12:難攻不落
図書館の司書さんはとても綺麗な女の人だった。
水野百合子さんっていう可愛くて綺麗な人。苗字と印象からして水野君の血縁なのかな?
「いらっしゃい! 図書館に来た女の子はあなたが初めてよ!!」
って熱烈な歓迎を受けちゃったし。しかも親切に魔法界についての本が置いてある本棚まで案内してもらっちゃったし。
ラッキー、ありがとうございます。
・・・・・・・・・でも、すみません。
興味を引かれた題名の本が棚の最上段にあるのは何故なんでしょう?
そして後ろから音もなく現れては本を取ってくれ、にこやかに差し出してくれているこの人は一体誰なんでしょうかねぇ?
・・・・・・見たことある、見たことあるぞ。
黄色と銀色のネクタイに頼られてます的なオーラ。このひとはアレだ、ハッフルパフの監督生。
―――――――――――渋沢、克朗。
「どうぞ、さん」
「・・・・・・・・・ありがとうございます、渋沢さん」
あぁやっぱりこの人も私の名前を知ってるよ・・・。マジで校内中知ってるんじゃないの?
やだなぁ、動きにくくなっちゃったよ。
「俺のことを知ってるのかな?」
「同じ寮生に聞きました。ハッフルパフの監督生だと」
それにしても音もなく背後に近づかないで頂きたいのですが。張り倒されても文句は言えませんよ?
何だかなー・・・この人も厄介な人っぽい・・・・・・。
「そうか。俺は渋沢克朗。よろしく、さん」
「です。よろしくお願いします」
本を受け取って軽く頭を下げた。それにしてもこの人背が高いなー。
あ、でもスリザリンの監督生のほうが高いかも。しかもあの人細かったし。
・・・・・・・・・スリザリンの監督生、レイブンクローの翼さん、ハッフルパフの渋沢克朗。
何だよ、監督生はどこも捻くれた人が選ばれるものなのかよ。
この分じゃグリフィンドールの監督生も期待できそうにもないなぁ・・・。
この人たちが寮杯を争うのか・・・めちゃくちゃ仁義なき戦いになると思われるんですけど。
―――――――――――――って。
「渋沢、テメェなに人に仕事任せてナンパしてんだよ?」
・・・・・・振り返った先には、黒髪タレ目の男の人。渋沢さんと同じネクタイってことはハッフルパフか。
今度は、ちゃんと足音がした。
「あ? コイツ椎名のとこの新入生じゃん」
ジロジロ見ないで頂きたいのですが。・・・でも仕方ない。ここはパンダになって差し上げましょう。
でも都内にはパンダはいませんけどね。いやいるのかもしれませんけど、某アイドルユニットがそう歌ってたからそういう事にしておいて下さい。
私、夏ってあんまり好きじゃないんですよね。暑いから扇風機とかクーラーとか電気代かかるし。
冬はまだいいんですよ。重ね着すれば寒さはしのげるんですから。
あーでも夏はスイカの馬鹿食いができるからなぁ。それなら冬の鍋と雑炊も捨てがたい。
それを言うなら食べ物はやっぱり秋でしょう。梨・栗・ブドウ・さつまいもの食欲の秋。
春は出会いと別れの季節ですから。色々と入用で金がかかるから好きじゃない。
あーもう一年中気温が一定のところってないかしら? 暑くもなくって寒くもないところを希望。
就職したらそういうところに転勤希望しようかなー。ってことは外国だろうから語学も必要よね。
ホグワーツじゃ外国語は教えてないし、独学で勉強するかな。あ、その手の本もあったら借りていこう。
「俺は三上亮。ハッフルパフの二年だ」
黒髪タレ目さんがニヤリと笑って言いました。
ニヒルな笑いだなー。でもハッフルパフってことは努力家なんだよね? 影ながら努力するタイプか、いいねぇ。
「、レイブンクローの一年です。よろしくお願いします、三上さん」
やっぱり軽く頭を下げた。
目の前に三上さん、後ろには渋沢さん。前門の虎後門の狼とはまさにこのこと?
