03:紳士失格と遊園地





「ここは何処・・・私は誰・・・・・・?」
どうしようもないので、とりあえずお約束の台詞を言ってみました。



『学校には荒川にかかっている橋から行くのよ。当日は遅れないでちゃんと来てね?』
なーんて美人さんもとい西園寺先生はおっしゃっておられましたが。
・・・・・・・・・どないせいっちゅーねんこの状況で!!
あぁ目の前に流れる雄大な川よ、私をホグワーツへと運んでおくれ。
っつーかマジでどうやって行けばいいのさ。
私の右手には大きな旅行鞄。これ一つに全部収まるなんて意外と私の私物って少なかったのねー。
小物や服とかはほとんど孤児院の妹や弟にあげちゃったし。
私は一応寮のある中学校に特待生で入るってことになってて、みんな盛大にパーティーしてくれたなぁ。
夏の長期休みには帰ってこれるだろうし、大好きな先生ともしばしお別れ。
悲しいわー・・・うふふふー・・・・・・。
って現実逃避してる場合じゃないって! 真面目にどうするか考えなくっちゃ。
うーん、やっぱりこれってドッキリだったのかなぁ。
教科書とか大鍋とか全部向こうで用意しといてくれるって言ってたし、渡されたのなんて制服一着のみよ?
白いブラウスに薄いグレーのセーター、少し濃い目の灰色のスカート、そしてやっぱりグレーのハイソックス。
ネクタイは所属する寮によって違うらしくて、決まってから渡されるんだって。
あー・・・制服は可愛くてもドッキリじゃあねぇ。
全く金のかかるドッキリだわ。
ってなことを考えていたら。
川沿いの道に似たような制服の少年たちをはっけ――――――――んっ!
どうやら三人組の模様。そのうち二人は黒髪だけど、茶髪の一人が目立って見えるわぁ。
遠すぎて顔までは分からないけど、大きなトランク持ってるしまず間違いないでしょう!
つーか茶髪君、荷物ありすぎじゃない? 大きいトランク二つにボストンバッグなんて一体何が入ってるのよ?
まぁいいや。丁度いいし、どうやって行くのか観察させてもらおーっと。
フムフム、まず階段を下りて川のそばまで行って?
あーちょっと橋の下に入らないでよ! 私の位置から見えなくなるじゃん!
場所移動移動・・・あ、いた。橋の真下でコンクリート壁を前にしてなにやら話している。
そしたら茶髪君が荷物とともに壁に向かって走って・・・・・・・・・消えた。
消えた。
きえた。
キエタ。
消えましたよ、ちょっと奥さん見ました今の?
壁に吸い込まれるみたいにスウッて。スウッて! ギャーッやっぱりこういう世界なのねっ!!
続いて二人目の黒髪君も壁へと突進して・・・やっぱり消えた。
もういいよ・・・もういいって、十分判ったからさぁ。
だけど私の心の声も何処吹く風、最後の黒髪君も壁へと消えていった。
・・・心臓に悪いよ、この世界は。それとも何か?このノリが普通なのか? イヤーそれも怖い。
・・・・・・まぁでも学費が安いならそれでいっか。
交通費の節約にもなるし別にいいでしょう。
三時には学校に行かなくちゃいけないらしいし、現在二時四十五分。
あ、また向こうから制服姿の子たちが来たよ。
それにしてもまた男の子だし。女の子はいないの?女の子は。
もういいや時間直前に行こうっと。他の人たちの動向見て楽しんでよーっと。



ポツリポツリと制服姿の子が現れては、コンクリートの壁へと消えていった。
結局女の子はいなかったなぁ。ひょっとして私一人?
それはそれで逆ハーレムみたいでオッケーなんだけど、やっぱり女の子の友達も欲しいしねぇ。
三時まであと五分。
周囲には人影もいなくなったことだし、私もそろそろ行きますか。
えーっとまず階段を下りて、次はコンクリの壁コンクリの壁。
これかな? ・・・うん、さっき私が見ていた位置からも見えるし、ここに間違いないでしょう。
触る限りは普通の硬い壁なんですけどー・・・。
走っていかないと駄目なのかなー? ぶつかったらマジで痛いよね。
っつーか笑い者だって。そこまでやったのにヤラセだったりしたら。
うーんどうしよう、やるっきゃないかなー・・・。



