05:民主主義を主張!
帽子、それは人間界でも「帽子」と言われるであろう物体だった。
あぁさっきこれを摘み上げて今にも解剖しようと試みた考察少年よ、私もその場に立ち合わせてくれたまえ。
っつーか常識的に考えておかしいよ。帽子が喋ったり歌ったりするなんて。
あ、わかった。これもあのフクロウと同じでラジコンなんだ。
リモコンは誰が持ってるんだろう。
私の勘的にはあの人が怪しいな。正面のテーブルの中央に座っている外国人のお爺さん。
半月形のメガネに銀色の髪、口ひげ、あごひげ。
怪しさ十分。さぁその両手を今すぐ挙げてみせたまえ!
みんながどんどん組み分けされていく中で、残ったのは今や私一人。
これってどんな順番で呼ばれてるのさ。私が最後なんて、まさかトリ? 紅白で言えば和田アキ子や北島三郎?
演歌なら私もイケる口だから全然オッケー。氷川きよしとか振りつきで歌いましょうか?
「!」
西園寺先生に名前を呼ばれて進み出る。
あぁ西園寺先生の微笑みが眩しいなー。背中に突き刺さる大量の視線はそれなりにチクチク痛いけどね。
椅子に座って渡された帽子はつぎはぎのボロボロでヨレヨレ。
見た限りは普通の帽子に見えるんだけど・・・どこにスピーカーがついてるのさ。
まぁいっか。とりあえず被ってみよう、そうしよう。
「フーム」
・・・被った瞬間、帽子から声が聞こえたんですけど。マジでスピーカーはどこですか?
「君はマグル出身かね? それにしてもどの寮にするべきか・・・。勇気に満ちている。努力も出来る。頭も賢い。それに自分の意見を貫ける意志の強さも持っている。・・・これは面白い。さてどの寮にいれるべきか」
勇気があるってー。努力も出来るってー。頭も賢いってー。意思も強いってー。
・・・・・・何言ってんのかね、この帽子は。褒めすぎじゃないの?
「フム、君自身はそう思うのかね。それはまだ君が君自身のことを知らないだけだ。君には十分な可能性がある。ホグワーツで学べばそれは素晴らしい魔女になることだろう。これが本校ならば入れる寮は一つなのだが・・・はてさてどうしたものか」
・・・・・・今この帽子、私の考えを読みました?
私の考えてることが顔に出てるのかしら。でもリモコンを持ってるであろうと目星をつけたあのお爺さんは今私の後ろにいるわけだし。
私の顔が見える位置にいるのは生徒ばっかり。ってことは何か? 生徒の誰かがトランシーバーか何かでお爺さんに伝えているのか?
そこまでしてこの帽子を生物だと見せかけたいのか?
うーん判らん。そんなことをする意義が全くもってわからない。
「・・・・・・君は魔法界について全く予備知識を持っていないのかね? 私は『組み分け帽子』、考える帽子なのだよ。君の頭の中に隠れているものはすべて見ることが出来るのだ。たとえば君が左手の中指にしているその指輪は・・・・・・」
――――――パンッ――――――
思いっきり床に打ち付けた。ボロイ布キレが床に広がって声も上げずに私を見上げている。
実際に目はないのだけれど、何故かそんな気がする。
・・・・・・この帽子嫌いだ。私の頭の中身を勝手に見やがって。そうと知ってたら被る前に策を講じたものを。
勝手に人のタブーに触れやがって。マジで解剖してやろうか?