・・・・・・・・・そうでもないか。渋沢さんはともかく三上さんは破れそうな気がするし。
とりあえず腹に一発決めて、カカト落とし。あとは如何にして渋沢さんに捕まらず逃げられるかが勝負。
あーでも図書館で問題起こしたら今後出入り禁止されちゃうかも。
むぅそれは困る。ここの司書さんすごく美人なひとだし。
やだなぁ、人生まったく上手くいかないものだなぁ。
「ふぅ〜ん・・・・・・」
だから私はパンダじゃないんですってば。かと言ってコアラやラッコでもございません。
個人的にはヤンバルクイナを希望。希少価値の天然記念物。
「まあまあじゃねぇか。組み分け帽子を叩きつけるからどんな乱暴女かと思ってたけどよ」
・・・・・・・・・あぁ、そんなこともありましたっけね。
昨日のことのはずなのにやけに昔のことに感じますよ。魔法界ってひょっとして時間の流れも違ったり?
ってことは孤児院にかえったときは浦島太郎状態? うわーそれは避けたいなぁ。
玉手箱だけ渡されてもねぇ、怪しいものは開けないことにしてるんですけど。
「桜庭や上原が騒いでたのも頷けるな」
何か昼間に知り合った人の名前が聞こえるんですけど? 今確かに彼らの名前を言いましたよね、渋沢さん?
「上条さんやグリフィンドールの小島さんとはまた違ったタイプだし」
・・・・・・・・・品評会っすか。
別に麻衣子や有希と違ったところで痛くも痒くもないからいいんですけど。
むしろ同じなんて言われた日には二人に土下座してでも謝らなくちゃ。
私は違う。私はきっと、ここにいる誰とも違う。・・・・・・それはまるで異質といえるほどに。
「でも俺はこっちの方が好みだぜ? 顔だけの女よりは面白いからな」
・・・・・・・・・有希と麻衣子は顔だけじゃないと思うけど。
二人は芯はしっかりしてるみたいだし、度胸もあるいい女だと思うけど。
別にいいけどね。本人たちを傷つけない限りは何言ったって。
もし傷つけたときは全身全霊でそれ相応の報復はさせてもらうけれど。
「・・・私は私自身の評価に意見は出来ませんので。それでしたら渋沢さんも三上さんもとても素敵な方だとお見受けしますけれど?」
口元が自然と笑みに歪むのが分かった。それも楽しそうにではなく、企むように。
あぁ・・・またやっちゃったよ。いい加減直そうと思ってるのになぁ。
笑みに歪む口元、馬鹿丁寧な口調、どれもこれも好戦的な状態に陥ってるときの私の癖だ。
短気だなぁ・・・我が事ながらため息を吐かずにはいられないよ。
私が笑って言うと、三上さんは驚いたように目を見開き、渋沢さんは声に出さずに肩を震わせて笑った。
・・・・・・やっぱり渋沢さんの方が厄介だわ。それもかなり特上レベルで。
この人とは戦いたくない。敵に回したらおそらく無事じゃ済まない。だからと言って勝てないわけではないけれどね。
「さんがハッフルパフに来てくれれば良かったのにな。きっと楽しい日々が送れただろうに」
「残念ですが努力して自分を高めるほどの根性はありませんので。組み分け帽子もそれを読み取ったからこそ、私をレイブンクローに入れたんでしょう」
「ははは。全くもって残念だ」
この人最高。いろいろな意味で強い人だわ。・・・・・・・・・面白い。
ハッフルパフの三年、特に監督生の渋沢克朗には要注意ね。
いつ足元を掬われるか分からない。だけどこういう人がいることに楽しささえ感じている。
・・・・・・・・・大丈夫。
指輪はまだ、左手の中指にはまっている。
私はまだ、やっていける。
結局その後はおざなりの挨拶をして図書室を後にした。
結構あっさり引き下がったなー。ちょっと意外。
それにしても麻衣子や桜庭君や上原君はあの人の元で日常生活を送ってるわけね・・・。
なんか大変そう。穏やかだけど危険を察知する能力は備わりそうだわ。
それがいいかどうかは別だけど。
さ、さっさと寮に戻って借りた本を読もうっと。
深山木さんや翼さんと話をするのもいいなぁ。
あぁ本当、レイブンクローに入ってよかったよ。今ほどそう思ったことはなかったよ。
ありがとう、組み分け帽子さん。
いやマジで本当にありがとう。
今度会ったらキスでもしてやろうかと考えたりもした。(けど止めた)
2002年8月2日