15:鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス
夕食後のお風呂タイムでは有希や麻衣子に散々この頬の腫れについて問い詰められてしまった。
まぁ軽く流しておいたんだけど。
その後で保健室によって湿布をもらおうと思ったら、これまた養護教諭がえっらい美人さん!
水野孝子さん。図書館の百合子先生のお姉さんでグリフィンドールの水野君の叔母さんにあたるんだって。
その孝子先生にグイッと顔を向けさせられた挙句、「女の子の顔を殴るなんて最低な男ね!」って言われちゃいましたよ。
ゴメン、郭君。君、今後出来るだけ保健室に来ないほうがいいかもしれない。
でも湿布の上から「早く治るように」ってキスしてもらっちゃった。
あははー。美人さんにキスしてもらえるなんて怪我してラッキー。
ありがとう、郭君。
「はじめまして〜。君がさんですね〜」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何でこの人がここにいるんですか。
緑と銀色のネクタイにサロンパスが必要になりそうな首の角度。細身の体。
―――――――――――――スリザリンの監督生、須釜寿樹。
ハァ・・・やっと自陣でのんびり出来ると思ったのに、この人のお相手しなきゃいけないんですか。
でもここはレイブンクローの談話室だからみんないるし。
翼さんもいるから、もし何かあったら助けてもらうことにしよう。(助けてくれるかは話が別だけど)
「スリザリンの須釜さんですよね? 何か御用ですか?」
いや、用なんて一つっきゃないんだけど。
リベンジだったらどうしようかねぇ。ま、それはないと思うけど。
レイブンクローの談話室じゃ須釜さんにとってかなり分が悪いし、それが分からないような人じゃないと思うから。
「そうです、須釜寿樹です〜。スリザリンの監督生やってます。どうぞよろしく〜」
語尾の延ばし加減が気にならないでもないけれど、この人の本性を隠す分にはいいんじゃないの? まぁ一般人にしか通用しないだろうけど。
「このたびはうちの寮生がさんに無礼を働いたみたいで〜本当にすみません」
「いえ、誰でも気が立っていることってありますから。お気になさらないで下さい」
ちょっとそこのソファーで「が挑発したんじゃん」とか言ってるのは誰?
光宏め。後で思いっきりいじめてやる。(本当のことだけど)
「そう言ってもらえると助かります〜」
須釜さんがへにゃんって笑ったよ。でもその長い腕を伸ばして私の頬に触れるのはどうしてですか?
そこはさっき孝子先生にキスしてもらった大切な湿布の位置なんですけど。
「可愛い顔なのに・・・。本当にすみませんでした〜」
「いや、大して可愛くもないんで気にしないでください」
「そんなことないですよ〜。さんはとっても可愛らしいですよ」
「いやいやそんなことないんで。慰めてくださってアリガトウゴザイマス」
「本当ですよ〜。信じてくださいよ」
須釜さんは音もなく立ち上がった。
何? この学校の監督生はみんな音も立てずに動くことが条件なの?
魔法使いじゃなくてむしろ忍者なんじゃないですか? ハットリ君かよ! パーマンにしろよ!
それでどうして私の両頬をその大きな手の平で包むんですか?
つーかギャラリー、見てんなら止めろよな。これ以上いったら金とるぞ。
須釜さんはまっすぐに私を見つめて優しく笑った。
「本当に、さんは可愛らしいですよ。それこそ今すぐにでもキスしたいくらいに」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・可愛いとキスすんのかよ、あんたは。
じゃあ有希とか麻衣子とか翼さんとか風祭君とかキスされまくりじゃん。
あー翼さんがマシンガントークで張り合う姿が目に浮かぶわぁ。
っつーかこんなこと考えてるって翼さんにバレたらそれこそマシンガントークの餌食になりそう。
んーじゃあここは出血大サービス! さっき孝子先生にキスしてもらったから機嫌がいいのだ。
話に乗って差し上げましょう。
頬を包んでいる須釜さんの両手を優しく離して、その甲にゆっくりと唇を触れさせた。(軽くね、軽く)
首が痛いけど須釜さんを見上げてニッコリ笑って。
「須釜さんこそとても魅力的ですよ? それこそ今すぐにでも押し倒したいくらいに」
―――ピタッと動作が一瞬止まって、須釜さんは目を細めてそれはもう楽しそうに笑った。
これは私が笑うのと同じ。それなりの相手だと判断したときの笑みだ。
「本当ですか? さんならいつでもオッケーですよ〜。なんなら今すぐにでもいいですし」
「光栄なお申し出ですけど、いつもと違う須釜さんの顔を他の人に見せるのは悔しいので、また次の機会にでもということで」
「そうですか? 残念です〜」
二人して顔を見合わせて笑いあった。
っていうかソファーに座り込んで肩を震わせている翼さん? ちゃんと笑ったほうが体のためですよ?
