02:ただより安いものはナシ





「はじめまして。貴女がさんね?」
目の前で微笑んだ女の人はとってもとっても美人なのに・・・。
その問答無用で人を圧倒するたちの悪いプレッシャーは何なんですか!!
私の平穏を返して下さい!



「はじめまして。私、ホグワーツ魔法魔術学校日本校で教師をしております、西園寺玲と申します」
美人なお姉さんはそう言って優雅に頭を下げた。
ちなみにここは応接室。とは言ってもそんなに大したものではないんだけれど。
私の隣には先生がいつもと変わらないにこやかな笑顔で座っている。
「このたびは御連絡もせずに突然押しかけてしまい、本当に申し訳ありません」
「いえいえ、こちらこそ大したお持て成しも出来ませんで」
テーブルの上にはお茶とお煎餅。さっき私より一つ年下の女の子が運んできてくれたものだ。
今頃騒ぎになってるんだろうなー・・・。
養子だとか引抜きだとか、そんなことある訳ないのにねぇ。
「それで早速本題に入らせて頂きたいのですが・・・」
美人さんはそこで勿体つけるように言葉を切って、私たちを見た。
さんに、是非我が学校に入学して頂きたいのです」
・・・・・・・・・あー、まーねぇそういうことを言うんだろうなぁとは思ってましたよ。
ってかアレはイタズラじゃなかった訳? 本当にそんな怪しい学校が存在するの?
「本日さんに入学の案内を遅らせて頂いたのですが、返信にはさんに入学の意思がないと書かれておりまして。我が校としてはさんのように優秀な生徒をそのままにしておくことも出来ないので、詳しいお話をしにここに参った次第です」
優秀・・・あはは。優秀なんて私には実に縁のない言葉だわね。
第一何で美人さんは私が優秀だって知ってるのさ。私本人だって知らないのに。
。そんな返事を出したのかい?」
先生が優しく聞いてくる。うん私、先生のそういう所が好きだなぁ。
「はい、出しました。私はそちらの学校に入学するつもりはありません」
「それは何故か、理由を聞いてもいいかしら?」
ウワァオ! 美人さんが話しかけてきたよ!
理由ねぇ、一杯あるんだけどどれから話すべきなのかしら。
「まず第一に、私はそちらの学校について何も知りません。魔法魔術学校なんで聞いたこともありませんし、存在さえも知りませんから」
「そうね、確かにそれはそうだわ。さんは私たちの世界について何も知らないのに、突然こんなこと言われても困ってしまうだけですものね」
美人さんはそう言って済まなそうに微笑んだけど、どうしてか楽しそうに見えるのは私の気のせいなんですか?
「私たち魔法魔術学校はその名の通り、魔法使いを教育するための学校なの。魔法使いとは普通の人間とは少し違う力を持っていて、それを使うことの出来る人たちのことよ。さんはマグル、つまりは普通の人間出身だけれど、その力を持っているの。だからその力を正しく使えるようになるために、是非わが校に入学して魔法を学んでもらいたいのよ」
・・・つまり要約すれば、私は普通の人間じゃないと?
「何かの間違いなんじゃないですか? 私にそんな力があるとは思えません」
そんなこと出来たら錬金術でも使って鉄を金に変えて裕福な暮らしを送ってるってーの。
「いいえ、さんには十分な力があります。・・・あなたが怖かった時や怒った時に何か不思議なことが起こらなかった?」
「起こりませんでした」
キッパリ言うと美人さんは驚いたように目を見開いた。でもそんな表情も美人さん。
別に特に不思議な人生を送ってきたわけじゃないのよねぇ。
・・・・・・唯一つ、いや二つだけ、信じられない現象を引き起こす物を持ってはいるけれど。
私はギュッと右手の手の平で左手を包み隠した。
「・・・西園寺さんとおっしゃったかしら?」
先生が柔らかく切り出した。・・・たぶん私が動揺したことに気づいて、美人さんの視線を引き寄せてくれたんだろう。
私は先生のこういう所が本当に大好き。
先生には言葉で表せられないくらい感謝してる。
それはきっと私だけじゃなくて、この孤児院にいる子供たち全員が同じように思ってると思う。
捨てられていた赤ん坊の私を引き取って、育ててくれた大切な恩人。
「私はの意志を尊重したいと思ってます。この子はもう自分の考えを持っている、立派な子ですから」
ねぇ? と先生が振り向いて笑って言った。
・・・うん。私はそんなスゴイ子じゃないかもしれないけど、先生が望むなら頑張ってそうなるように努力するから。
これ以上迷惑なんてかけられない。
精神的にも、経済的にも。
「でもさん、私たちの学校は本当に素晴らしいところなのよ? 日本校はまだ開校して一年しか経っていないけれど、イギリスにある本校は千年以上の伝統ある魔法学校だし。自然環境もとてもいいところに建っているの」
美人さんは一気に私を口説きにかかってきた。
いやねぇ、どうせ口説くなら別のことで口説いてほしいなー。
「教師陣にも優秀な先生方が揃っていらっしゃるし、魔法について学ぶのにはとてもいい所よ。学校は広いし、緑は多いし、食事も美味しいし。寮生活だから友達もたくさん出来るわ」
・・・・・・なぬ? 寮生活ですと?
さんは魔法界について何も知らないのだろうけれど、それならこれから学んでいけばいいだけの話だし。何なら私が教えても構わないわ。それにホグワーツは魔法界の公共資金から成り立っているから、学費もそんなに高くないし」
「・・・いくらですか?」
「学費と食費、光熱費込みで・・・一年間でこれ位かしらね」
渡された電卓。・・・魔法使いもこんな物を使うのかとかいうツッコミは後にして。
・・・・・・安い。安いわ。さすが自分たちで高くないと言うだけのことはあるわ。
えーっとちょっと待ってね、確か私が行く公立中学の年間学費はどれぐらいだったっけ。
それに家で生活している分の食費と光熱費その他もろもろ込みで・・・。
カチ・カチ・カチ・チーン!
「オッケー行きます! 行きますよその魔法学校とやらに!」
「本当!?」
「えぇ! もうバリバリ本気です!」
っつーか絶対行くっての! この際何かの間違いだったって言われても構わないね!
だってこんなに安く低価格で学校生活及び日常生活が送れるんだから!
今の物価が高くて不況の続いている日本より絶対にこっちの方がお得だって!
私に使う分のお金が減れば、他の子にももっと好きな事させてあげられるようになるし!
私は安く学校に入れて、孤児院は(ほんの少しだろうけど)潤うし。
一石二鳥! 一挙両得とはまさにこの事!!
「いいのかい? 
「はい先生! 全然構いません」
むしろカモンってな感じです。
あー良かったー。中学に上がるとなると色々お金もかかってくるからねぇ。
怪しくったって別に全然平気だし、逆に楽しんじゃえばいいのよ。
多少の適応能力がなきゃ、この波乱万丈な浮き沈みの激しい御時世を生き抜いてはいけないんだから!
そう、これはチャンス!
自分ひとりで生きていくためには手に職をつけなければ!
精々学ばせてもらうわ、その胡散臭すぎる魔法とやらをね!!
「それじゃあさん。これからよろしくね」
「ハイ! こちらこそよろしくお願いします、西園寺先生」
美人さんと握手しながら最上級の笑顔で笑ってみせた。



安さに釣られて怪しい学校に入学決定。
まあ物事を判断する基準は本人次第ってことでオッケー?
とにかくこうして私の新たな日常は始まった。
普通じゃない人間の日常がね!





2002年7月27日