エア・トレックはなかなかに奥が深い。というか楽しい。
トリックを決めた瞬間の快感が何とも言えないね。それにライダーさんは美形な確率が高そうだし?
「といわけで、こんばんは。宇童さんのご紹介を受けてやってきました、です」
ようやく見つけた少年に声をかけたら、彼は鋭い右目で振り向いて下さった。
うっわ! かなりの可愛い子ちゃんだ! 宇童さん、紹介してくれてありがとう! 彼はかなりの美少年だよ!

たとえ足元に血だるまの敵を踏みつけていたとしてもね!





10.魔女っ子、鮫に会いに行く





「眼帯が左目にあるので、今は咢君? 噂通りの物騒な美人さんで嬉しい限りです」
「あぁ? 誰だてめぇは」
「『ベヒーモス』の宇童さんに美少年を紹介して頂く約束をしまして、教えられた通りやってきました美形スキーなライダーです」
一応これまでの経緯を簡単に説明できる台詞にしてみたんだけど、咢君は眉間に激しく皺を寄せた。あぁ、美人なのにもったいない!
鵺君といい何だろなぁ。この世界の美少年は、ストレス性胃炎でも抱えてるのか?
「てめぇ・・・・・・どこのチームだ」
「『スリザリン』です。今のところランクはCクラスですね。来週はBクラスのチームとバトルを組んだんで、よろしければ見に来て下さい」
「ファック! 『月下の魔女』か」
「ご存じでしたか。可愛い子ちゃんに知られてるなんて光栄の至り」
何だか最近ではずいぶんと名も売れてるみたい。しかも上につく枕言葉が『渡り鳥お気に入り』とか『スピット・ファイアご推薦』とか『ベヒーモスが認めた』とからしく、あらあら見事な宣伝文句。
なのでバトルの申し込みも多いったらないよ・・・。そのうち会場でパフォーマンスでもやろうかな。ジャケット脱いで「勝者は私よ」みたいな?
「それにしても咢君」
「あぁ?」
「私としては可愛いと評判の亜紀人君にも会ってみたいんですが、交代してくれる気はございません?」
「ファック! 誰がテメェなんかの言うことを聞くかよ」
「うっわーさすが宇童さん、性格に難ありお楽しみ可のリクエストにも答えて下さってるよ。じゃあ遠慮なく実力行使しましょうか。咢君、別の入れ物に移し変えちゃいますけどいいですね?」
何にしようかなー。動物は今までいろいろやってきたけど、やっぱ咢君は鮫かな。あぁでもそれじゃ抱っこが出来ないよ。
ここは一つ鮫のぬいぐるみにでもしようかな。でもそれじゃ芸がない。
「・・・・・・・・・テメェ・・・」
「はい?」
答えてみれば咢君は不思議な表情をしていらっしゃる。
「・・・・・・出来るのか? そんなことが・・・」
「はい、出来ますよ? これでも『月下の魔女』は伊達じゃありませんから」
魔女っ子は本物なんですよねぇ。証拠ついでに、いつまでも踏まれている下僕チックなライダーさんたちの怪我を治して、縄で縛ってみせた。
あ、咢君の右目が大きく見開かれてる。そんな表情も美人さん。だからこそ正反対らしい亜紀人君も見てみたいわけで。
のんきに動物候補なんて考えてたら、ものすごい力で腕を引かれた。
勢いのまま振り向いてみたら、何だか泣きそうな顔の咢君。
「頼む・・・・・・っ!」
必死さが溢れる声に、オルガたちを思い出した。

「頼む! 俺を・・・っ・・・亜紀人を救ってくれ!」

あぁ、魔女っ子アルバイターはずいぶんと前に引退したはずなのに。
何だか懐かしい感じがして、思わず過去を振り返ってしまったよ。あぁ、あの頃は若かった。





まぁ、予想通りに。
2006年6月18日