「・・・・・・ッオ・・・オマエら馬鹿すぎっ・・・・・・・・・!!」
「翼さんヒドイですよ、ソレ。私たち馬鹿じゃありませんよねぇ、須釜さん」
「僕は馬鹿かもしれませんねぇ〜。さんのことに関しては」
「あら本当ですか? ふふふ、嬉しいです」
ふふふって・・・自分で笑っててかなりウケるんですけど。光宏とか柾輝とかクッション叩いて笑ってるよ。
多紀や六助たちも肩を震わせてるし、木田さんや先輩たちまで笑ってるんですけど。
翼さんなんかついに堪えきれず大声で笑い出してはソファーから転げ落ちてるし。
床が絨毯でよかったですねー。フローリングなら痣が出来てましたよ。
「さんは本当に素敵な人ですね〜。同じ寮じゃなくて残念です」
須釜さんが笑っていった。・・・・・・・・・・・・・その台詞、昨日渋沢さんにも言われましたよ。
私そんなに面白い人間じゃないと思うんですけど。
「は俺たちレイブンクローだからね。羨ましいだろ、須釜」
うわー翼さんめちゃくちゃ楽しそう。涙まで浮かんでますよ
「ええ、本当に羨ましいです。どうですか、さん。今からでもスリザリンに来ませんか〜?」
「・・・・・・折角のお誘いですけれど、私この鷲の紋章が気に入ってるものですから」
「そうですか、それは残念ですね〜」
鷲はレイブンクローの象徴。ちなみにスリザリンは蛇。
蛇も嫌いじゃないんだけどね。蛇皮を財布に入れておくとお金が貯まるって言うし。迷信だと思うけどいいものは信じるに越したことがないから。
占いもいいことは信じるけど悪いことは信じないし。ラッキーアイテムは思い出したら使う程度かな。
突然イニシャルがOの人とか言われても困るだけだっての。
そういえば小学校のときいたなー占いにこだわる男の子。恋愛運がどうとか北東の方角がラッキーだとか。
中学受験したって言ってたけどどこに行ったんだろう。すっかり忘れてたよ。
そんなことを考えてたら時計の鐘がボーンと鳴った。
一つってことは予鈴。つまりは九時五分前ってこと。
夜九時以降の出寮は禁止。須釜さんお帰りの時刻でーす。
「じゃあ心残りですけど、失礼しますね。さん、本当に申し訳ありませんでした〜」
「いいえ、郭君にもよろしくお伝えください」
「確かに承りました〜。それじゃあ、おやすみなさいさん」
「おやすみなさい、須釜さん」
ニコニコと笑顔な須釜さんは廊下に出て、扉が閉じる前に振り返って手を振って言った。
「今の何だか夫婦みたいなやりとりでしたね〜。明日の朝は『おはようダーリン』って言ってくださいね〜」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・扉、閉まっちゃったし。
マジで変な人ばっかりだよ、監督生って。
人選間違えまくってるって。もっと平和な学校生活が送れるようなメンバーを選ぶべきだったよ。
って言うかこの爆笑に呑まれたレイブンクローの談話室をどうしてくれるんですか、須釜さん。
ちくしょう。明日の朝は『このお味噌汁ちょっとしょっぱいんじゃない?』『はいお義母様、お砂糖』ってやつをやってやるわ。
ナイスリアクションを期待してるわよ、須釜寿樹!
「渋沢といい須釜といいずいぶん気に入られたみたいじゃん? 二年にはまだまだ厄介なヤツがいるから、精々楽しませてもらうよ」
本当に楽しむって感じですね、翼さん。
「その二人以上に厄介な人がいるんですか?」
「いやあの二人がトップなんじゃないの? あとは李とか功刀とか佐藤、ある意味では吉田も厄介かもな」
佐藤さんにはもう会いました。つーかあの人がこの学校の生徒の中で初めて会った人なんですけど。
まだまだ前途多難ってこと? マジで派手な人生になりそうだなー。
ま、いっちょ頑張りますか。
あーファンケルとかエネルゲンとかアリナミンとか持ってくればよかったかも。
いまさら送ってもらうのもなぁ。
どうしたのって感じだよね。
2002年8月3日