アルバイター魔女っ子(笠井&不動峰編)
「よっばれて・とっびでて・パンプリーン♪」
明るい声でそう言って現れた女の子と。
「・・・・・・・・・」
静かに出てきて、笑顔とウィンクを一つした男の子。
呆気に取られている私たちの中で、深司君がいつものようにボソボソと呟く。
「・・・・・・あのさぁ・・・アクビちゃんは結構メジャーだからいいかもしれないけど、そのウルトラマニアックはどうなの・・・? 笑顔とウィンクじゃ気づいてくれる人も少ないんじゃない・・・? まぁ俺には関係ないけどさ・・・・・・それに俺は分かったし・・・・・・? うん・・・・・・だから俺には関係ない、関係ないよ・・・」
「うっわー笠井君、聞いた? 苦節7回、8回目にしてようやくネタが分かってくれる人に出会ったね!」
「そろそろ変えるべきかな、とも思ってたけど大丈夫そうだね」
「分かる人だけ分かるっていうのもアリだし。その方がお得気分?」
「・・・・・・そりゃそうだけどね・・・・・・っていうかそんなのでお得気分になっても俺は別にどうでもいいんだけどさぁ・・・・・・・・・」
「そんなこと言わないで、お客さん」
楽しそうに笑う女の子と、満足そうに微笑む男の子と、やっぱりボソボソ呟いている深司君。
何か、ちょっと、わけの分からない光景が、私たちの前に広がっていた。
「この度はご指名ありがとうございます。俺は魔法省公認『魔法をマグルの人たちにも理解してもらおう!』協会から派遣されてきました笠井竹巳といいます」
「同じくです。どうぞよしなに」
「信じてもらえないとは思いますけれど、実は俺たちは魔法使いでして」
「ステッキひとつでクルクルーってヤツです。生憎と変身は出来たり出来なかったりするんですけど」
「さんは出来るよね。何だかとんでもないのに」
「笠井君も出来るよね。やっぱり猫に」
「まぁとにかく普通の人間―――俺たちの言い方ではマグルと呼んでいますが、そのマグルと魔法使いの間にある認識の違いと溝を埋めるために、俺たちはこうして派遣され、マグルの皆様の願い事を叶えているんです」
「最近では魔法使いもオープンになってきてまして、普通に渋谷で買い物したりしたいとか思ってるんですよ。でもやっぱり人口的に肩身が狭いので、少しでもマグルの方々に存在を認めてもらえたらなーと思い、こうした活動に勤しんでいるのです」
「魔法使いは悪い存在じゃないと感じて頂ければ、俺たちとしては有り難い限りでして。というわけで、何なりと願い事を仰って下さい」
「犯罪じゃなければ大抵のことは受け付けますから、どうぞご遠慮なく」
「犯罪も軽犯罪なら大丈夫かと」
「それは笠井君一人でどうぞ。私は生憎とまだ犯罪者になる気はないんで」
「じゃあやっぱり普通の願い事ということで」
男の子―――笠井君? と、女の子のさんが、代わる代わるに説明をしてる。
深司君は普通にときどき相槌を打ったりして聞いてるけど、私の中では右から左に流れていってしまって。
・・・・・・・・・だって、ねぇ。
今の今まで、このテニスコートには男テニの部員と私以外、誰もいなかったのに。
この状況(=突然現れた男の子と女の子が仲良く説明をしてくれている)は、何で・・・・・?
今日は土曜日で、でも大会が近いから練習があるってお兄ちゃんが言っていて。
だから私も一緒になって学校に来ていて。
そうしたらネットを張っていた桜井君と内村君が「「あ」」って揃って声をあげてて。
見たらネットがもうボロボロになっちゃってて、張るのも難しそうで。
橘さん、どうします、って石田君と森君が聞いてきて。
部費が少ないのにこれは痛いな、ってお兄ちゃんが言って。
魔法みたいに直ればいいんですけどね、ってアキラ君が笑って。
無理に決まってるじゃん・・・これだからアキラは・・・・・・、って深司君が呟いて。
アッコちゃんなら言えるかもな、って桜井君が思い返して。
テクマクマヤコン・テクマクマヤコンだろ、って内村君が唱えて。
キューティーハニーは魔女っ子じゃないよな、って石田君が首をかしげて。
ハニー・フラッシュだっけ、って森君が聞いて。
それで魔法使いが出てきたらいいんだけどな、ってお兄ちゃんが苦笑して。
出てきたらいいですねー、ってアキラ君も頷いて。
出てくるわけないけどね・・・・・・、って深司君がツッコミを入れて。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
そう! それでこの二人が現れたのよ!
初夏の暑い空の下、突然現れた二人に私たち(深司君除く)は固まるしかなくて。
お兄ちゃんなんか表情がなくなっちゃってるし、アキラ君なんか目が零れそうなほど大きくなってるし。
石田君たちなんか揃って口を丸くして顎を落としてる。
どうしよう。どうすればいいんだろう、って思ってたら、女の子―――さんと目が合ってしまって。
――――――あ。
この子、笑うとすごく可愛い。
女の子女の子した可愛らしさじゃなくて、もっとこう、人間的な魅力。
男女構わず引きつけるような眩しさに、私はつい見入ってしまった。
「・・・・・・・・・ナンパしない」
コン、と笠井君がさんの頭を軽く小突いて。
ナンパって・・・・・・・・・私? え、今私ってナンパされてたの?
