07:門番詐欺師
えーっと、まず真ん中のお城が教室や大広間なんかになっていて?
その周りを囲むように四本の塔が建っていて、それが寮になってるわけですか?
・・・・・・・・・めっちゃ簡単そうに見えて迷いそうな作りになっていらっしゃるんですね。
そしてこの目の前にある大きな絵画の中でタバコを吸っているこの美少年はどなたなんでしょうか?
紹介してくださいな、寮長様。
「ちょっと、秋。僕らいい加減に入りたいんだけど。人の話ぐらいちゃんと聞きなよね?」
寮長様が話しかけていらっしゃいます。この、絵の中の美少年に。
美少年も当然のようにタバコの煙で輪っかなんて作ってないで、どうして絵なのに動けるのか説明してください。
あー、例の考察少年は今何やってるんだろう。やっぱり同じような絵を前に成分とか調べようとして他の人に止められたりしてるのかなー。
私も一緒に調べたいなー。今から行っちゃ駄目かなー。
「・・・何、全員揃って。あぁ新入生を連れてきたのか」
・・・・・・・・・・・・・・・昨今の絵の中にいる美少年は言葉を発するものなのですね・・・。
声が非常に美しいとか、そんなことは置いといて。
やっぱり貴方もラジコンなんですか? むしろここは魔法の世界より22世紀の日本とか言われたほうが納得出来そうな気がしなくもないんですけど。
黄色に赤いリボンのゴキブリ嫌いなロボットとか、赤くてミニサイズの道具も小さくて使えないロボットとか、いるなら出て来てくれませんか。
ねずみが嫌いな青いロボットはあやとりと射撃が得意な小学生のところにいるから、この世界にはおそらくいないでしょう。
「へぇ、今年は女の子も一人いるんだ」
・・・・・・ご指名のようなので顔を上げて美少年の描かれている絵画を見つめてみました。
それにしても細部まで細かく再現されている絵画だなぁ。
写真みたい。むしろCGとかでもオッケーかも。美少年のキメ細かな肌まで表現されてるよ。
「僕は深山木秋。ご覧の通りこのレイブンクローで門番をしてる。まぁ実際は他の場所に行ったりしていることが多いので、いつここを通るのか決めておいてくれると有難い。忘れ物とかはしないことだね。君らが授業中の時は直也やゼロイチと遊んでることが殆どだから」
・・・・・・・・・お名前までおありなんですね。麗しいお名前をありがとうゴザイマス。
「それで君の名前は?」
タバコをこちらに向けて言ったということは・・・・・・ご指名ですか?ご指名なんですか?
どうしてなのか知らないけど、この世界に来てから個性の強い(あるいは強そうな)人にばっかりご指名を受けている気がするんですけど。
西園寺先生しかり、佐藤さんしかり、スリザリンの寮長さんしかり。
「・・・秋。こんなとこでナンパするほど女に飢えてる訳? あーあ! これだからヤダね、がっついてる男は!」
「翼、うるさい。僕は彼女に興味を持ったんだ。名前を聞くくらい普通だろ?」
いえ、私としてはどうして貴方が私に興味を持ったのかを説明していただけると嬉しいのですが。
400字詰めの原稿用紙に一枚程度でお願いしますね。句読点も含んで数えてくださいね。
「結構可愛いし、僕が話しかけても表情変えないし? 口には出さずとも頭の中では色々考えてるタイプと見たね。この手の人間は敵に回すと厄介なんだ。ま、僕はそれぐらいじゃやられないけど、興味深い素材には違いないよ」
「・・・・・・色々とツッコミたい所はあるのですが、とりあえず素材ではなく人間と表して頂けないでしょうか」
「別にそれくらい構わないよ。それで決まった? 僕に名前を教えるかどうか」
教えてくれないなら調べるまでだけれどね、と言って楽しそうに笑わないで下さい。
どうしてこういうキャラなのか貴方の人格形成とバックグラウンドを心底不思議に思います。
「・・・なぁ嬢ちゃん。秋が誰かを気に入るなんて珍しいんや。名前くらい教えといたらどうや?」
金髪で短髪の先輩が後ろから小声で話しかけてきました。
おー関西弁だ。佐藤さんと一緒だ。でも先輩、それって自分が早く寮に入りたいからそんなこと言ってるんじゃありませんか?
後ろの背の高い目つきの鋭い先輩が気の毒そうに私を見てるんですけど。
何かねー初対面の私にも分かりますよ。この美少年はかなり厄介な性格をしてるんだってことが。
さっきの言葉じゃないけど、私もこの美少年をあんまり敵に回したくないなぁ。回したら腹の探り合いに全力を使うことになりそうだし。
んー・・・楽しそうな人だし、別にいいかな。
「です。よろしくお願いしますね、深山木さん」
「はいヨロシク。それではチェス出来る人? 今度やろう、ナイト抜きで」
「クィーンも抜いてくださるのならお相手しますよ」
そう言うと深山木さんは一瞬の間の後で楽しそうに笑い出した。笑い声の端々で「やっぱり僕の目に狂いはなかった」って言ってるのは気のせいですか?