「嬢ちゃん、遅刻するで?」



何奴ッ!? ってな感じで勢いよく振り向いた。(私、よく先生と一緒に時代劇とか見たりしてたから)
そこには金色の髪にピアスをつけた綺麗な顔の男の子。
さっきからずいぶん見た制服を彼も着ている。ってことはこの人も例の学校の生徒なのかな?
たぶんそうなんだろうね、さっき「遅刻する」って言ってたし。
それにしてもこの人は荷物少ない。トランクじゃなくて旅行鞄一つ。私と張るわね。
「嬢ちゃん、行かへんの?」
金色の彼が話しかけてくる。
あーこの人ネクタイしてる。色は赤と金色。ってことは寮が決まってるということで、つまりは先輩?
「魔法魔術学校ですか? 行きますよー、そのためにここにいるんですから。でも壁にぶつかったら普通怪我するよなーとか思って。下手すりゃ打ち所悪くて死んだりもしそうですよね。それは困るんですよ、私まだまだやりたいこととか沢山あるし」
「やりたいことって何なん?」
「さしあたっては魔法を学んで手に職をつけ、給料のいい会社に就職することです」
そして業績を伸ばしてゆくゆくは管理職へと上り詰めてやる。
そこまで言ったら金髪の人は目を丸くして、次の瞬間思いっきり笑い出した。
人の夢を笑うなんて失礼な人だなー。別にいいけどね、これは私だけの夢なわけだし。
ってか時間ヤバイんじゃない? ここで落ちたらシャレにならないっつーの。
「ク・・・ククククク・・・・・・嬢ちゃん、ひょっとしてマグル出身なんか?」
笑うか質問するかどっちかにして下さい。
マグルって確か魔法の使えない普通の人間のことだよね。
「はい、マグル出身です」
「そーか、せやから悩んでたんやな」
いや悩んでたわけじゃないですって。ただ壁にぶつかったら痛いだろうなぁとか思って覚悟決めてただけで。
聞いてます? というか、勝手に人の手を握って微笑まないで下さい。
断りも無く乙女の手を握るだなんて言語道断!紳士失格!
「俺は佐藤成樹。グリフィンドールの二年生や」
「自己紹介ありがとうゴザイマス。でも勝手に乙女の手を握らないで下さい。次やったら痴漢として警察に突き出しますからね」
「なんや冷たいなぁ。名前くらい教えてくれてもええやん」
「私の手を握ってる理由を教えてくださったら、考えないこともないですよ」
「んーせやかて嬢ちゃん、学校に行くの初めてなんやろ? ほな案内したろかと思って」
佐藤さんはそう言って私の手をさらに強く握ると壁へと向かって走り出した。
ってことは手を繋がれてる私も必然的に走り出すわけで。
ギャ―――――――ッ! ちょっと待てッ! まだ心の準備をしてる途中なんだよ! 心臓麻痺で死んだらどうしてくれるっ!?
けどドンドンと壁は近づいてきて、そして―――――――――――――――。



緑の草原、風に揺られてさざめく木々、青い空に浮かぶ白い雲たち。
そして遠くに見える大きなお城。
振り向けば通り過ぎたはずのコンクリートの壁は、アーケードがついていて看板には『ホグワーツにまた来てね!』なんて書いてありやがる・・・。
・・・・・・どこだ、ここは。どこのアミューズメントパークだ・・・・・・。
ガックリと地面に座り込んでため息をつきたいのに、手を引かれてまた走り出すはめに。
「ちょっと佐藤さん! どこ行くのっ!?」
「学校に決まっとるやろ?はよ行かんと遅刻してまうで!」
・・・・・・・・・それはヤバイ。
私は鞄を持ち直し、本格的に走り始めた。
初日から遅刻してたまるもんですか! 退学なんて事態を引き起こすような行動はしないって決めてるのよ!
それに遅刻してもいいのは漫画の中の転校生だけって相場は決まってるんだから!





2002年7月27日