10:サーカス団と考察少年
「!」
この可愛らしくて『美少女です!』って感じの声は・・・。
「有希」
「これから変身術でしょ? 一緒の授業ね」
「そうだね。変身術って西園寺先生だし、何やるんだろ? すごく楽しみ」
ん? 有希の後ろから歩いてくる男の子たちはどなたなんでしょう?
赤と金色のネクタイから察するにグリフィンドールの生徒と見た。
「あ、丁度いいわ。うちの寮のヤツラを紹介するわね」
・・・・・・有希、何故かあなたが女王様チックに見えたんですけど。気のせいですよね?
「風祭将と水野竜也、それと天城燎一。他にも後三人いるんだけど、どこに行ってるのよ、アイツラ」
「あ、不破君たちなら変身術の教科書を取りに寮まで行ってくるって」
ふむ。今話したのが風祭将君か。
背が小さいなぁ。私より10cmくらい低いんじゃないかな。
でも纏ってる空気がとても柔らかい。優しい子なんだろうなー。
で、隣のタレ目の美少年が水野竜也君。茶色の髪サラサラー。一本一本まで手入れが行き届いてる。何のトリートメント使ってるんだろう。
パッと見は繊細そうかな。打たれ弱そうな感じの印象を受けるけどどうでしょー?
それで、一歩離れたところに立ってるのが天城燎一君。
これはまた風祭君と正反対に背が高いね。見上げると首が痛い。さすがにサロンパスは持参してないから注意しなくちゃ。
目つきが鋭いけど別に怖いとは思わない。直感だけど、優しそうな気がするし。
私の勘って割と当たるんだよね。時々当てたくないことまで当てたりもするけど。
「レイブンクロー生でです。よろしくー」
「よろしく、さん」
「よろしく」
「・・・・・・よろしく」
返事に性格が出てて面白い。天城君は人見知りするタイプみたいだし、水野君も少しそうなのかな。
それにしても残念ー。例の考察少年はグリフィンドールのはずなのにここにいないし。
今年のグリフィンドールの新入生は七人だから、約半分の確率だったのに。
まぁいいか。次の授業は合同なんだから、教室で見れるよね。
ガヤガヤと話しながら、私たちは変身術の教室に入っていった。
西園寺先生は最初に教科書をウサギに変えて見せてくれた。しかも不自然なピンク色のメルヘンウサギ!
うわぉマジック! 種も仕掛けも御座いませんってやつ!?
黒のシルクハットはどこですか? 赤いスカーフをかけてワン・ツー・スリーで教科書がウサギに大変身!
やった! これをマスターすればサーカス団に入団決定だよ! スカウトもじゃんじゃん来ちゃうよ!
個人的に演じるならピエロがいいんだけど。真っ赤なお鼻のトナカイみたいなピエロさん。
その後色々とノートをとった後で、ついに実践演習に入ることに。
西園寺先生が仰るにはとても簡単初歩中の初歩。配られたマッチ棒を針に変えてみましょうってことだった。
そして何とラッキーなことに、私の席は例の考察少年の真後ろ!
じっくり観察させていただきますよ、少年。
それにしても・・・このマッチ、本当に普通のマッチなの?
確かに見た目には特におかしいところは無い。普通の喫茶店なんかにおいてあるタダのマッチみたい。
でもなー、見かけと中身が違うっていうのがこの世界の売りみたいだし。
やっぱりここも何かサーカス団に匹敵する細工がしてあると思うのが普通でしょう。
「フム、このマッチ・・・・・・」
お? 始まりました?