周囲の唖然とした空気なんか関係ない。一言言ってやらなきゃ気が済まない。
私は大きく息を吸い込んで――――――――。
「フォッフォッフォ。組み分け帽子よ、何か言ってはいけないことを言ってしまったようだのう?」
・・・・・・明るい声に振り返るとその先には例のお爺さん。
楽しそうに笑ってるけどその瞳は真剣。
・・・・・・・・・仕方ない。ムカツクけどその話に乗ってあげるわ。
「すみません、先生。この帽子さんが『私は君のことは何でもわかるのだよ。例えば身長は・・・体重は・・・』って言うものですから、つい頭に来ちゃって。乙女の体重を言い当てるなんて失礼ですよねー」
「フム、確かに。いたいけな少女に対してそれはセクハラ発言だのう」
二人して顔を見合わせてニッコリ笑い合った。それにつられて周囲の空気も柔らかくなっていく。
よし、あと一息。
「ごめんね、帽子さん。もうセクハラ発言はしないでね」
優しく汚れを払ってから再度帽子を被る。
もう余計なこと言うんじゃないわよ? 言ったらその時はあの考察少年と一緒にこの帽子の成り形から布の成分まできっちり解剖して調べ上げてやる。
「誰がセクハラ発言をした・・・・・・」
あんたよあんた。人には触れられたくない傷ってものが一つや二つはあるものなの。
それに勝手に触れるだなんて、いくら喋る帽子だからって許されないわ。
燃やされないだけ良かったと思いなさい。
「・・・・・・しかし君は近い将来に必ずその傷と向かい合うことになるだろう。逃げられはしないのだ。君がその血を受け継ぎ、君が君である限り」
・・・・・・・・・うるさいわね。さっさと寮を決めなさいよ。
知らないわよ、そんな事。いつか来るとはいえ予測出来ないものは考えたって仕方ないじゃない。
それにぶち当たった時に乗り越えられるように、これから力をつけていけばいいだけの話なんだから。
「・・・君は強い。その強さが君自身の武器となるだろう。それではやはりここは・・・・・・」
ちょ―――――――っと待ったぁ!
「・・・・・・まだ何かあるのかね?」
ある、あるに決まってるでしょ! 今どこの寮の名前を言おうとした?
私の意見とかは反映してくれないわけ?
「フム、君はどこの寮がいいのかね?」
んー、出来れば有希のいるグリフィンドールか麻衣子のいるハッフルパフがいいなぁ。
「それは駄目だ」
なっ・・・何だそりゃ!? さっきは私には勇気もあるし努力も出来るって言ったじゃん!
「さっきはさっきだ。もう既に君の入る寮は決まっている」
何それ横暴! 絶対王政なんか今時流行らないよ! 民主主義でいこうよー! 人々の意見を聞き入れてより良い世の中を作っていこうよー!
「勝手に作れ」
うっわ冷たーい!これで私が心地よい学校生活を送れなかったらあんたの所為よ?
「君はさっき私にしたことを忘れているようだな?」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
根に持ってます? やっぱり。
「当然だ」
やーゴメンナサイ。悪かったですってば。
突然指摘されたものだからカッと来ちゃって。今度からは気をつけますから。
だから許してくださいよー。
「駄目だ。君の入る寮はここしかない。・・・・・・・・・・・・レイブンクロー!」
・・・ちっくしょうこの帽子マジで叫びやがった!
あーもう仕方ない。男に囲まれながらもたくましく生きていくかな。
「君なら例えどこだろうと十分に生きていけるだろうに・・・・・・」
何か言った? 帽子さん。
「・・・・・・いや、楽しい学校生活を送るといい。君の入る寮は君に相応しい寮なのだから」
ふーん? ま、ありがと帽子さん。
精々修行に励むことにするよ。来るべき日が来るその日までね。
話せて結構楽しかったよ。それじゃまた。
帽子を西園寺先生に返してからレイブンクローの生徒が座っているテーブルへと向かった。
その途中で有希と麻衣子と目が合ったものだから、チラッと舌を出して肩を竦めてみた。
そしたら有希は同じように肩を竦めてウィンクしてくるし、麻衣子は苦笑して肩を震わせたり。
おぉ何かいい友達が出来たかも。
寮は違っても同じ学校内にいるわけだし、色々話も出来るよね。
あの考察少年とも一度ゆっくり話をしてみたいなー。
ま、とりあえず頑張ってみることにしてみますか。
女の子一人なら当然一人部屋だろうし、ちょっと憧れてたんだよねー一人部屋。
孤児院だと小さな子の面倒とか見なくちゃいけなかったから大部屋だったし。
うん、楽しそうなことって探してみれば結構たくさんありそうじゃん。
ま、とにかく頑張ろーっと。
2002年7月27日