閑話(その頃、ホグワーツ日本校にて)





談話室に戻ってきて、直樹や五助の勉強を見てた頃。
「翼、客」
秋が入り口の絵画の中から言ってきた。
本当に用件しか告げないよね、秋って。
有能で頭の回転の速いレイブンクロー生だからこそ、この門番でもやっていけてるんだと思うよ。
まぁ秋なら例えどこの寮に行っても同じようにするんだろうけどね。
あーあぁ、まったく能力の備わった自己中ってのは手に負えないよ。
「客って誰?」
言ってから自分でもバカな質問したなって思った。
秋は人の顔と名前を全然覚えないし。無駄な労力を使っちゃったよ。
「たぶん、ハッフルパフ」
それだけ覚えてるだけでも秋にしては上出来、なんて思ってたら、次に予想外のことを言われて。
僕は思わず立ち上がりかけた途中で固まってしまった。

が、まだ来てないんだってさ」



ちょっとした呪文を言うと、ホグワーツにしては珍しい動かない絵画が道を作り出した。
が寮を出てからもう一時間だぜ」
ついてきた柾輝が狭い裏道に踏み込んで言う。
ったくもよくこんな道を開拓したものだよ。作った校長も校長だけどさ。
の思考回路からいって、ハッフルパフが遠いからこの道を通っただろうね。まぁ、の思考は一般人と一緒にするべきじゃないと思うけど」
「違いねぇ」
「だけど勝手にいなくなるほど常識知らずでもない。ってことは―――・・・・・・」
左右を注意して見ながら進めば、案の定。
「ホラ、あった」
狭い廊下の壁の、ご丁寧にも目線と同じ高さ。
そこに一枚の紙が魔法によって貼り付けられてる。
は本当にこういう他愛ない生活に密着した魔法が得意だよね。まぁ何でも出来るんだけどさ。
特に攻撃魔法なんてやらせたらホグワーツでも最強クラスだし、魔法薬学も得意だから回復系もバッチリだし。
それが全力で発揮されないことを祈るよ。本気で。
「『何だか楽しそうなブロックを見つけたので、ちょっと出かけてきます。テストには必ず戻るので、それまでどうかよろしく。』」
柾輝が紙をはがして、書いてある内容を読み上げる。
「・・・・・・・・・またか」
「まただね。ったく、これだからからは目が離せないんだよ」
放っておけばどこの世界だか分からないけど勝手にいなくなって勝手に戻ってくるし。
その間のフォローをするのは誰だと思ってんの? 監督生の俺になら迷惑かけてもいいって思ってんじゃないの?
・・・・・・まったく、これだから。
「とか何とか言って顔が笑ってるぜ、翼」
「うるさいよ、柾輝」
ニヤニヤ笑ってやがる手からの置手紙を奪う。
さっさと裏道を抜けるべく俺は歩き出した。
――――――――――それにしても。



と共に歩けば七色に輝くブロックも、俺や柾輝だけじゃ光の欠片さえ放ちはしない。



「・・・・・・無事に帰ってくるといいけどな」
柾輝の言葉に、今度は頷いて返した。
のことだから、要領よく過ごして、適当に遊んで、それで帰ってくると思うけど。
あぁでもだしね。一般人と同じ風に考えちゃダメか。
でもとにかく。

「さっさと帰ってきなよね」

傷なんて身体にも心にも一つも負わずに。
フォローはしといてやるし、その分の見返りもちょっとは格安にしといてやるから。
置手紙をもう一度読み返して、俺はどうしようもない後輩に溜息を一つ吐いた。





2004年3月12日