであって。



「・・・・・・・・・幸村の病気を治してくれ」



真剣な表情でそう告げる真田さんに、何と答えるべきか迷ってしまった。





2004年5月5日