アルバイター魔女っ子(不破&ルドルフ編)
「愛ある限り戦いましょう。命、燃え尽きるまで。魔法使い不破大地。さぁ、願い事を言え。おまえたちの願い事はなんだ? そのために俺を呼んだのだろう?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・な、なんだぁ・・・・・・・?
寮の食堂にいきなり現れたソイツは、どこかで聞き覚えのある台詞を言いながら俺たちのことを一瞥した。
っていうか・・・・・・誰だ、コイツ。聖ルドルフの奴じゃないよな。それもテニス部じゃない。
じゃあ何でこの寮にいるんだ・・・・・・?
誰か説明してくれないかと思って周囲を見回すと、観月さんも赤澤部長もみんながみんなソイツを眺めていた。
「俺の名前は不破大地。ホグワーツ魔法魔術学校日本校グリフィンドール寮所属。今回は魔法界魔法省公認『魔法をマグルの人たちにも理解してもらおう!』協会からの要請によってこの場に参上した。おまえたちの望みを叶えることが俺の使命だ。さぁ、遠慮なく願い事を言え」
「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」
「どうした?願い事があるから俺を呼んだのだろう?」
「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」
不思議そうに、無表情のまま首を傾げるソイツ―――――不破。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っていうか・・・・・・・・・。
この状況(=まったく知らない奴が意味の判らないことを言っている)は、一体何なんだ・・・・・・・・・?
えっと・・・・・・・・・俺たちは何をしてたんだ?
確か今日もスクールで練習を終えて寮に帰ってきたら、ちょうど部活組の赤澤部長や金田と一緒になって。
じゃあ夕飯でも食べるかってことになって食堂に集まった、はず。
今日のメニューはカレーだーね、って柳沢さんが鼻歌を歌っていて。
サラダはシーザーズサラダみたいだね、って木更津さん楽しそうに言って。
バランスの取れたメニューじゃないと食べても仕方ありませんけどね、って観月さんが溜息をついて。
まぁまぁ食べられるだけいいだろ、って赤澤部長がなだめて。
そうですよね、って金田が同意して。
じゃあ呪文でも唱えてみるだーね、って柳沢さんが笑って。
クリーミーマミがいいなぁ、って木更津さんが悪ノリして。
唱えられるものなら唱えてみなさい、って観月さんが呆れたように言って。
パンプル・ピンプルだったか? って赤澤部長が首を傾げて。
パムポップン、だと・・・・・・って金田が続けて。
でもってピンプル・パンプルだーね、って柳沢さんがやっぱり続けて。
それでもう一回パムポップンだよね、って木更津さんが言って。
これで魔法使いが出てきたらアニメになりませんよ、って観月さんが・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
そうだ! それでコイツが現れたんだった!!
「ふむ。ここはおそらく人間界でいう日本国東京都内だと見た。周囲に学生しか見当たらないところを見ると十中八九の確率で寮だな。この場にいる人間がラフな室内着に身を包んで食事を取っていることがその考えをさらに明確化している。ではここは何の寮かということになってくるが、それはおそらく何かしらのスポーツを嗜む者たちの寮であるのだろう。この場にいる者たちは皆それぞれ程よく筋肉がついているが、これは普通に生活していてつくものではなく、特別なメニューをこなしていないとこのような肉体を手に入れることは出来ない。よってこの寮はスポーツ学生のための寮だということになる。次に何のスポーツ寮かといえば、答えは簡単。おそらくテニス部の寮とみて間違いはないだろう。何故なら右腕と左腕で筋肉のつきかたが違うからだ。これは片手を酷使するスポーツをする者に顕著に見られる傾向で、少なくともバスケットやサッカー、野球などではこういうことはない。あぁ、だが野球は野球でもピッチャーなら話は別か。しかしこの場にいる者全員がピッチャーだということは考えにくい。故に片腕を使うスポーツでおそらく中学生に浸透しているものといえばかなりの確率でテニスという答えを導き出すことが出来る。違うか?」
「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」
「違うか?」
何なんだ、コイツは・・・・・・・・・っ!?
