あのオレンジ色のウサギのクロトが、ちゃんの杖一振りで人間に変身した。
エメラルドグリーンのパンダもそう。二匹とも、私と同じとしくらいの少年に。
これも魔法? 驚きが治まらないうちに始まったバトルに。
私はもっと、どきどきした。





07.渡り鳥、恐れを抱く





四面が囲まれた密室空間のキューブ。
そこにたどり着いた『サイクロプス・ハンマー』の坂東君と、クロト君。
坂東君が拳を握った瞬間、クロト君のオレンジ色の髪が揺れて。
次の瞬間、勝負はついていた。
「うそ・・・っ!」
誰かの声が聞こえるけど、スクリーンに映る現実は変わらない。
きょろきょろとカメラを探してピースをしてみせたのは、オレンジ色の彼だった。
「・・・・・・ハンマーの攻撃よりも先に、懐にもぐりこんでカウンターを食らわせる。言うのは簡単だが、相当のスピードと度胸がなきゃ出来ねぇ」
鵺君の声がどこか苦々しい。逆にスピ君はゆっくりと息を吐き出して、困ったように頭を掻いた。
「すごいね・・・・・・スピードもそうだけど、一撃で相手を倒すパワーも想像以上だ」
「おい、渡り鳥。まさか本当に『魔法』とか使ってんじゃねぇだろうな」
鵺君が聞いてくるけど、私は首を横に振る。だってちゃんは言ってたもの。
『その世界にはその世界のルールがある』んだって。



満面の笑顔で戻ってきたクロト君は、ちゃんに頭を撫でられて嬉しそう。でもって鵺君は不機嫌に拍車をかけてる。
あらー・・・・・・うん、でも面白いかも。鵺君ももうお年頃だもんね。
それに鵺君とちゃんが付き合ったら、『ジェネシス』と『スリザリン』も関係が深くなるし、私としては大賛成。
「じゃあ次はシャニ。いってらっしゃい」
今度はシャニ君。エメラルドグリーンのパンダだった子が見送られる。
こくんと頷く彼は、何だか子供みたい。でもどことなく危険な雰囲気を感じる。
ゴーゴン・シェルの後ろについて下水道へと消えていく彼が見えなくなった頃、ちゃんは宇童君に話し掛けた。
「申し訳ないんですけど、シャニは一度切れると止まらないタイプなんで」
にこっと可愛い笑顔でとんでもないことを言う。
「美作さんを再起不能になさりたくなかったら、頃合を見計らってギブアップ宣言なさって下さいね?」
クロト君のバトルの前だったらみんな聞きもしない台詞だろうに、今はそれが本当のことだって分かる。
巨大スクリーンには、ゴーゴン・シェルとシャニ君の映像が映し出された。



今度は、一瞬の勝負じゃなかった。
でも、バトルは酷く一方的で、ゴーゴン・シェルはお得意のダンスを披露することも出来ず、ティーシャツすら脱ぐこともなく。
容赦のない一撃は、アギト君の『牙』にも似てる。皮膚が裂けて、肉が見えて、鮮血が飛ぶ。
「涼・・・・・・っ!」
シャニ君のエア・トレックが、容赦なく彼女を襲う。女だからって油断も手加減も何もない。目の前の相手をひたすらに切り刻んでく。
一つ一つのトリックはとても綺麗。だけど恐ろしいほどに舞う血飛沫に、ついに宇童君がストップをかけた。
「うちの負けだ。頼む、彼を止めてくれ」
「オッケーです」
了承したちゃんが手を振ると、画面の中のシャニ君がぽんっとメロンパンダに変わった。
真っ赤なキューブの中で笑う彼に、ぞっとしてしまった。





フラグを立ててみる。
2006年5月25日