メロンパンダに戻ったシャニは、私の足に引っ付いてくる。
ふわふわむぎゅむぎゅで可愛いんだけど、今はちょっと微妙かも。何しろ返り血で半分は赤く染まってるし。
やっぱりチームウェアは全身黒で正解だったよ。これが白だった日には漂白剤をダースで買っても追いつかないね。
「一応お聞きしますが、美作さん、これだけお美しいんですから彼氏の一人や二人や百人は当然、ファーストキスはもうお済みですよね?」
シャニを頭に乗せて尋ねたら、こんなときに何言ってんだって顔で『ベヒーモス』の皆さんに睨まれた。
うん、でもやっぱ一応聞いとくべきかなぁと思ったわけで。まぁ初めてでも私的にはとても美味しいから良いんだけれど。
フードから試験管を一本探し出して、香りを嗅いで中身を確認。うん、これで良し。
「じゃあちょっと失礼します」
左さんに退いて頂き、美作さんの肩もとに膝をついた。
試験管の中身は見事なまでの赤。あー・・・トマトジュース味にしといて良かった。
そう思いながら薬をあおって、私はそのまま美作さんに口づけた。
08.魔女っ子、レガリアを賭けられる
最後のバトルは、私VS宇童さん。実際は私たちの二勝で勝負はついてるんだけど、せっかくの『牙の王』とやれる機会だしね。もったいないし逃しません。
実際に入ってみたキューブは、確かに四角四面で真っ白な空間。どこにカメラがあるんだろう。気配からしてあっちかな?
とりあえずピースしとこう。見てますかーシムカちゃん。
「・・・・・・君は、本当に魔女なんだな」
ギャラリーにサービスしてると、宇童さんに話し掛けられた。
この人も美形だなぁ。明るく笑ったら爽やかボーイで売れると思うんだけどなぁ。
「はい、本物の魔女っ子です。あ、でもエア・トレックには何の魔法も使ってませんし、バトルでも一切使いませんから」
郷にいっては郷に従え。その世界のルールを守るからこそ、楽しむことが出来るわけだし?
無粋な真似はいたしません。あー・・・何か急に柾輝に会いたくなってきた。近々デートでも申し込もう。
そんなことを考えてたら、宇童さんの思考も一回転してたらしい。
「提案がある」
「はい、何でしょう」
「このパーツ・ウォウでは部品と部品を賭けていたが、決着はすでに着いた。ならば俺と君のバトルでは、違うものを賭けたい」
「何がお望みですか?」
「俺が勝ったら―――蓮を診てくれ」
れん。廉。練? ニュアンスからして対象物、前後からして「みる」は「診る」かな? さっき私が美作さんを治したのを、宇童さんは食い入るように見ていたし。
うーん、私としてはタダで見ても構わないんだけど、魔法を派手に使うのは避けた方がいいだろうし。
「その代わり、君が勝ったら、俺のレガリアを譲ろう」
わーお! ちょっとスクリーンの向こうの皆さん、聞きました? 『牙の王』の新旧交代するときが来ましたよ! 新たな王の誕生ですよ! っていうか個人的には女王様になりたいんですが。
「せっかくのお申し出ですけど、その賭けに乗る私のメリットが小さすぎます。私は確かにレガリアに興味はありますが、この不破印のエア・トレックを脱ぐ気はないですし。もうちょっと色をつけてもらえませんか?」
正直なところを告げてみると、宇童さんは眉を動かした。
「まず一つは、このバトルで宇童さんの『牙のレガリア』を見せて下さい」
それと、もう一つ。実はこっちが本命かも?
「美少年か美少女、紹介して下さい。出来れば性格に難があって可愛くていじりがいのある子がいいんですけど」
宇童さんはさらに眉をしかめたけど、商談は成立した。
ってわけで、いよいよバトル・スタート!
魔女っ子は基本的にいつでも真面目で、いつでも遊び心満載です。
2006年5月28日