「いや、確かにテニス部の寮だけどな・・・・・・」
赤澤部長がしどろもどろになりながらも一応答えを返す。
そうするとコイツ――――――不破はうむ、と一つ満足そうに頷いて。
「それでおまえたちの願いは何だ?」
「願い・・・・・・?」
「願いごとがあったから呪文を唱えたのだろう?」
「呪文・・・・・・?」
「クリーミーマミが俺を呼び出すための呪文だ」
「おまえ、クリーミーマミなのか・・・・・・?」
混乱しまくっている赤澤部長の言葉に、不破は意味不明な雰囲気で首を傾げた。
「俺のどこがクリーミーマミに見える?」
「そ、そうだよな・・・・・・」
赤澤部長はかなり混乱してるらしい。
どうしようかと思って観月さんを見ると、観月さんは何やら手を口元に当てて考え込んでいるみたいだった。
「・・・・・・・・・不破君、と仰いましたね」
「あぁ」
「最初に貴方はご自分を『魔法使い』と仰ってましたが、それはどういう意味なのでしょうか」
「言葉の通りだが」
「つまり、貴方は『魔法使い』なのですね?」
「あぁ」
淡々とした受け答えに食堂がざわっと騒がしくなった。
いや、魔法使いとか言われても・・・・・・。観月さんは観月さんで至って普通に喋ってるし。
「なるほど。『魔法使い』だから、突然この食堂に姿を現すことが出来たというわけですね」
「うむ、そういうことになるな」
「では何故ここに現れたのか理由をお聞きしても?」
赤澤部長は元から色黒なのに、今は真っ白にして床に膝をついている。
金田はそれを慰めているけど、柳沢さんと木更津さんの顔はだんだんと楽しそうに目を輝かせてきた。
何か嫌な予感がする・・・・・・・・・。
「俺がおまえたちに呼ばれたからだ」
「それは我々がクリーミーマミの呪文を唱えたからですか?」
「そうだ」
「ちなみに別の呪文を唱えると?」
「他の魔法使いが出てくる」
ふむ、と観月さんは少し考え込むように前髪を指に絡ませた。これは熟考するときに観月さんがよく見せる仕草。
その隙を見逃さずに柳沢さんと木更津さんが前に出てくる。
「ほん、本当に魔法使いだーね!?」
「あぁ、そうだ」
「その黒のマントの下に着てるのって制服じゃないの?」
「ホグワーツ魔法魔術学校日本校の制服だ」
「魔法使いも学校に通うだーね!?」
「あぁ。マグルで言う中学校就学と同じ年に学校に入り、高校卒業と同じ頃に我々も卒業する」
「マグルって人間のこと?」
「魔法が使えない人間のことだ」
何か・・・・・・・・・馴染んでる?馴染んでる。馴染んでる!
何でだ!? 何で突然現れたのにみんな普通に接することが出来るんだ!?
どう見たって怪しい奴なのに・・・・・・っ!
「それで願い事は何だ? 願い事があるからこそ呪文を唱えたのだろう?」
あぁ、そういえばそんな話だった気が・・・・・・・・・・。
つーか頭イテェ。赤澤部長なんか、もう金田からバファリンもらって飲んでるし。
俺も飲みたい・・・・・・・・・。
「判りました。願い事を言いましょう」
「「「え!?」」」
俺と赤澤部長と金田の声が響いた。
え? っていうか観月さんは信じてるのか!? この不破が侵入者じゃなくて魔法使いだって!?
ふふん、と笑いながら観月さんは言う。
「そこの柳沢をアヒルに変えてください」
「「「「「え!!??」」」」」
今度は食堂中にいた全員の声がハモッて、視線の半分が観月さんに、残りの半分が柳沢さんに注がれる。
あぁ・・・だんだんと柳沢さんの顔色が悪くなっていく・・・・・・。
俺は慌てて観月さんの傍に行くと小声で話しかけた。
「観月さん、いくらなんでもその願い事は・・・・・・」
柳沢さんが可哀想になってくる、と言おうとしたら、観月さんは全部判ってるかのようにチラッと俺を見て。
「まさか裕太君はあの人物が本当に『魔法使い』だと思ってるわけじゃないでしょうね?」
「・・・・・・・・・う」
「あんなの怪しい侵入者以外の何者でもありませんよ。ここで無理な願いを言えば、あの虚言癖の男は叶えられない。そうすれば我々は容赦なくあの男を警察へと突き出せる。だからこれくらいの願いで丁度いいんですよ」
「・・・・・・・・・」
でも、もし本物だったら・・・・・・・。
俺がそう言うより先に、不破はマントの中から木の棒を取り出して柳沢さんに向かって構えた。
「では行くぞ」
ひょっとしてあの棒が杖なのか・・・・・・・・・?
