「ねぇ、ちゃん。『ベヒーモス』とバトルしてみない?」
「ごめん、シムカちゃん。さすがにそれは無理」
単語集はないけどそれなりの情報は得ましたよ。『ベヒーモス』って言ったら構成員が日本最多のDクラス最強チームじゃないですか。っていうかAやBを支配下に置いてる時点でDクラスって何って感じだけど。
さくっと拒否したのに、シムカちゃんはさらりと笑う。
「大丈夫、『ベヒーモス』は今回は最初っから負けるために戦うから」
・・・・・・あぁ、そういや前に聞いたことがあるかも。『ベヒーモス』は同クラスの相手には三連勝しないと勝ちあがれないシステムを使って、ずっとDクラスに居座ってるって。
つまり今回のバトルは八百長? じゃあ受けてみようかなー。
05.魔女っ子、『ベヒーモス』とバトルする
というわけで、シムカちゃんに連行されてやってきました下水処理場。アンダーコロッセオ?
Dクラスの勝負方法は『キューブ』らしく、四角い密室での潰し合い。いたってシンプルだけど、これってただのガチンコ勝負だよねぇ。どうやってエア・トレックで魅せるかが個人的なポイントかな。
「やぁ、渡り鳥」
スタンバイしていた五人の中央、戦隊物で言えばレッドの位置に当たる場所に立っていたお兄さんが挨拶する。
うーん・・・・・・爽やかというか、どこか暗いというか、切羽詰ってる感じというか。
この人が『ベヒーモス』のリーダーの宇童アキラさんかな。レッドだし。
「こんにちは、宇童君。今回はバトルを受けてくれてありがとう」
「いや、どのみち負けるつもりだから相手がDクラスなら、それ以外問題はない」
どうやら『ベヒーモス』全体が負けることを知っているらしくて、観客もあんまりいない。っていうか全然いない。私としてはラッキーだけど、でもちょっとハイテンションなバトルもやってみたかったなぁ。
「紹介するね。こちらが『スリザリン』のリーダー、ちゃん」
「はじめまして。どうぞよろしくお願いします」
「はじめまして。こちらこそよろしく」
宇童さんは美形だし物腰も丁寧なんだけど、ついてくる暗いオーラはどうにかならないものか。まぁ背負ってる事情によるものだろうから、余計なことは言えないけどさ。
「で、どうする? 本来なら5対5が基本だけど、そっちはその子しかいないんだろう? それとも渡り鳥が助っ人として入るのか?」
「あ、そのことなんですけど」
小さく挙手して、注目を集めてみる。それにしても『ベヒーモス』の紅一点、美作涼さんは美人だね。この人とバトルしてみたいなぁ。
「今日は、私の他にも二人来てます。なので3対3にしてもらえないでしょうか」
「わぁっ! 私、ちゃんの仲間に会うの初めて! 見せて見せて」
「えーと、それはまぁ後で。どうでしょう、宇童さん」
喜ぶシムカちゃんは可愛いけど置いといて、宇童さんはあっさりと私の願いを聞き入れてくれた。
「分かった。じゃあこちらはミツルと涼と安良が出る」
「え。個人的には八百長だし、是非とも宇童さんと手合わせしてみたかったんですけど」
「・・・・・・君が?」
一応本音を言ったのに、『ベヒーモス』の皆さんは唖然としていらっしゃる。
いやでもせっかくの機会だし、チャンスは逃さないのがモットーですし。
「・・・・・・いいだろう。安良に代わって俺が出よう」
「ありがとうございます」
一礼してから、着ているジャケットのフードに手を突っ込む。えーとえーと・・・あ、いた。
取り出したるはオレンジ色のウサギとエメラルドグリーンのメロンパンダ。色彩は天然です。無添加自然食材です。
皆さんがきょとんとしてる中で、ポケットから取り出した杖を振るう。
さーて来て見てびっくり、お立会い。
「『スリザリン』のメンバー、クロトとシャニです。どうぞよろしく」
現れた少年二人に、誰もが驚愕の表情をしてる。
いやでも私、これでも『月下の魔女』ですから。
すみません、大好きなんです・・・!
2006年5月22日