アルバイター魔女っ子(三上&山吹編)





「俺様のフリータイムを潰すヤツなんざ、どんな美女だろうと許さねぇ。月にかわってオシオキヨ」
どこかで聞いたことのある台詞を棒読みで言って、そいつは急に現れた。
・・・・・・・・・っていうか、誰もいなかったよな、そこ。
部室には俺と東方と千石と室町と壇と亜久津がいたけれど、でもそれ以外にはいなかったはずだ。
・・・・・・・・・なのに何で、今はそれ以外のヤツがいるんだ?
突然のことに頭が真っ白になった俺に、現れた男はニヤリと片口をあげて笑った。



「俺の名前は三上亮。これでも一応魔法使いで魔法省公認『魔法をマグルの人たちにも理解してもらおう!』協会に所属してる。つーわけでおまえらの願いを叶えることが俺の仕事なわけだ。面倒くせぇけど仕方ねぇよな、これもマグル学のレポートのためだし?」
勝手に喋っては一人で納得をしている・・・・・・。
えっと、これは、何なんだ?
「とりあえず俺が良いと思うものは叶えてやるよ。ダメなものは当然却下。言えるものなら言ってみな」
楽しそうに笑う顔は、男の俺から見てもカッコイイと思うのに、何故か性格が悪そうに見える・・・・・・。
き、気のせいだよな?
――――――っていうか・・・・・・。



この状況(=突然部室に現れた男が、結構俺様で意味不明なことを言っている)のは、一体何なんだ・・・・・・?



今日はもう部活も終わって、俺たちはこれからどこかに寄っていくか、というようなことを話していたはずだ。
いつもは女と待ち合わせをしている千石がいたから、珍しいなって東方が言っていた気がする。
それに対して千石が、たまには男同士の友情を深めるのもいいと思ってね、とか言って。
フラれただけだろ、って亜久津がツッコミを入れて。
友情なんてあったんですか、って室町が冷静に追い討ちをかけて。
千石先輩は数打ちすぎてるから当たらないんデス、って壇が無邪気に止めを刺して。
ま、まぁ、ほら、いつかおまえも本気になれるヤツに出逢えるって、って東方がフォローに入って。
・・・・・・いっそのこと神様にお願いしようかなぁ、って千石が凹みながら呟いて。
バカが、って亜久津が吐き捨てて。
いっそのこと魔法でも使った方が早いんじゃないですか、って室町が言って。
あ、僕、マジカルエミの呪文なら言えるデス、って壇が自慢気に胸をそらして。
パラリン・リリカルだろ、って何でか知ってる東方が始めて。
パラパラ・マジカルでしょ、ってやっぱり凹み中の千石が言って。
それで魔法使いが出てきてどうすんだ、って亜久津がかなり呆れ果ててて。
運命の相手を作ってもらうんじゃないですか、って室町がもっともなことを言って。
魔女っ子さんに会ってみたいデス、って壇が笑って。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



そうだ! それでコイツが現れたんだった!