そんなことを考えていたら、不破は相変わらずの無表情で呪文らしきものを唱えて。
「フェラベルト」
・・・・・・・・・ガァ
「では失礼する」
ガァ
俺たちが唇のやけに長いアヒルを見つめている間に、不破は来たときと同じく一瞬でパッといなくなってしまった。
ただ、不破の立っていた場所にはアンケートが印刷されている葉書きが数枚残されていて。
それと、アヒル。
アヒル。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・慎也?」
木更津さんがポツリ、とアヒルを凝視したまま呟くと。
ガァ
食堂に沈黙が舞い降りた。
「うわぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁああああぁぁぁ!!!!????」
「や、やややややややややややや柳沢先輩!!??」
「み、み、み、みみみみみ観月さんっ!! や、やややややや柳沢さんがっ!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうしようか。っていうかアヒルになっても唇は長くなるんだねぇ」
「落ち着いてる場合か! 木更津!!」
「みっ観月さんっ!!!」
大震災でも起こったかのような聖ルドルフテニス部寮で、やっぱりアヒル・・・・・・じゃなくて柳沢さんがガァと鳴いた。
ど、どうしよう・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!!
ガァガァガァ
「えーっとえーっと、マハリクマハリタヤンパラヤンヤンヤン!」
シーン
「パラレルパラレル柳沢よ人間に戻れー!」
シーン
「ペルッコラブリンクルクルリンクル!」
シーン
「ピリカピリララポポリナペーペルト!」
シーン
どんな呪文を唱えてみても魔法使いは不破以降現れてはくれないし、柳沢さんもアヒルのまま戻らない。
あぁ柳沢さんがずっとこのままなんてことになったらダブルス2はどうすればいいんだ・・・・・・・っ!?
赤澤部長はもう退部届けを書き始めてるし、金田は保護者の電話番号を前に固まってるし・・・・・・・・・。
「もうあらかた呪文は言い尽くしましたね・・・・・・」
心なしか観月さんの顔色が悪い気がする。
最初はクスクス笑ってた木更津さんも、今は結構真剣な顔つきになってきていて。
「テクマクマヤコン・テクマクマヤコン、慎也を元に戻して・・・・・・・・・って、やっぱりダメみたいだね」
「この際、魔法使いだろうが悪魔だろうが関係ありませんよ」
「じゃあ魔方陣でも書こうか」
「いえ、必要ありませんから」
木更津さんでも観月さんでもない声がどんよりと沈んでいた食堂に響いて―――。
「「「「「!!??」」」」」
まさか、と思って振り向けば、さっき不破が現れたのと同じ場所に、やっぱり不破と同じような格好をしている女の子がいた。
手に持ってるのは、さっき不破が柳沢さんをアヒルに変えたのと同じような木の棒で。
「よっばれて・とっびでて・パンプリーン♪ ・・・・・・・・・って、もういいですよね。話は不破から聞いてるんで」
「・・・・・・・・・ということは」
「はい、不破と同じく魔法界魔法省公認『魔法をマグルの人たちにも理解してもらおう!』協会から派遣されて来ました、と申します」
「魔法使いですね?」
「魔女っ子です」
魔法使いと魔女っ子がどこが違うんだろう、なんてことを考えていたら、女の子―――さんは苦笑しながら言った。
「不破のこと、悪く思わないでやって下さいね。不破もただ単に願いを叶えただけなんで。まぁそこまでの過程が親切だったか不親切だったかと言われれば何も言えないんですけど」
「・・・・・・・・・いえ」
「今回の願い事は『こちらのアヒルさんを元の人間に戻す』ということでよろしいでしょうか?」
その言葉に俺たちは一も二もなく頷いて。
さんは楽しそうに笑って杖を柳沢さんに向ける。
あ・・・・・・・・・この、人。少し可愛いかもしれない。
少しだけイタズラっぽい瞳で柳沢さんを見ながら、さんは呪文を唱えて。
「フォモルパス・チャーム」
アヒルが消えて人間の柳沢さんが戻ったとき、やっぱりさんはいなくてアンケート葉書きだけが残っていた。
「ガァ」
柳沢さんが鳴いた。
2003年9月28日