私はそんな面白い人間じゃないと思うんだけど。まぁ判断はその人に任せるってことで。
「それで話は終わった? いい加減中に入れて欲しいんだけど」
うわ、寮長様がニッコリと笑っておられるし。その割りに雰囲気がこーわーいーこーわーいー。
寮長様は私たち新入生を振り返り説明をして下さる。
「寮にはそれぞれ門番がいて、寮に入る時には合言葉を言わなくちゃ入れないシステムになっている。レイブンクローの合言葉は『Fraud(フラウド)』。忘れたら寮には入れないからそのつもりでメモるなりなんなりしておくことだね」
寮長様の言葉を受けて絵画の中の深山木さんがパチンと指を鳴らした。
・・・・・・・・・途端に絵画がウミョ〜ンってな感じで入り口を作るし。
これってアレだわ。足が一杯ついててフワフワの座り心地で森の妖精(大・中・小の三匹セット)が所有しているネコ型のバスの入り口にそっくりだわ。
・・・・・・何かため息吐きたくなってきたんだけど。
マジでここは何処なの? 東京都内の中央線沿線上にある某スタジオの森美術館なの?
「ほらちゃん、早く」
中から多紀が手招きしてるよー。癒し系だよ、多紀ー。癒してよー。
「またね、。今度はもっとゆっくり話そう」
深山木さんが笑って手を振ってくれました。・・・・・・あくの強い美形さんが多い世界なのね。
中に入れば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ここはどこ?私は誰? (本日二度目の台詞だわ。芸がないったりゃありゃしない)
床に敷き詰められた藍色の毛の長い絨毯は何なんですか?
猫足のテーブルやフカフカのソファー、その向こうにはサンタクロースが落ちてきそうな暖炉まであるんですけど。
リカちゃん、いやシルバニアの世界だわ。ミニチュア模型箱庭の世界。
部屋全体は青系で統一されてるけど、先輩のネクタイも青と金色だし、レイブンクローは青が寮のカラーなのかしら。
それにしても広い。広すぎるわ。さっきいた大広間ほどじゃないけど十分に広いわ、この部屋。
「ここが談話室。話すなり遊ぶなり宿題やるなり好きに使えばいいよ。それで正面にある階段を昇って右が女子で左が男子の部屋。一応言っておくけど、女子寮は男子禁制だし男子寮は女子禁制だから。減点されて寮の足を引っ張りたくないのなら馬鹿なことは止めておくんだね」
いや別に出入りしたりしないと思うんで気にしてくださらなくて結構です。
「部屋は基本的に四人部屋なんだけど、今年の男子は六人だから三・三に分けた。101号室がマサキ・日生・杉原で、102号室が六助・伊賀・小堤。ちなみに俺たち二年は201号室。女子はお前一人なんだけど101号室を好きに使っていいから」
はいオッケーです。その意味を込めて頷いてみました。
「俺はレイブンクローの監督生で椎名翼。そこの背の高いのが木田圭介、ドレッドが畑五助、金髪が井上直樹。慣れないことも多いだろうけど自分でどうにか出来るように頑張って。ただし減点だけはされるなよ。去年はハッフルパフに寮杯を持っていかれたけど、今年は必ず俺たちが取るんだから」
・・・・・・・・・寮杯ってそんなにいいものなんですか?
まぁ、出来る限り減点されないように頑張ってみるんでよろしくお願いしまーす。
「いつもは四寮合同の大浴場が使えるんだけど、今日はもう時間が遅いから使えない。各部屋にユニットバスがついてるからそれ使って。夜九時以降に寮から出ることは禁止されてて、談話室は十一時まで使えるけどそれ以降は各自の部屋で寝るなり遊ぶなり好きにすること。朝食は七時半にさっきの大広間。授業は八時半から始まるけど、明日の日程はそれぞれの部屋に荷物と一緒にプリントが置いてあるからそれを参照。以上、何か質問は?」
今の時刻は九時ちょっと前。この学校に着いてから約六時間かー。
結構長くいたのね。いろんなことがありすぎて走馬灯のような時間だったわ・・・。
意識するとどっと疲れが湧いて出てくる。
「質問もないみたいだし、それじゃ解散」
寮長様のお言葉を受けて、私たち新入生はとりあえず部屋へ向かおうと階段に足をかける。
「、一人で平気? 寂しいなら俺が一緒に寝てあげるけど?」
光宏・・・すっごい楽しそうよ? 寮長様は階段の下から睨んでくるし。
「んー、たぶん平気だとは思うんだけど。・・・何?寂しいって言ったらたとえ減点されても光宏が一緒に寝てくれるの?」
「それはもう当然。の頼みなら断れるわけないじゃん」
にへらーってお互い笑いあって。あぁいいなー。こんな軽口が叩ける人が同じ寮にいるなんて。
光宏だけでなく多紀や柾輝、他のみんなもそうなんだけどね。
頭のいい人がたくさんいるから会話がいちいち面白い。レイブンクローは賢い人が多いって本当に当たってるかも。
「それじゃちゃん、おやすみ」
「おやすみ、多紀。みんな、また明日ね」
「おやすみ、」
みんなに手を振ってから女子寮への扉を開けた。そしたらさらに扉がたくさんあるし・・・。
ようやく101号室を開けて中に入ってみれば。
・・・・・・左手には月が見える大きな窓。手前にある扉はユニットバスへの入り口ですか?
奥の中央にそびえている天蓋カーテンつきのベッドは何なんですか? このベッドはダブルベッドなんじゃないですか?
壁際には机と本棚が置いてあるし、その隣にあるのはクローゼット? 部屋の中央のテーブルの上には教科書やら鍋やら色々乗ってるし。
あ、私の旅行鞄まで置いてある。
・・・・・・・・・・・・マジで何なんですか、このゴージャスな部屋は。
一人で使うにはもったいなさ過ぎる広さだって。やっぱり元は四人部屋だったからなの?
・・・・・・・・・ゴメン、光宏。やっぱり一緒に寝てほしいかも。
一人でこの部屋を使うのはちょっと寂しくなるかもしんない。
私はその場へと座り込んで、大きなため息を吐いてしまった。
薬屋探偵の深山木さんです。
2002年7月28日