あぁでもそれもいいかもしれない。さんとなら仲良くなれるな、きっと。
「・・・・・・・・・魔法使い?」
アキラ君がポツンと呟くと、さんと笠井君は揃って頷いた。
「「はい、魔法使いです」」
「・・・・・・・・・マジで?」
「「はい、マジです」」
声もピッタリ揃ってるから、きっとこの二人は仲がいいんだろうなぁって思った。
いいなぁ、笠井君。私もさんと仲良くなりたい。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嘘だろ?」
内村君が呟いた。
森君や石田君、桜井君もみんな同じようにして「嘘だろ」とか「マジで」とか囁いていて。
深司君は何故か最初っから態度が変わらないままだし、まだ固まっているのはお兄ちゃんだけ。
・・・・・・・・・順応遅いわよ、お兄ちゃん。
「・・・・・・まぁでも百歩譲って魔法使いだとしてもさぁ・・・・・・その制服みたいなのはちょっと頂けないよね・・・・・・・・・」
深司君がボソボソと指摘した。
たしかに、二人は私たちと同じような制服を着ていて。
笠井君はグレーのズボンに同色のベストと、黄色と金色のネクタイ。
さんはグレーのスカートとベストに、青と銀色のネクタイ。
夏が間近の今日では、二人の着ているマントみたいなものがかなり暑苦しく見えるけど。
笠井君がもっともだと言うように軽く笑った。
「これは正真正銘、制服です。俺たちもまだ学生ですから」
「・・・・・・魔法使いなのに学生・・・・・・?」
「ええ、ホグワーツ魔法魔術学校日本校に通っています」
ちなみに俺がハッフルパフ寮で、さんがレイブンクロー寮です、と笠井君は言う。
寮があるってことは全寮制なのかな? いいな、面白そう。
魔法使いってどんな生活してるんだろう。見てみたいかもしれない。
そんなことを考えていたら、いつのまにかさんが隣にいた。
ついさっきまで笠井君の近くにいたはずなのに。まるで忍者みたいに。
「こんにちは」
笑うさんが可愛くて、私も思わず笑顔になってしまう。
「こんにちは」
「先ほども述べさせて頂きましたが、です。どうぞよろしく」
「私は橘杏。こちらこそよろしくね」
そこまで挨拶をしたら、深司君と話していた笠井君から声がかかって。
「さん、だからナンパは」
「欲望という名の願いは永遠に消えないけれど、美というのは一瞬で変化してしまうものなのだよ、笠井君。その瞬間を心に刻む邪魔をしないでね」
「・・・・・・・・・」
サラリと笑顔で言ったさんは、ものすごく『問答無用』を体現していた。
笠井君が言葉に詰まり、肩を落として溜息をつく。
そんな様子はちょっと気の毒だけど、でも私としてはさんと話が出来るから嬉しい限り。
「ねぇ、って呼んでもいい? 私のことも杏でいいから」
「もちろんです。美少女を名前で呼べるなんて至極光栄」
「敬語もナシ。って携帯とか持ってる?」
「うん、持ってるよ。改造したやつだからちょっと強力だけど」
「なぁに、それ」
クスクスと笑いながら携帯番号とメールアドレスを交換した。
強力っていうからどんなのかと思ったけど、の携帯は普通のに見えた。少なくとも外見は。
ふふ、これで友達をまた一人ゲット。しかも、何だか今回の相手はすごく楽しそう。
もっといっぱい話したり、どこか行ったりしたいな。買い物とか映画とか遊園地とか。たくさんデートしてみたい。
「・・・・・・・・・君たちは、本当に魔法使いなのか?」
やっとお兄ちゃんが硬直から融けて言葉を発した。
もう! 本当に順応が遅すぎよ、お兄ちゃん!
「はい、そうです。というわけで願い事をどうぞ」
「いや・・・・・・・・・その・・・・・・」
「願い事をどうぞ」
口ごもるお兄ちゃんに、笠井君がスマイルで畳み掛ける。
隣にいたが、「これだから監督生予備軍は」と小さく呟いた。
意味がよく分からないけど、とりあえずお兄ちゃんは笠井君の見えないプレッシャーに圧倒されてしまって。
「ネットを直して欲しい」
・・・・・・と、あっさり望みを口にした。
「どうする? とりあえず肥大魔法を使えばいいかな」
「そうだね、それでいいと思う」
そんなことを言いながら笠井君とはマントの中から棒のようなものを取り出して。
ひょっとして、あれが杖・・・・・・というかステッキなのかな。
イメージと少し違ってガッカリしてると、二人はその棒をボロボロのネットに向けて、声を揃えて。
「「エンゴージオ、肥大せよ」」
眩しい光が当たり一面に広がった。
ピカピカの新品同様になったネット。
そしてがサービス、と言って内装だけ新築みたいにしてくれた部室。
私ってば何だかすごい友達が出来ちゃったみたい。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とりあえず葉書きを出しに行くか」
部活の後、何だかいつも以上に疲れた様子のお兄ちゃんがそう言った。
アキラ君も深司君も、他のみんなもアンケートの印刷された葉書きに記入して。
評価? そんなのもちろん決まってる。
魔女っ子万歳、ってね!
2004年4月18日