宇童さんやシムカちゃんから得ていた事前情報によると。
鰐島さんちの亜紀人君。二重人格の可愛い子ちゃん。
眼帯が右目にあるときは、主人格の亜紀人君。小動物系、女の子もびっくりの愛らしさ。
眼帯が左目にあるときは、もう一人の咢君。攻撃性過多の美人さんは、元『牙の王』でいらっしゃるとか。
あー・・・・・・なるほど、何となく現状を理解しました。
つまり咢君は自分が亜紀人君を蝕まないうちに、どうにかしたいってことでオッケー?





11.魔女っ子、鮫に約束する





んー・・・・・・うーん・・・・・・えー・・・・・・。
「ちょっといいですか? 咢君」
このめっちゃ強く掴まれている腕から彼の焦りが見えなくもないけれど、相互理解は大切だしね。
まぁとりあえず座って、じっくりお話することにしましょ?
「咢君の希望としては、亜紀人君の中から咢君の人格を取り出して、別の物に移したいってことでオッケー?」
「あぁ。・・・・・・出来るのか? 出来ねぇのか?」
「せっかちだと女性に嫌われますよ。単純に結論から言えば、移し変えは可能です」
ぱぁっと咢君が輝いた。うわ可愛い。咢君でこれなら亜紀人君だとどうなるんだろ。いやでも日頃仏頂面の子がたまに笑うからこそ可愛いのはマニアの基本。
「でもですねぇ、そうなると器が問題になってくるんですよ。さすがに人間一人を魔法で作り出すのは法律に違反しちゃうんで」
ちなみに作るとピーターさんやらヴォル様やらと同じ罪状になっちゃうわけで。さすがにそれはお断りしたい。人生まだまだ楽しみたいし。
「私は今まで、とりあえずみんな動物にしてきました。それだと法律にもギリギリ引っ掛からないですし、ふわふわもこもこで可愛いですし」
でも咢君は鮫なんだよねぇ。魚類は抱きしめられないからどうしよう。
「動物も、時間とエネルギーの蓄積によって人間になることが可能です。なので長期的展望で臨んでもらうことになるんですけど」
どうします? って首を傾げたら、咢君は難しい顔になった。
「・・・・・・亜紀人に害はないんだな?」
「まぁ、個体のベーシックは亜紀人君みたいですし、今の亜紀人君のままかと」
「・・・・・・なら、」
言葉を続けかけて、何に気づいたのか咢君は口を閉ざした。
悲痛な顔も綺麗だけど、やっぱり美人さんには笑ってほしいと思うんですが。
「・・・・・・ダメだ。今、俺だけ逃げるわけにはいかねぇ。俺は亜紀人に何も残してやれてねぇ」
「亜紀人君の望むものが咢君の考えるものと同じかどうかは微妙ですけどねぇ。じゃあ予約チケットにしましょうか。咢君が分裂したくなったら、私を呼んで下さい」
その頃までには動物を何にするかも決めておきますし、もしかしたら研究も進んで人型に移し変えることも可能になってるかもしれないし。
ずっと掴まれっぱなしだった腕をそっと解いて、エア・トレックを稼働させて立ち上がる。
うん、やっぱりどこの世界でも人は頑張って生きてるね。
途方にくれたような顔をしてる咢君に、笑顔を向けて。
「だけど、お代はしっかり頂きますから。自分にとって何が一番大切なのか、それが分かってから呼んで下さいね?」
見開かれた右目に、微笑を一つ。だってこれでも魔女っ子ですから。メリットもなしに腕を奮うなんて、個人的モットーに反しちゃうんです。
咢君は可愛いからおまけしちゃうかもだけど、まぁ下僕になるくらいの心づもりで来て下さいな。
そう言ったら咢君に「ファック!」って言われた。口の悪い可愛い子ちゃんめ。
左目の眼帯に指先をあてて、呪文を唱える。

「咢君と亜紀人君、可愛い可愛い二人の声が私に助けを求めたら、この魔女っ子、必ずや貴方を助けに参りましょう」

半ば押し付けに近い契約かもだけど、背中を押す誰かの存在も必要だしね。
っていうか宇童さん、もしかしてこういうことを見越して、私に咢君&亜紀人君を紹介しました? だとしたら食えないお人だなぁ。
でもまぁいいか、結果として美少年とお知り合いになれたわけだし。
後は二人がどんな結論に至るのか。鮫のぬいぐるみでも準備して、のんびり待つことに致しましょ。





アドレスを交換した結果、亜紀人君とメル友になったらしいです。
2006年7月10日