「長さ3.5p、そのうち着火部は約0.5p。質量は・・・軽すぎて手では計測不能。素材は木。マッチとは本来、赤燐などを塗りつけた箱の側面と発火剤のついた軸木をこすり合わせて摩擦熱を利用し着火させる道具だ。これは確かに外見だけを見ればマッチと言えるだろう。それでは何故このマッチを針に変えることなどが出来るのだろうか。マッチは発火の道具であり針は裁縫などに使用する道具。そもそもある一つの物質を全く違うほかの物質に変えることが本当に可能なのだろうか。可能ならそれは何故か? おそらく魔法界ではその物質を変える力のことを『魔法』と称しているのだろう。ならば魔法というものはマッチにどのような働きかけを起こすことで針へと変化させるのだろうか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「そもそも魔法というのは何なのだ? 不可能を可能にする力なのか? ならば魔法を使うことの出来る者には不可能な事象が存在しないということになる。それは既に神の域に到達しているのではないか? ということは魔法を使うものは神と等しき存在ということになり、この世には数多の神が存在しうるということになる。だとすると一神教は誤りだな。しかしこれは魔法が不可能を可能にするという力だということを前提とした場合の結果であって、他の定義ではまた違った結果になるのだろう」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「第一この棒を持って呪文を唱えたところで、どうして魔法が発動するのかが解らん。店の主人はこの木の中に不死鳥の羽を仕込んであると言っていたが、それが何か意味を持つのか? ・・・そうか、『魔法』というエネルギーを『マッチを針に変える』という力に変換させる効果があるのかもしれんな。そのための発動条件が呪文ということならば、このマッチを針に変えるという現象はあらかた説明が出来る。しかし魔法というものは一体どこから発生するものなのだ? 棒を持って呪文を唱えるということは、おそらくその棒の持ち主本人から来ているのだろう。ならば魔法のエネルギーは人間の体内にあるということになる。貯蔵される場所はどこだ? 心臓、血液、脳・・・筋肉か?」
・・・・・・・・・・・・この少年、ホント面白い。
何か今にも自分のこと解剖しそうなんですけど!
あははは、めちゃめちゃ理系の頭してるよこの少年! いいなぁ、大好きこういうタイプ。
にしてもお腹痛い・・・。少年ってばあんまり笑わせないでよね。
あーもう、駄目。かなり楽しい。
「ちょっと。何机につっぷしてんのよ」
隣から有希のお叱りの声が飛んできた。
あ、そっか。マッチを針に変えるんだったよね。考察少年に集中してたからサッパリ忘れてた。
ごめんなさい、西園寺先生。
見ればクラス中のみんなは必死で呪文を繰り返してる。隣の有希も再度チャレンジ中。
・・・・・・・・・私もやってみようかな。
マッチを机の中央に置いて、何の変哲もなさそうな棒を右手に構えて。
一度深呼吸をして、頭の中に針を描いた。
ゆっくりと正確に呪文を唱える。
すると――――――ポンッという音を立ててマッチが少し跳ねて、再度机に落ちた。
今度は、銀色の針へと姿を変えて。
「あら、ちゃん。成功したのね」
気づけば後ろには西園寺先生。あぁその笑顔が眩しいです。
っていうかクラス中の人が振り返ったんですけど。何かヤバイことしましたか?
たしかこのマッチを針に変えるってのが課題だったよねぇ? 合ってるよね、私。
「そうね、立派な針になってるわ。よく出来たわね、ちゃん」
じゃあ今度はまたマッチに戻してみてくれる?と西園寺先生がニコヤカに笑って仰られたので、頷いて杖を構えた。
先ほどと同じように、呪文を唱える。
――――――するとやはり、ポンッと音を立てて針はマッチへと生まれ変わった。
うん、何かコツを掴んだぞ。
精神的な集中とイメージが必要なんだ。成功した図を思い描いてしっかり呪文を唱えればオッケーみたい。
有希に聞かれたからそう答えると、有希は目を閉じて少しした後呪文を唱えた。
マッチが針に変わる。
「やった! 出来たっ!」
有希が嬉しそうに言う。あーやっぱり美少女は笑うと可愛いなー。
その笑顔の理由に自分が関わってるとなると感慨もひとしおだね。
結局マッチを針に変えることが出来たのはクラスの三分の一くらいだった。
私って変身術と相性がいいのかも。
綺麗な西園寺先生の授業だし、頑張ろうっと。
次の時間は呪文学。ハッフルパフと一緒かー。
それが終わったら今日の授業は全部終わってお昼ごはんだ。
その時に有希に考察少年を紹介してもらおうっと。あ、一時間目に目が合ったハッフルパフの男の子たちの名前も知りたいな。
色々やりたいことが目白押しかも。図書館にも行って本借りたいし。
結構忙しそうだぞーここの生活。
それでも元気でやってますから、心配しないで下さいね。
先生、それに孤児院のみんな。
2002年7月31日