スタートの掛け声と共にステラが舞った。宙高く飛んで、スカートの裾を大胆に散らせて、相手の脳天にエア・トレックを踵から叩きつける。
うっわーミニスカの下にスパッツ履かせといてよかった。でもってエア・トレックに威力を半減させるクッション材を入れといてよかった。相手さんもヘルメット被っててくれてありがとう!
シャニもだけど、っていうか全員、本気でやったら一撃で相手を再起不能に出来ちゃうもんねぇ。やっぱ元軍人の強みかな。
シャニが肉食動物の笑みで回し蹴りをお見舞いしてる。エア・トレックの加速で威力増? その間にオルガとクロトは無難にディスクをパスで回して、ハイ得点。
「決まりだな。こいつらは今のうちにぶっ潰す」
「えー止めましょうよ。これでも一般人には危害を加えない善良なライダーなんですから」
「うるせぇ。てめぇもぶち抜くぞ」
カチャッという音と共に向けられたゴム弾の銃。いつから日本警察はこんなに楽しくなったんですか。
教えて下さいよ、ねぇ海人さん?
13.魔女っ子、鰐と飲み交わす
出かけに零に捕まって、どうにかこうにかなだめすかして、遅ればせながらバトル会場めがけて走っていると、何だかやけに派手なお兄さんと出会ってしまった。
さらさらロングストレートに凶悪系雰囲気の美形さん。へそピアスが似合いすぎてセクシーなのはどうしよう。この人、本気で警察ですか? 猥雑罪の見本品じゃないですか?
「うっわ、ステラめっちゃ絶好調。これは帰ったらご褒美あげないと」
「確かに今の一蹴りで相手の鎖骨は完全にイッたな。褒美って何だ? 女同士でベッド・インか?」
「残念、女同士でバス・インです。アヒル付き泡風呂を所望されてます」
「あっちの男は?」
「クロトはキスが好きですよ。シャニは一日抱っこ権かな。オルガはたぶん何にも望みません。なのでこっちから選択してプレゼントです」
本とか美味しい食事とか、昼間に日向で一緒にお昼寝権とか。そう言ったら派手お兄さんこと鰐島海人さんは鼻で笑われた。それが似合うからいっそ見事だよ。うーん、咢君とはまた違ったジャンルのお兄さんだね。
放られたビールの缶を受け取ってパソコン画面に視線を戻す。あ、得点が二桁目。
つーか海人さん、外見10代の私にビールを渡さないで下さい。飲んだら補導されるのかなぁ。でも勧められたら頂くのが大人の付き合い。ここはおとなしく乾杯しとこ。海人さんは派手好きだし、こんなセコイ手は使わないでしょう。
「おい」
「はい」
「てめぇは何でエア・トレックなんかやってんだ」
海人さんは邂逅一秒目が合った瞬間、私を『月下の魔女』だと見抜いた。こういうところは警察にぴったりな人だと思うよ。
まぁそのままトレーラーに招かれて、今はこうして自分のチームのバドルを肴に酒を飲んでるわけですが。
「そりゃあ楽しいからですよ」
「その言葉、本気だろうな?」
「本気ですよ。でもってやるからにはトップを狙うのが当然だろうと思いまして」
なので特Aクラス目指して邁進中です。そう述べる私を海人さんはじっと睨みつけている。画面の中で、シャニが最後の一人を地に伏せた。
「てめぇが『空の王』を決めるバトルに参戦しやがったら、そのときは容赦なくパクるぜ、クレイジー・シスター?」
「残念ながら神様は信じていないので。純粋な能力者としての魔女ですよ。王冠にも興味ないんでご心配なく」
むしろ興味があるのはトリックをいかに魅力的に披露するかなんで。
そう言ったら、海人さんは口角を吊り上げて笑った。あぁ、やっぱり咢君と似てるかも? 血縁ってのは伊達じゃないね。
つまりは好みの美形さんなんで、伸びてくる手も拒みません。
「・・・・・・おまえ、本当は何歳だ?」
さらりと髪をすかれても、うろたえないくらいには年食ってますよ。そんな答えを込めて、にっこり微笑を返してみた。
画面の中ではクロトがピースを決めている。
のんびり警官さんと過ごした夜、我がチーム『スリザリン』はBランクへと昇進した。
会場近くまで送ってくれた。いい人だ。
2006年8月19日