閑話(その頃、ホグワーツ本校にて)
「――――――あ」
牌を捨てた直後、思わず僕は呟いてしまった。
角隣でそれを拾ったハリー・ポッターが、可愛さの欠片もない顔で僕を見てきて。
「何さ、リドル。待ったは無しだよ」
「まさか。拾いたければ拾いなよ。それでも僕の勝ちには変わりないだろうけどね」
「フン。悪いが僕の勝ちだ」
ハリー・ポッターの捨てた牌を見て、ドラコ・マルフォイが生意気にも「ロン」と言った。
思わずその手元を見れば綺麗に並べられた牌が彼のあがりを示していて。
「ドラで1000点か。どうしてそんな小さい手であがるんだ、君たちマルフォイ親子は」
「父上は関係ないだろう。とにかく僕の勝ちだ」
得意げに笑う顔が憎たらしい。以前に暇つぶしに相手をさせたときのルシウス・マルフォイの顔が甦ってくる。
今度ヴォルデモートの僕に会ったらマルフォイを苛めるように言っておこう。
まったくもって気に入らない。
牌をジャラジャラと混ぜて並べながら、僕と同じように不機嫌になっているハリー・ポッターが振り返った。
「それで、何かあったわけ?」
「何かって?」
「君が今言ったじゃないか。『あ』って」
もうボケちゃったの? あぁでもリドルは実際には60歳を越えてるんだし、ボケても不思議じゃないか。
ハリー・ポッターがそんなことを言って笑っている。
決めた。やっぱり君はヴォルデモートな僕の生贄だ。
「別に、大したことじゃないよ」
そう言って僕も自分の山を築き始める。次こそは勝たないと賞品が手に入らないし。
そのためにはちょっとした揺さぶりもかけておかないとね。
「うん、君たちには関係ないこと」
ハリー・ポッターとドラコ・マルフォイの二人に向かって。
僕は何気ない顔で、内心では満面の笑みを浮かべながら言ってやった。
「が、またちょっと異世界に行っちゃっただけだからね」
がホグワーツ本校に留学してきて僕と出会い、一緒に秘密の部屋を改装してからというものの。
何故かこの部屋にはハリー・ポッターやドラコ・マルフォイが出入りするようになった。
ハリー・ポッターはまだいいよ。ヴォルデモートな僕の力の一部が入っているということでパーセルマウスなのも納得できるし。
だけど何でドラコ・マルフォイまで来るんだ。
まぁ、がこの部屋への来方を教えてしまったからだけどね。
うん、だけどだからこそ納得したくもない。がわざわざコイツに教えただなんて。
まぁそんなわけで、僕らは時々この部屋でいろいろと暇を潰したりしている。
がいたときは四人で囲んでいた雀卓も、今は一人欠けて変則三人麻雀になってしまっているけれど。
ゲームに関してはが鬼のように強いからね・・・・・・。
あれには流石の僕も勝てないよ。だけどそれでこそ、。僕の生涯の伴侶。
あ、ドラコ・マルフォイ。その七萬をもらうよ。
「・・・・・・・・・どういうことだ」
「誰がゲーム中に自分の手の内を話すとでも?」
「そういうことじゃない。に何があったんだと聞いてるんだ」
その言葉に思わず笑ってしまって。
こちらを見てくるドラコ・マルフォイとハリー・ポッターに唇を吊り上げて、僕は言う。
「―――――――――教えると思う?」
この僕が、君たちなんかに。
は僕の半身。
記憶となった今、死ぬことのない僕の家族。
同じ力を有し、同じ運命を辿る。
僕が許容し、保護してもいいと思う唯一の存在。
大切な。
大切な。
だからこそ誰にも渡さない。
「心配なんかしなくても」
牌を山から一つ摘んで、僕は続ける。
あ、この牌いらない。捨てちゃおう。
「は力もあるし指輪も持っているから、最悪の展開にはならないよ」
「最悪の展開じゃなくても、傷つくことさえ僕は嫌だよ」
「言うね、ハリー・ポッター」
小さく笑ってみれば、ドラコ・マルフォイも同じようなことを言いたそうな顔をしている。
さすが。これだけの男を手の平で転がすなんて。
僕を魅了しただけのことはあるよね。これは家族の贔屓目を抜きにしても、見事だ。
「どのみに日本校の裏通路から異世界に行けるのはだけだ。僕たちには何も出来ない」
「・・・・・・それはそうだけど」
「というわけで」
カン、と取った牌をぶつけて僕は笑った。
「九連宝燈。僕の勝ち!」
――――――よし、これでの一日デート権は僕のものだ。
のことで頭がいっぱいだったのか、ハリー・ポッターとドラコ・マルフォイは僕の勝利宣言に、ようやく自分たちがゲームの最中だったということを思い出したようだ。
「・・・・・・っリドル、今のは無し! 卑怯だ!」
「ゲーム中に集中力をなくした君たちがいけないんだよ」
「そうさせたのは貴様だろう! もう一回だ!」
「諦めの悪い男は嫌われるよ」
に、とわざとらしくつけてやれば、二人はぐっと言葉に詰まる。
ふふん、これで僕の勝ち。
渋る二人を無視して牌の山を崩して。
そして遠くの地で異世界へと行ってしまった半身を思う。
君に何かあったら僕はこの世を消すよ。
そうならないためにも早く帰っておいで。
・・・・・・・・・僕の唯一の人、。
2004年3月20日