「まぁ一応会話を聞かせてもらったけどな。つまりは女を紹介すればいいのか?」
そう言う男―――三上だったか?
とにかくそいつは、部室の中にある伴爺専用の腰にいい椅子に座って足を組んだ。
着てるのは何だか制服に見えるけど・・・・・・グレーのズボンにセーター、黄色と金色の縞のネクタイ。
羽織っている黒いマントみたいなものには、ライオンと熊と鷲と蛇の紋章が刺繍されている。
身長は千石と同じくらいか・・・・・・。だけど仕種一つを取っても絵になるような、そんな雰囲気をコイツは醸し出している。
つーか・・・・・・マジで、いつの間に現れたんだ・・・・・・!?
「・・・・・・女の子紹介してくれんの? 本当に?」
「ちょっと待て、千石! 聞くのはそんなことじゃないだろ!?」
アホなことを言う千石に、俺は思いっきりつっこんでしまった。
慌てふためく俺を見て、三上はやけに楽しそうにニヤニヤと笑っている。
やっぱりコイツ、性格悪そうだぞ! 氷帝の跡部と同じような雰囲気がプンプンしてる!
「えー何で? 南だって可愛い女の子紹介してもらいっしょ?」
「そ、それとこれとは話が別だろ!? っていうかおまえ、アイツが本当に魔法使いだと思ってるのか!?」
「可愛い女の子と知り合えるなら、そこらへんはどうでもいいかなーって」
ニヘ、と笑う千石を思い切り殴りたい衝動に駆られた。
コイツはいつもそうだ・・・・・・! 好き勝手にやって、それでも結局はやりたいことを遣り通す。
この世の中にはそういう要領の良いヤツがいるんだって何度思ったことか・・・・・・。
羨ましいわけじゃないぞ! 俺は! 絶対に!!
「・・・・・・あの」
俺が葛藤している間に、驚きから我に返ったらしい壇が、恐る恐るといった感じで声をあげる。
「あなたは、本当に魔法使いなんデスか?」
そう、それが本来なら最初にするべき質問だろ。
俺も答えを待って三上を見れば、ヤツは軽く口元を上げるだけでそれに答えて。
「あぁ、魔女っ子じゃなくて悪いけどな」
そう言うから、本当に三上がさっきの俺たちの会話を聞いていたんだと分かる。
「魔女っ子さんも本当にいるデスか?」
「いるぜ。子供の魔女が魔女っ子だろ?」
「可愛いデスか?」
「好みの問題だな」
三上は、普通の女子が見たら一気に惚れそうな顔を浮かべてそんなことを言う。
あー・・・・・・何だか千石よりも女に人気がありそうだ。
余裕というか、ニヒルな表情が良く似合う。
「まぁ俺が魔法使いかどうかなんて、望みを叶えてやればそれで分かるだろ。で、どんな女がお望みだ?」
聞かれた内容に、俺たちは思わず顔を見合わせてしまった。
しばらく視線でやりとりしあった後で、室町が溜息をつきつつ返事を返す。
「・・・・・・俺は、俺より小柄で可愛い子が好みです」
「おまえ、身長は?」
「165センチですけど」
「可愛いっつーのは主観の問題だけど、そこはどうする?」
「・・・・・・じゃあ、あなたの好みで」
室町はそれだけ言って肩を竦める。
とりあえず答えてはみたものの、三上の魔法使いの真偽についてはまだ疑っている様子だ。
「僕はワイルドな人がいいデス!」
続いて壇が、少し疑ってしまうような好みのタイプを告げる。
案の定、三上はタレ目気味の目を少しだけ細めた。
「ワイルド? 女でか?」
「ハイ! 喧嘩の強い人だともっといいデス!」
「・・・・・・・・・・・・」
マゾかコイツ、と三上が小さく呟いたのは、一番近くにいた俺にしか聞こえなかったと思う。
東方も促されて、戸惑いながらも口を開く。
「・・・・・・俺はスポーツの好きな子がいいな」
「それは魔法界のスポーツでもオッケーか?」
「あぁ、うん」
よく分かっていない様子で、東方が頷く。
三上は、さっきから不機嫌を顔前面に押し出している亜久津にも、いたって普通に声をかけた。
「で、おまえは?」
「・・・・・・・・・真紅のルージュが似合う女」
「俺は塗るよりも乱す方が得意だけどな。おまえもそのクチだろ?」
「当然じゃねーか」
ニヤリと笑い合う三上と亜久津。
ここだけ違う世界が形成されている気がする・・・・・・っ!
三上も俺とあんまり歳が変わらなさそうに見えるのに、何でこんなに言動が大人っぽいんだ!?
魔法使いってみんなこんななのか・・・・・・?
どんどん勝手に進んでいく展開に涙ぐんでいた俺は、三上にかけられた声にすぐ反応できなかった。
「じゃあ、おまえの好み」
「・・・・・・・・・・は?」
「さっきから聞いてるだろ? 好みの女のタイプ」
問答無用で聞かれて、慌てて俺の頭は質問の答えを探し出す。
好みのタイプ、好みのタイプ、好みの女子のタイプ・・・・・・。それは、おそらく。
「え、笑顔が可愛い子・・・・・・かな」
「はいオッケー。じゃあ最後におまえ」
サラッと頷いて三上は千石にも話を向ける。
聞くだけ無駄だ、と俺は思った。
だって千石はきっとこう答えるに決まってる。
「俺? 俺はこの世界の女の子みーんな好みのタイプだよ!」
・・・・・・・・予想とまったく違わない答えに、俺は本気で肩を落とした。泣きそうだ・・・・・・。
そんな俺の心境をよそに、三上はマントの懐から30センチくらいの棒を取り出した。
「身長165センチ以下で、俺基準の『可愛い』、ワイルドで喧嘩の強い、スポーツ好きな、赤のルージュの似合う、笑顔の可愛い女」
条件を列挙して、楽しそうに笑って。
「生憎、俺の知ってるヤツで当てはまるのは一人しかいねぇな」
軽い動作で棒を持ち上げて、呪文のような言葉を囁いて振り下ろす。



「紹介してやるよ、俺の知る限り最高の女を」



そう言った三上はものすごく自信に溢れた表情をしていた。





俺たちの手の中には、一枚の葉書きが残されている。
切手を貼らずともポストに投函できるそれには、『魔法使いについてどう思いますか?』のようなアンケートが記載されていて。
どうもこうも・・・・・・・・・なぁ?
三上の呪文によって現れたのは、確かに室町の要望どおり165センチ以下・・・というか160センチ以下の女の子だった。
黒髪が肩につくくらいの、一般的に見れば美少女とまではいかないけれど、それでも確かに可愛らしい顔をしていた。
何なんだろうな・・・・・・話をしていると、そこらへんの美少女よりもずっと可愛らしく感じてくる。
聡明な喋り方は感じがよくて、彼女の頭の回転の速さを予感させた。
唇をつりあげて微笑む様子は、俺と同年代とは思えないほど挑戦的に色めいていて、それこそ亜久津の言うとおり真紅のルージュも難なく似合いそうな。
・・・・・・乱れた様子さえも、綺麗そうな。
喧嘩は得意だと言って、魔法で部室を全壊にしてみせてくれた。そしてすぐに魔法で直してもくれた。
スポーツはクイディッチとかいう魔法の世界のスポーツが好きらしくて、今度一緒にやろうと誘ってくれた。
笑った顔は文句なく可愛かったし、それ以上に性格が一癖も二癖もありそうで、けれどそれが良い方向で彼女の魅力を輝かせていて。
三上に薦められるままに彼女は喋り、そして名刺を俺たちに渡して去っていった。
手の中に残ったのは、アンケート葉書きと、彼女の名前と連絡先の入った名刺だけで。
名前は確か・・・・・・・・。



「・・・・・・ちゃん、魔女っ子だったんだ・・・・・・・・・」



千石がポツリとした呟きが部室に響いた。



とりあえず三上は俺たちの条件に合った女の子を紹介してくれたけど、一人ってことは俺たちに彼女をめぐって争えとでも言うんだろうか。
俺はそんなことを考えて、手の中の葉書きに溜息をつくのだった。





2004年4月5日